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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

診療同意書

2008-12-24 | 人医療と馬医療

 手術や麻酔をする前には、馬を連れてきた人に診療同意書にサインをもらっている。Dsc_0007

説明と同意(インフォームドコンセント)が大事なのはわかる。

しかし、その病気の状態についても理解してもらうまでよく説明しようとすると、とても馬をもったままできる話でないことも多い。

(人は人間の病気については多少なりとも聴き覚えがあることが多いだろう。心臓病とか、癌とか、脳出血とか。

しかし、例えば馬の喉嚢がどこにあって、脳神経や動脈がどう分布していて、その手術の成績がどれくらいで、どんな併発症があるかなんて説明し始めたら、獣医さんむけだって30分以上かかる講演になってしまう。

第一、正確に説明しようにも、人医療に比べて馬医療の情報ははるかに少ない。)

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 馬を連れてきた人が馬の実際の所有者ではないことも多い。

あらかじめ馬の所有者のサインをもらっておくとしたら、一旦きちんと診断をして治療方針を立ててから、馬の所有者に説明して同意をもらう必要がある。

人のように診察のために来院。Dsc_0016

精密検査のために来院か入院。

説明を聞くために来院。

手術はその後。

などと言うことは獣医療では成り立たない。

所有者側も獣医師側も望んでいないだろう。

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 昔は、牧場にはひとりの信頼できる獣医師がいて、何があってもその先生まかせ。

その先生が治せなかったら諦めるしかなかった。

しかし、獣医療も進歩し、何もかもできる獣医師はいなくなった。

繁殖管理は誰先生、仔馬の治療は誰先生、育成馬の運動器は誰先生、手術になったら誰先生。

しかし、獣医師は専門分野が分かれているわけではなく、専門分野での知識や技術を保証するものはなく、各獣医師がどの分野が得意かも標榜してはいない。

誰を信頼して良いのかわかりにくくなっている。

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 人が手術を受ける時の、インフォームドコンセントに関する書類の一例。

(でどころは心臓外科のお医者さんのブログだが、馬関係者のアクセスが増えるとかえって迷惑だろうから紹介しないでおく)

入院なさる患者様へ
入院療養計画書
個人情報保護に関する同意書
感染症検査同意書
アレルギーに関する問診書
輸血同意書
血液製剤使用同意書
手術処置承諾書
身体抑制に関する同意書
データベース登録同意書
人工臓器使用登録同意書
退院なさる患者様へ

読んで、片っ端からサインするだけでも2-30分かかるだろう。

笑っちゃいけない。

獣医療も後を追っている。

「センセイにやってもらって駄目だったらあきらめるワ」

と言えた、言ってもらえた時代が良かったと嘆くようになるだろう。

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Dsc_0028_3 カメラを買ったのは、空が撮りたかったから。

嘘っ!


Hoof Blog

2008-12-23 | 蹄病学

Drkuwano わっ!

誰か知ってる人が写ってるぞ。

何度か紹介したことがあるFran Jurga's Hoof Blog.

AAEPで行われた装蹄師の集まり。

AAEPは着々と世界中から馬関係者を集めようとしている。

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このHoof Blog のオーナーは、きっと装蹄師で、だからたぶんゴッツイ腕をしたオッサンなのだと思っていたが・・・・

オーナーはこの人。

Fran_jurga_2  毛むくじゃらのゴッツイ腕ではなさそうだ(笑)。


乗馬のTieback

2008-12-22 | 呼吸器外科

乗馬の喉頭片麻痺の症例。

術前の内視鏡検査では、左披裂軟骨もわずかには動いているようにも見えたが、

輪状軟骨の左背側を触っても、背側披裂輪状筋の盛り上がりを触れない。

背側披裂輪状筋は、披裂軟骨と輪状軟骨を結んでいる筋肉で、麻痺によりこの筋肉が萎縮すると、披裂軟骨筋突起を後に引けなくなり、左披裂軟骨を外転させられなくなる。

喉頭片麻痺の診断法のひとつに、喉頭の触診が挙げられる。

教科書には、披裂軟骨筋突起の触診が書かれているが、私は背側披裂輪状筋を触った方が良いのではないかと思っている。

                           -Pb260011

手術してみると背側披裂輪状筋はかなり萎縮しているのを目視できた。

正常なもの(右)に比べると、5%も残っていないだろう。

手術適応だということだ。

Tiebackt1 手術は Securos Equine Tieback Kit (左)を使用。

ナイロンコードは今まで報告されてきたどの糸よりも丈夫だろう。

手で糸を引っ張るのではなく器具でコードを引っ張って披裂軟骨を外転させる。

力はいくらでもかけられるし、調節も容易。

結紮の代わりにステンレス製のクランプで留める。

結び目が緩むことはない。

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しかし、軟部組織が痩せることでナイロンコードのテンションも緩むので、手術時は強めに牽引する必要がある。

この牽引が強すぎると、咳や誤嚥や肺炎を引き起こす。

披裂軟骨のどの程度の外転が必要かは馬が求められる運動能力にもよる。

平地のサラブレッド競走馬は相当外転させないと、他の馬との競走に勝てない。

この乗馬は・・・・オリンピックを目指したいそうなので、かなりの外転が必要かもしれない。

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Pc220359 今朝は久しぶりの積雪。

明日から寒くなるらしい。


年末の日曜日

2008-12-22 | 日常

当歳馬の鼻涙管閉塞。Pc090306

数ヶ月、涙や目やにが出て止まらない。

鼻涙管(右図;Equine field surgery より)の鼻側開口部がない。

切開して、眼側の開口部から入れたカテーテルを数週間通しておく。

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その後、繁殖雌馬の披裂軟骨炎による呼吸障害への永続的気管切開。Pc060076

披裂軟骨炎は難しい病気だ。

原因もはっきりしないし、確実な治療方法はない。

細菌感染が原因のときは抗生物質療法が効果をあげることもある。

進行すると、呼吸障害に陥る。

永続的気管切開(右写真は別症例)で呼吸路は確保できるが・・・・・・

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セイウンワンダー!

三石産馬!

JRAブリーズアップセール取引馬!

おめでとう!


ニューモデルへの更新

2008-12-20 | 日常

Pc200336 娘用にノートパソコンを買った(左写真の左)。

右の私のより安かったが能力は上で、

私のには入っていないMSオフィスがインストールされていて、

私のよりデザインもおしゃれになった。

windows vista。

3年経つと値打ちのなくなるこの業界、使い倒して元を取るしかない。

ブログが書きたくて買った私のパソコンも充分に楽しませてもらっている。

でも、今なら5万円パソコンでも良かったんだな・・・・・・(涙)。

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検査室のホストコンピューターはMS-DOSで書かれたプログラムで動いていて、WINDOWS95がインストールされている。

この10年以上、何の不自由もなくよく働いてくれた。

作業できなくなるようなトラブルは一度もなかった。

立ち上がりが遅くてイライラするようなことも無かった。

フリーズしたこともない。

近いうちに更新されることが決まっているのだが寂しい気がする。

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Pc190333 格子のむこうの入院馬。

18歳。

生産牧場が繁殖雌馬を更新できない理由のひとつに、

繁殖雌馬を家族扱いしてしまうことがある。

パソコンにさえ思い入れや、感謝の念が湧くのだから、

仕方がないことではある。