馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

縫合の基本 Halstedの原則

2023-12-14 | technique

引き続き、整形外科基本手技から。

縫合法の注意事項が表にされている。

①丁寧に止血する

②死腔をなくす

③各層別々に縫う

④できるだけ細い糸を使用する

⑤なるべく密に縫う

⑥糸は軽く結び、結び目近くで切る

Halstedが示した縫合手技の基本だとされているが、Halstedの原則そのままとはちょっとちがう。

Halstedは超有名な外科学の大家。

Auer先生のEquine Surgery 5th ed.にも、外科医のこころえとして「Halstedの原則に則って完遂せよ」とある。

異論はない。

           ー

この「イラスト図解 整形外科基本手技」の表の内容について、馬外科医として検討するなら

丁寧に止血する

もちろんそうなのだが、大動物の手術では傷が大きく長い。丁寧に止血しているととても時間がかかる・・・・

このブログで以前、Equine Surgery 1st.edに書かれていたDr.Orsiniの術創感染を減らすための17箇条を紹介した。

その10、血腫を残すな。

死腔をなくす

もちろん死腔はなくしたいと思ってやっている。しかし、完全にはなくせない。

Dr.Orsiniの17箇条の11.縫合を加えてでも死腔を減らせ

各層別々に縫う

これも原則。

牛のけん部を直切開したら全層縫合(腹膜と全筋層を一緒に縫合する)で良いかもしれない。

馬の開腹手術創でも、私は腹膜と筋層を一緒に縫うことを推奨している。

12. 層同士を正しく合わせなさい、はあくまで原則。

できるだけ細い糸を使用する

体幹・四肢で4-0,5-0,6-0、顔面で6-0,7-0が多く使用される、のだそうだ。

ブラックジャックとか、キャプテンハーロックの時代とはちがうのだな・・・・笑

縫合後、動かない、擦らないヒトの患者さんだから細い糸が使える。

馬だとせいぜい3-0かな。

なるべく密に縫う

これも、丁寧に、痕が残らないように、という配慮が含まれているように思う。

死腔を残さないように密に縫うのは良いが、細かく縫うことで血行を妨げることがないように注意が必要だと思う。

糸は軽く結び、結び目近くで切る

これは結紮をゆるく、と言う意味ではなく、糸のテンションを強くしすぎるな、という意味。(表現方法が間違っていると思う)

糸を強く結ぶと組織は阻血状態となり皮膚壊死と瘢痕を生じる。糸は創縁が接する程度に軽く結ぶ。」とある。

外傷の皮下織を縫合しても、ギュッと糸を締めてしまうとその皮下織は壊死する。皮膚を留め、死腔をなくすために皮下織を縫合しているのだから、ゆるく留めておいた方が良い。

開腹手術創でも、閉腹の糸を締めすぎると腹壁が虚血状態になり、感染しやすく、術創ヘルニアになりやすい。

創縁が接する程度に軽く」極意だろうと思う。

結び目近くで切る。これは患者さんが抜糸の時に大人しく、医師を蹴ったりしないヒト医療での話;笑

               ー

そして、縫合手術に臨む外科医のこころがけ、これも以前に書いたことだが、

悠々として急げ

  make haste slowly

ということだろうか。

             ///////////////

薪割に慣れてくると、ケーキカットとかピザ割と言われる放射線状ではなく、格子状に割るようになるらしい。

その方が、太く割れにくい玉でも割りやすいから。

そして、薪棚に積みやすく、乾きやすい。

薄い破片ができにくい、かもしれない。

薪割り始めて・・8年かな。

 

 

 

 

 

 



8 コメント

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Unknown (zebra)
2023-12-13 06:15:49
原則も字面で都合のいいように解釈していくとさまざまな背反を生みますよね。
これら憲法のように独立せず、すべてリンクしているので尚更だと思います。
つまりいいとこ取りというのもないと言う事か笑

現場術野なんかいくら消毒しても感染飛んでくる落ちてくるなのでそこは念頭においた方が良いと思いますね。
血餅取り頑張ればその分感染も広げるよですとか、糸振り回せばゴミ拾うよですとか。
後は糸引っ張りながらでないと縫合進められない状況はもはやセオリー通用しないよ、というところですかね。
術後でも何かの弾みに創面千切れるか糸切れる前提でいった方が良いと思います。
個人的には膁部でも全層はやらないですね。
隣の牛術創蹴っ飛ばしたりしてますよ笑
針の長さに悪戦苦闘するくらいなら3往復した方が早い。
デッドスペース殺しながら。

薪割り見事ですね。
箸立ての割り箸みたい笑
安物電動薪割りも外から削ぎ割りしないとならんとです。
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Unknown (はとぽっけ)
2023-12-13 06:41:29
 抜糸はできるんですけどね。
 奥のほうを手探りで縫うときはまた違った注意やコツがあるのでしょう。
 3-0 針の選択も先生によって好みが分かれますか?

 ホームセンターで薪割機のデモをしていましたが、こんなふうに割れていました。斧で割れるとは。さすが。
 スパツと奇麗なのより、よく乾いて毛羽立っているほうが好きです。
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>zebraさん (hig)
2023-12-14 05:09:23
法律も条令も憲法違反と判断されれば無効。法律の中でもプライオリティーがあります。獣医学では・・・・原則どうしが背反するなら臨床家の責任においてどちらかを選ばなければならないのでしょう。

現代は、牛の外科手技も膨大な件数行われているので、どういう手技、手法がどれくらいの率で行われいるか、どなたか調査してもらえないでしょうかね。面白い調査になると思うのですが。牛外科を専門とする研究者ってもうほとんど居ないのか・・・・

電動薪割機も興味あります。必要は今のところありません。将来のために・・・・笑
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>はとぽっけさん (hig)
2023-12-14 05:16:42
市販の針付き縫合糸は、糸が細くなると針も小さいのばかりです。大動物には使いづらい点のひとつです。
今使っている吸収性モノフィラメント縫合糸は、かつて使っていた吸収性編糸より同じ太さでも丈夫で、針の切れも良いです。時代の進歩なのかもしれません。

フェザリングと呼ばれる、着火を良くする方法もあるようですね。割るの失敗した割れ目も乾燥と着火のためには意味があると思います。
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Unknown (zebra)
2023-12-15 05:27:55
ご提示の縫合論はHalstedの憲法の応用としての法律条例と言えるのかも知れませんね。
刑事民事が外野外傷手術侵襲みたいな感じになるのか笑
相反も難しいですが、今回のお題に関しましてはコンプライアンスなのかも知れませんね。
結果だめなのにこれで良かったんだよとか、どうでも良いことをえらく面倒にしてしまうとか、そういうことなのなど思いますし人柄なのでしょうね。

外科アプローチは古い報告の方が多様性に富んでいると思います。
若い人が紆余曲折知らずに、よく考えずに、それを引っ張り出してきてもう一回やってみようでは被害者が増えるので、なぜ集約されてきたのか四方山話込みで説明していただくのは権威の方にしかできない仕事だと思いますよ。
治療薬なんかは製造元の都合でどんどん集約されてしまいかつてのアプローチが効かなくなり、自家配合というか民間療法的にならざるを得ない状況になっているところもありますね。
本当はこれ間違いなのでしょう。
しかし、ほっとくしかないのじゃねと言われていた症状でもわかってきた理屈を積み上げてなんとかできるニッチがまだあるみたいなのですよね。
でも、コンプライアンスエラー言われるから話にできない笑
それはほっとくしかない言ってきた人間の戯言かも知れませんけどね。
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>zebraさん (hig)
2023-12-15 12:55:52
Halstedは1900年代の外科医ですから、抗生物質が使えなかった時代です。その時代の縫合の原則が今もかなり当てはまる、ということに素直に驚くべきなのかもしれません。そして、先人の努力と試行錯誤に感謝すべきなのでしょう。
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Unknown (zebra)
2023-12-16 05:56:06
抗生物質使えないからこそシビアな進化が要求されたのかも知れませんね。
ステープルでとか、何となりゃアロンアルファなんて当時の技術者からちゃぶ台投げらるでしょうね。
それでもリスク再検討は必要なのでしょう。
縫合なら糸も変わってますから。
同じ轍を踏まない事が先駆者への最大の敬意かも知れませんね。
そのスジの信用に進歩がなければ過去の挑戦の価値が高まらない。
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>zebraさん (hig)
2023-12-17 05:18:17
抗生物質が使えず、細菌学や衛生学の知見に乏しかった時代の外科医は手技にこだわらなければならなかったのでしょうね。ステープラーで留めといて、とか、皮膚用ボンドで貼っとくか?はありえなかったでしょうし。

包帯ひとつでも、粘着性包帯、伸縮性包帯がなかった時代の包帯法を見返してみるべきだと思いますね。現代にも役立つと思います。
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