goo blog サービス終了のお知らせ 

馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

186kgの上腕骨骨折 double LCP

2019-06-18 | 整形外科

日曜日は小学校の運動会だった。

休みだったM先生から電話が来たので、アキレス腱でも切ったんじゃないだろうな?と思ったら、

上腕骨骨折、という。

いや、人じゃなくて馬が。

              -

折れ方としては悪くない。

骨幹中央部。

粉砕していないし、ピースもなさそうだ。

雌馬で繁殖供用でも良いとのこと。

それならやってみる価値はある。

ただし、試してみるなどというものではなく、苦闘の数時間になるのは経験済み。

成書に載っている見事なORIF open reduction and internal fixation の成功例の写真だけが励まし。

AO Vet のHPにも未だに上腕骨だけは手引きの記述がない。

世界的にも誰も手引きをかけるほど経験がないのだろう。

             -

上腕骨骨幹部骨折では、アプローチはcranial approach が良い。

「家畜診療」には外側からアプローチする方法を書いてしまったが、外側からアプローチすると橈骨神経の処理が難しい。

そして頭側にプレートを乗せにくい。

とくに遠位部は内側顆に乗せたいので、頭側アプローチが好ましい

口でいうほど、そして人がやったX線画像を観て思うほど容易ではない。

ほとんど完全に整復し、骨鉗子で仮固定できているように見えるが、骨折部を触るとピッタリあっていない隙間を触ることができる。

かなり肢をひっぱり上げているのだが、外反するようにずれているのかもしれない。

それと捻れもあるのかもしれない。

完璧な整復を求めても、いたずらに時間を消耗し、腕や指も萎えていく。

なんとか仮止めのlag screwをうった。

このscrewはとにかく手早くしっかり締めたいので長いものを使った。

もう1本仮止めのlag screwをうって、こちらは短いものに差し替えて、その上にプレートを乗せる・・・つもりだった。

しかし、うっかりこのscrewを差し替えずにプレートを乗せてしまった。

結局、プレートを回転させ、長すぎたlag screwを差し替え、余計な手間がかかった。

そのおかげで、骨折部に正しい位置と角度でプレートスクリューを入れることができた。

外側に2枚目のLCPを当てたい。

100kgまでならブロードプレート1枚で行けるが、この子馬はもう186kg。

頭側からアプローチしているので、これもキツイ。

上腕骨はとても難しい形状をしている。

太く、短く、捻れていて、遠位部の尾側には大きな尺骨頭窩がある。

当てるプレートも大きく反らさなければいけないが、大きく曲げると、それに固定したLCPドリルガイドが他のscrew holeへのアプローチを邪魔する。

push-pull deviceで仮止めして・・

位置と角度が悪くないのを確認したら・・・・

あとはできるだけLHSを入れたいが、頭側のplate screws と当たるかもしれない。

LHSドリルガイドに3.2mmドリルガイドを差し込んで、3.2mmドリルビットで穴を開けて、当たらなければ4.3mmドリルで穴を開けなおして、LHSを入れる。

外側のLCPは6穴を使ったが、7あるいは8穴でも良かったかもしれない。

肩から肘の先まで切り分けている。

傷を閉じるのもたいへんだ。

手術時間は3時間あまり。

3つの器械台に満載の器具とscrewなども洗浄しなければならない。

翌日午前もプレートを入れるかもしれない骨折手術が予定されていた。

ざっと片づけが終わって夜9時。

                   -

麻酔からの覚醒起立が問題なのはわかっていた。

今回は、Madigan loop rope を使ってみた。

しかし、あまり効果はなく、この子馬が3本肢で起立できたのは夜中3時だったそうだ。

                    /////////////////

 

 

翌朝、 久しぶりの雨。

草木も生き返るようだった。

職場へ戻ったら、なんと結腸捻転の手術中。

時間を遅らせて、2歳馬の中足骨内顆からの骨折のscrew固定手術。

午後は、脛骨近位成長板骨折が治癒した当歳馬のプレート抜去手術。

おまけに1歳馬の中足骨部の外傷縫合。

いやいやお疲れ様でした。