昨年末(2019.12.28)に『「ウソから始まった五輪」の年2020がグダグダになるであろうことを祈念して本年を閉めたいと思います。』と書いたが実際には? では、この先の2020はどうなるのであろうか。最悪のシナリオは、『経済クラッシュ ハイパーインフレ 預金封鎖 新円切り替え』(2019.6.12)に書いた近未来だ。まさかの坂というのもあるので。
『地形の思想史』 その1(原武史著 角川書店 2019年刊)
在席している放送大学で最初に受講した科目が原先生の『日本政治思想史』だった。通信講座なので生で講義を受けることはできないが、学期の中間に提出したレポートには「良くかけているが誤字には気をつけるように」と直筆のコメントが添えられていた。講師が実際に読んでくれるとは思っていなかったので嬉しかった。それまでも原武史氏の著作は読んでいたが、この受講以来僕の中では原先生は恩師になった。
本書は、これまでの著者の研究分野である天皇論、近代政治思想史、さらに団地論、松本清張研究、鉄道オタクなどの知識が「旅」を通じながら総合化され、新しい境地としてエッセイ風に表現されたものである。
第1景「岬」とファミリー
訪れた場所は、静岡県の奥浜名湖に突き出た「岬」。
エピソードは、現上皇が皇太子であった1968年から78年までの間、浜名湖のほとりのプリンス岬と呼ばれる場所にある企業の小さな保養所で毎年夏に一家5人だけのプライベートが確保された疑似マイホーム生活のこと。
昭和という時代は、高度経済成長と都市化、核家族化、そして住宅団地、マイホームに象徴される生活であった。現上皇の子育てはそんな時代に行われた。時代の空気が皇室にも反映され、子どもと同居し自ら子育てを行うなどそれまでとは大きく異なる家族形態をとることができた。
現天皇は、平成の時代に子育てを行ったのであるが、平成は少子化、高齢化、子どもの声が響き渡っていた団地も老人だらけになってしまった。社会が変わると家族の形態も変わる。情報化が進み公人中の公人である天皇家の人々が皇居や御用邸以外の場所でプライベートな空間を確保することは難しかったのだろう。一家水入らずで静養したという話題は聞いたことがない。
第2景「峠」と革命
訪れた場所は、東京都から山梨県にかけての奥多摩の「峠」
エピソードは、明治初期の五日市憲法草案、1952年の日本共産党山村工作隊による小河内「軍事」ダム建設反対運動、1969年の赤軍派による大菩薩峠「福ちゃん荘」軍事訓練の三題話である。
僕は北海道以外の場所で暮らしたことはないのであるが、この辺りの情景は青梅マラソンを一度だけ走ったことがあるので少し想像できる。青梅市をスタート地点にして青梅線と多摩川に沿ってくねくねと曲がる道を上流の方へ、両側を急峻な山に囲まれた深い谷あいを15km登って折り返すコースだった。
三題話の方は、自由民権運動、戦後左翼運動、新左翼運動の中における出来事であるが、原政治思想史ではこれらが天皇論と絡むのである。2013年、現上皇后は誕生日(10月20日)に五日市憲法草案について「世界でも珍しい文化遺産」述べたのである。また、著者も驚いているが、登山好きの現天皇が雅子妃とともに「福ちゃん荘」に立ち寄っているのである。土地には歴史が積み重なっている。そのエリアをつぶさに観察すると左翼の動きと全く相反するような皇室の動きが交錯することがあるのだ。さらに「福ちゃん荘」に寄ってしまうところに皇室の侮れないふところの深さを感じる。
「ブラタモリ」という番組は、その土地の現在の様相を今に至る歴史的な出来事や、もっと時間的なスパンの長い地形や地質の歴史から解き明かしていくユニークな番組だと思う。この「地形の思想史」もこれまでの原思想の根本モチーフを現場で紡いでいく興味ある「旅」シリーズになっていくのではないだろうか。本書では、さらに島、麓、湾、台、半島の5景を訪ねている。