『人間の條件 全6部』(小林正樹監督・脚本 五味川純平原作 1959年~1961年 松竹作品)
主人公の梶(仲代達矢)は、ヒューマニストとして描かれる。戦時下、人間が人間として扱われないような様々な事象に直面しながら梶は悩み闘う。鉱山における中国人捕虜の待遇改善のため会社と衝突する。軍隊内における上官による不合理な暴力と闘う。占領下の民衆のしたたかさと悲惨にぶつかる。戦闘場面では自分が生きるために敵兵を殺さなければならないのみならず、味方も手にかけてしまう。捕虜となった後も収容所内で旧日本軍の秩序を温存しるソ連による間接統治。脱走と絶望的な原野の逃避行。
梶は闘い続ける。そのエネルギーは、お国のためでも無く、天皇陛下のためでも無く、最後には正義のためでも無く、ひたすら生き抜いて、故国に残した妻みちこ(新珠三千代)との再開を果たすために。
人は、正義のために、組織のために、他人のためになどと大義を掲げながら生きている。平時においてはそうと言えるだろう。しかし、自分の生命が極限状況に置かれた瞬間においては、何が人の生を支えるのだろうか。この映画からの答えは「愛」ということであるが。
このような映画をよく作ったものだと驚くと共に、1960年前後は、松竹ヌーベルバーグの旗手にひとりとして大島渚監督らもデビューしている。氏の『青春残酷物語』『日本の夜と霧』は日本映画の中でも特に快作であると思う。しかるに、亡くなった後もTVで追悼上映が無いのも大島らしい。