馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

骨折の応急処置

2006-04-20 | 整形外科

P1xray 左は珍しいタイプの第一指骨骨折。気性の激しい種馬で、パドックで暴れていると思ったら骨折していたそうだ。このX線像だとわかりにくいが、第一指骨を前後に割った骨折線はほとんど骨の全長にわたっており、他の骨折線もあり、第一指骨はバラバラになる寸前だった。

すぐにキャストをつま先まで巻いて、翌日手術に来た。

覚醒室に入れて、鎮静剤をうった。前肢を骨折し、キャストを支えに立っているというのに、覚醒室の壁を後肢で思い切り蹴った。

スポンジとゴムを張ってある覚醒室の壁が切れた。凶暴な牡馬だった。

P1_1 スクリュー5本でなんとかほとんどの骨折線が見えなくなるように内固定した。

この種馬はその後も元気に種馬をしていた。種付け頭数は多くなかったけど。

こういう症例を助けられるかどうかは応急処置にかかっている。キャストをうまく巻けるかどうか。折れた骨に体重がかかって、骨折が悪化しないようにできるかどうかにかかっている。

 基本的には球節はまっすぐになるようにキャストは巻かなければならない。馬が肢に体重をかけると、球節が沈む。そうならないように固定しておくことで骨が体重を支えるのを防ぐ。

また、つま先まで、すなわち蹄尖部を覆うように巻かなければならない。でないと馬は蹄に体重をかけ、その体重は骨を通ってしまう。

つま先まで覆うことではじめて、馬の体重はキャストにかかり、骨を通らないで折れた部位より近位へと伝えられる。

 立ったままの馬でキャストをそのように巻くのが難しいのはわかる。まして、凶暴な種馬ならなおのことだ。

正しい応急処置は手術以上に重要かもしれない。手術に来て、骨折が悪化していて手術できる状態でなくなっていたことも少なくない。

正しい初期治療をして馬を助けた獣医師は、もっと褒めてもらっていいと思う。

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 年に何頭も人が巻いたキャストをはずす。うまく巻いてくる先生は限られている。

蹄尖を出している。これがまずい理由は先に書いたとおり。

下巻きが多すぎる。そのため肢が固定も圧迫もされていない。固定されないなら、バンデージで圧迫だけでもした方がましだ。

キャストずれを心配するのだろうが、球節をまっすぐになるようにし、つま先を出さなければキャストのなかで球節は沈下する動きをしない。厚い下巻きは必要ない。

Dscn6374  左は中手骨の縦骨折に巻いて来られたキャストの上から撮影したX線画像。

キャストが短すぎて、球節は固定されていない。下巻きが厚すぎてキャストの中で肢が動いてしまう。肢先が出ているので、馬は「しっかり」骨に体重をかけている。

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 馬はしばしば暴れて、骨折を悪化させてしまう。正しい応急処置をして手術にくれば、今はかなりの骨折は助けられる。

 Nunamaker先生も言っている。「もう、骨折馬は助けられるかどうかは獣医師の能力の問題ではなく、経済的な問題に過ぎなくなっている」と。

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うーん。よいしょっ!!                 気をつけ!!


4 コメント

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いつも基礎的な質問ですいません・・・。 (けいちち)
2006-04-20 22:34:55
いつも基礎的な質問ですいません・・・。

第一指骨骨折の応急処置の場合、キャストは蹄尖を覆い、球節の上まで巻く感じでいいのでしょうか?真っ直ぐになるように。
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>けいちちさん (hig)
2006-04-21 06:14:21
>けいちちさん
 第一指骨の場合、腕節のすぐ下から巻きます。蹄尖まで覆うように、真っ直ぐになるように。
 今度、写真お見せします。
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初診の先生は (kiri)
2006-04-21 23:19:04
初診の先生は
そんな暴れちゃんの足にどうやってキャストを巻いたのでしょう?
馬の足って細いから
下手にがっちり保定すると力がかかった時にボキッとやっちゃいそうですが・・・

第一指骨や中手骨の骨折って、わりとよく見る症例なんですか?

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>kiriさん (hig)
2006-04-22 05:53:27
>kiriさん
 サラブレッドは枠場に縛り付けたりはできません。せいぜい鎮静剤をうって、鼻ネジして、でしょうか。
 痛がって肢を持ち上げているので案外巻きやすいこともあります。狂ってしまって、暴れて開放骨折になってしまうことも少なくありませんが・・・・・
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