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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

強い馬づくりのための生産育成技術講座

2008-12-17 | 講習会

Pc170329 今晩は、JRA日高育成牧場による「強い馬づくりのための生産育成技術講座」

4人の獣医師先生が、

繁殖について早期胚死滅を中心とした成績、

仔馬の肢勢についての調査成績、

栄養管理指導者養成の内容と成績、

ブリーズアップセールでのレポジトリーについての成績、

を紹介してくれた。

どの講演も日高での調査・研究成績を解説したものであり、生産者向けの講座だったが、獣医師にとってもたいへん勉強になった。

 いくつも聞きたいことや議論したいことがあったのだが、生産者向けの講座だし、時間のこともあるのでチョッと遠慮した(笑)。

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 教科書や海外の文献を探しても、今晩聴いたような細かいデータはない。

そして、違う条件や環境での成績より自分達の地域の成績こそが貴重で参考になる。

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Pc170326 Pc170328ごちそうさま!!

                                


金属異物?

2008-12-16 | 急性腹症

P5130102 突然、腹膜炎を起こした繁殖雌馬。

空腸に穿孔巣が見つかった。

径数mmで、辺縁に多少の出血はあるが、潰瘍などの損傷がある組織が穿孔したようには見えない。

いきなり小腸に穴があくとしたら・・・・・

何か鋭利な異物でも食べてしまったのか・・・・・・?

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このように、小腸の突然の穿孔による腹膜炎症例を解剖や手術で経験することがある。

たいてい穿孔の原因は確定できないが、穿孔部位近くに針金が見つかったことが、開腹手術例で1頭、剖検例で1頭あった。

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Pc160324 食道梗塞(のどづまり)を起こした育成馬。

どうも通過がおかしいのでx線撮影したら、詰まっているところに金属異物が映った。

ひっかかっていた食物が洗い流せても、食道に刺さりこんだ針金が抜けない。

針金は食道を穿孔し、その周囲には感染・汚染が起こっている。

内視鏡で観ながら、生検鉗子で針金をはさんで抜こうとしたが抜けなかった。

 このように食道に針金が刺さっている症例を2頭診たことがある。

その他に、原因が確定できなかったが、突然食道穿孔を起こした馬を2頭診たことがある。

鋭利なものを食べる以外に原因は考えにくい。

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 馬は牛のように金属異物を食べてしまったりしないと考えられているなら間違いだろう。

馬にとっても鋭利な金属や針金が食物に混入することはたいへん危険なのだ。

このことは馬の外科学の教科書にもきちんとは記載されていない。

症例報告に基づいて、馬にも金属異物による消化管穿孔の危険があることを記載すべきではないかと、馬医者のメーリングリストで述べたら、

かの大先生 Dr.David Freemanに「教科書にも枚数制限がある。何もかもを記載することはできない。」と反論された。

馬外科学の教科書 Equine Surgery のその章を記載しているのはDr.Freemanだった(汗)。

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きのうは午後から繁殖雌馬の急性腹症の開腹手術2頭。

今日は忘年会。

                    忘れてしまいたいことや~♪ 


結腸便秘の開腹手術

2008-12-15 | 急性腹症

Ca360190 結腸便秘とわかっていながら、内科治療には反応しないだろうということで開腹手術した。

破裂しかねないほど膨満した腹側結腸。

骨盤曲を境に、背側結腸には内容はほとんどない。

大結腸は骨盤曲でヘアピンカーブし、急に細くなっているので、骨盤曲で便秘し易い。

しかし、こんなに極端なのは珍しい。

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便秘は早期に便秘だと診断して、絶食させて便秘が解消されるまで徹底して治療した方が良い。

食欲があるから、痛みがないからといって食べさせていると、どんどん貯まって重症化する。

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Ca360192 破裂させないように注意しながら結腸を引っ張り出したら、

あとは結腸捻転と同じ。

結腸内容を洗い出して、腹へ腸管をしまって閉じる。


朝のお仕事

2008-12-14 | How to 馬医者修行

Pc090284 朝、

覚醒室で、

ホイストを適当な高さにして、

まずはぶらさがる。

Pc090286上腕二頭筋に効く。

そのまま懸垂すれば胸筋や背背筋にも効く。

腹筋も鍛えたいので、

肢を上げて・・・・・

Pc090287 逆上がり。

私の仕事は筋力がなくてもできる。

しかし、筋力があった方が楽に、上手に、早く、一人でできる。

結腸を引っ張り出す時や、難産児の肢を引っ張るとき、

x線撮影装置をぶれずに持つためにも筋力があった方が良い。

無酸素的な筋力トレイニングは私のような高血圧人間には良くないのだが・・・・・

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Pc120314 Tieback 喉頭形成術1ヶ月後の喉頭内視鏡検査。Pc120313

左披裂軟骨はかなり牽引され外転している(左)。

右披裂軟骨が開くとかなり気道は広くなる(右)。

右披裂軟骨は競走中はもっと開くはずだ。

声嚢声帯も切除しているので喉頭の下半分を覆うV字の声帯もほとんど残っていない。


診断しにくい疝痛

2008-12-13 | 急性腹症

Pc090289 前の夜から疝痛を示している1歳馬。

育成牧場へ移って、10日ほど。

ゴロゴロ転がるほど痛いわけではないが、肢を投げ出して寝る。

食欲もあまりない。

体を伸ばすような姿勢をする(左)。

直腸検査でははっきりした異常は感じない。

超音波画像診断でもはっきりした異常はない。

血液検査では、PCV46%、乳酸値は0.8mmol/?。

輸液だけして様子を診ることにした。 

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結局、午後になってもまだ痛い。

直腸検査でははっきりした異常は感じない。しかし、結腸にわずかに肥厚した部分があるような気もする。

超音波でもはっきりした異常は確認できない。しかし、結腸壁にわずかに肥厚している部分があるように見える。

胃内視鏡検査では見える範囲に胃潰瘍はない。

類症鑑別は・・・・・

・結腸左背側変位。これは直腸検査で脾臓と左腎臓の間に触れることができたので否定。

・回盲部重積or狭窄。小腸の膨満が超音波画像や直腸検査で確認できないので、ほぼ否定。

・胃潰瘍。見える範囲には胃潰瘍がないので、ほぼ否定。

20時間以上疝痛が続いているので、開腹手術を勧めなければいけないのかもしれないが、できれば開腹手術したくない馬なのはわかっている・・・・・

便秘の確信がないのに下剤をかけるのはめったにしないことなのだが、硫酸ナトリウムを250g経鼻投与してみた。

結果、疝痛はひどくなって、開腹手術することになった。

開腹手術してみると、結腸捻転だった。

といっても結腸にはチアノーゼはなく、肥厚もほとんどない。わずかに結腸動脈周囲に浮腫があるだけ。

切開した結腸骨盤曲の粘膜も正常。

それでも、盲腸と位置が入れ替わり、腹腔から引っ張り出すのには少し苦労した。

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 体を伸ばすような姿勢は、疝痛の時の症状のひとつだ。

結腸が膨満する疝痛のときにこの姿勢をする馬もいるし、

胃拡張の時にこの姿勢をする馬もいる。

鼠径ヘルニアの時にこの姿勢をしめした種雄馬も診たことがある。

診断の鍵にはならないか・・・・・・・

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 痛みがひどくなかったり、全身状態がそれほど悪くならない疝痛はかえって開腹手術する決断がつきにくい。

それでも慎重に経過を診て、良くならないようなら手遅れにならないうちに開腹手術する判断をしなければならない。

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 今日は、繁殖雌馬の後肢のsarcoid類肉腫の切除手術。

全身麻酔からの覚醒が悪く、胆を冷やす。

頚にまたがってキャメルクラッチホールド。息が切れる。

 続いて、繁殖雌馬のEthmoid hematoma 篩骨血腫。

ホルマリン注入療法の2回目なのだが、位置が悪く、うまくいかない。

 午後は、1歳馬の副鼻腔蓄膿。円鋸した穴と鼻から膿性鼻汁が流れ出す。

その後、1歳馬の下顎の切歯骨骨折。ほとんど歯は抜けてしまっており、なんとかワイヤー固定したが厳しい。

・・・今日は土曜日だゼ・・・・・・・