日曜日は小学校の運動会だった。
休みだったM先生から電話が来たので、アキレス腱でも切ったんじゃないだろうな?と思ったら、
上腕骨骨折、という。
いや、人じゃなくて馬が。
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折れ方としては悪くない。
骨幹中央部。
粉砕していないし、ピースもなさそうだ。
雌馬で繁殖供用でも良いとのこと。
それならやってみる価値はある。
ただし、試してみるなどというものではなく、苦闘の数時間になるのは経験済み。
成書に載っている見事なORIF open reduction and internal fixation の成功例の写真だけが励まし。
AO Vet のHPにも未だに上腕骨だけは手引きの記述がない。
世界的にも誰も手引きをかけるほど経験がないのだろう。
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上腕骨骨幹部骨折では、アプローチはcranial approach が良い。
「家畜診療」には外側からアプローチする方法を書いてしまったが、外側からアプローチすると橈骨神経の処理が難しい。
そして頭側にプレートを乗せにくい。
とくに遠位部は内側顆に乗せたいので、頭側アプローチが好ましい。
口でいうほど、そして人がやったX線画像を観て思うほど容易ではない。
ほとんど完全に整復し、骨鉗子で仮固定できているように見えるが、骨折部を触るとピッタリあっていない隙間を触ることができる。
かなり肢をひっぱり上げているのだが、外反するようにずれているのかもしれない。
それと捻れもあるのかもしれない。
完璧な整復を求めても、いたずらに時間を消耗し、腕や指も萎えていく。
なんとか仮止めのlag screwをうった。
このscrewはとにかく手早くしっかり締めたいので長いものを使った。
もう1本仮止めのlag screwをうって、こちらは短いものに差し替えて、その上にプレートを乗せる・・・つもりだった。
しかし、うっかりこのscrewを差し替えずにプレートを乗せてしまった。
結局、プレートを回転させ、長すぎたlag screwを差し替え、余計な手間がかかった。
そのおかげで、骨折部に正しい位置と角度でプレートスクリューを入れることができた。
外側に2枚目のLCPを当てたい。
100kgまでならブロードプレート1枚で行けるが、この子馬はもう186kg。
頭側からアプローチしているので、これもキツイ。
上腕骨はとても難しい形状をしている。
太く、短く、捻れていて、遠位部の尾側には大きな尺骨頭窩がある。
当てるプレートも大きく反らさなければいけないが、大きく曲げると、それに固定したLCPドリルガイドが他のscrew holeへのアプローチを邪魔する。
位置と角度が悪くないのを確認したら・・・・
あとはできるだけLHSを入れたいが、頭側のplate screws と当たるかもしれない。
LHSドリルガイドに3.2mmドリルガイドを差し込んで、3.2mmドリルビットで穴を開けて、当たらなければ4.3mmドリルで穴を開けなおして、LHSを入れる。
外側のLCPは6穴を使ったが、7あるいは8穴でも良かったかもしれない。
肩から肘の先まで切り分けている。
傷を閉じるのもたいへんだ。
手術時間は3時間あまり。
3つの器械台に満載の器具とscrewなども洗浄しなければならない。
翌日午前もプレートを入れるかもしれない骨折手術が予定されていた。
ざっと片づけが終わって夜9時。
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麻酔からの覚醒起立が問題なのはわかっていた。
今回は、Madigan loop rope を使ってみた。
しかし、あまり効果はなく、この子馬が3本肢で起立できたのは夜中3時だったそうだ。
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翌朝、 久しぶりの雨。
草木も生き返るようだった。
職場へ戻ったら、なんと結腸捻転の手術中。
時間を遅らせて、2歳馬の中足骨内顆からの骨折のscrew固定手術。
午後は、脛骨近位成長板骨折が治癒した当歳馬のプレート抜去手術。
おまけに1歳馬の中足骨部の外傷縫合。
いやいやお疲れ様でした。