手術や麻酔をする前には、馬を連れてきた人に診療同意書にサインをもらっている。
説明と同意(インフォームドコンセント)が大事なのはわかる。
しかし、その病気の状態についても理解してもらうまでよく説明しようとすると、とても馬をもったままできる話でないことも多い。
(人は人間の病気については多少なりとも聴き覚えがあることが多いだろう。心臓病とか、癌とか、脳出血とか。
しかし、例えば馬の喉嚢がどこにあって、脳神経や動脈がどう分布していて、その手術の成績がどれくらいで、どんな併発症があるかなんて説明し始めたら、獣医さんむけだって30分以上かかる講演になってしまう。
第一、正確に説明しようにも、人医療に比べて馬医療の情報ははるかに少ない。)
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馬を連れてきた人が馬の実際の所有者ではないことも多い。
あらかじめ馬の所有者のサインをもらっておくとしたら、一旦きちんと診断をして治療方針を立ててから、馬の所有者に説明して同意をもらう必要がある。
精密検査のために来院か入院。
説明を聞くために来院。
手術はその後。
などと言うことは獣医療では成り立たない。
所有者側も獣医師側も望んでいないだろう。
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昔は、牧場にはひとりの信頼できる獣医師がいて、何があってもその先生まかせ。
その先生が治せなかったら諦めるしかなかった。
しかし、獣医療も進歩し、何もかもできる獣医師はいなくなった。
繁殖管理は誰先生、仔馬の治療は誰先生、育成馬の運動器は誰先生、手術になったら誰先生。
しかし、獣医師は専門分野が分かれているわけではなく、専門分野での知識や技術を保証するものはなく、各獣医師がどの分野が得意かも標榜してはいない。
誰を信頼して良いのかわかりにくくなっている。
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人が手術を受ける時の、インフォームドコンセントに関する書類の一例。
(でどころは心臓外科のお医者さんのブログだが、馬関係者のアクセスが増えるとかえって迷惑だろうから紹介しないでおく)
入院なさる患者様へ
入院療養計画書
個人情報保護に関する同意書
感染症検査同意書
アレルギーに関する問診書
輸血同意書
血液製剤使用同意書
手術処置承諾書
身体抑制に関する同意書
データベース登録同意書
人工臓器使用登録同意書
退院なさる患者様へ
読んで、片っ端からサインするだけでも2-30分かかるだろう。
笑っちゃいけない。
獣医療も後を追っている。
「センセイにやってもらって駄目だったらあきらめるワ」
と言えた、言ってもらえた時代が良かったと嘆くようになるだろう。
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嘘っ!