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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

コーネルカラーあるいはVet-Aire

2006-03-14 | 呼吸器外科

P3140004 今朝の鳥の餌台の様子。雪で自然の餌が探せなくなるのか、スズメがいつまでも餌台で餌を食べていた。

野鳥の餌台も野生動物の餌付けになるのかもしれない。いいんだろうか?

よく来るのは、カラスにスズメにカワラヒワ。窓の近くにあるので警戒心の強い鳥は来ないのかもしれない。

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  さて、DDSP軟口蓋背方変位は、この時期の育成牧場にとって頭が痛い問題だと思う。トレーニング強度を上げて行きたいのに、運動の途中からブルブル、ゲロゲロ喉鳴りして調教を進められない。

内視鏡検査してもらうと、DDSPだね。と言われてしまう。

図のコーネルカラー(これが商品名なのだろうがVet-Aireヴェットエアー?のほうが定着しそうな気がする)は、DDSPを防ぐ馬具。

喉頭を下から持ち上げることで、DDSPが起こるのを予防する。だいたいDDSP軟口蓋背方変位とよいう呼び方が良くなくて、本当は喉頭蓋腹方変位と呼んだ方が良いと思う。軟口蓋が喉頭蓋に乗っかってしまうのではなくて、喉頭蓋が軟口蓋の下へ落ちてしまうという表現の方が正しいでしょう?

購入して使う症例を待っていたが、最近はDDSPで相談されることが少なくなってしまった。「舌縛りなどをしながらだましだまし調教しているうちにDDSPを起こさなくなるよ」と言われるのを育成牧場ももうわかっているからInstructions1だろう。

先日からをDDSPを起こす馬で試してもらった。

結果は上々。DDSPを起こさずハロン16-17までできたとのこと。

Ventview

開発したグループは、Tie forwardと呼ぶ喉頭を前方の舌骨へ引っ張る新しい手術方法も開発したが、コーネルカラーもTieForward手術も8割の成功率だったとのこと。

DDSPを起こす育成馬はコーネルカラーを着けて調教しながら馬が成熟するのを待ち、馬が精神的にも肉体的にも強くなってDDSPを起こさなくなればそれで良いし、もしいつまでもDDSPを起こすようならTieForward手術を考える。というのをこれからの方針にしたい。

試してみたい人には貸し出しもしようと思うが、 http://www.vet-aire.com/ で買える。と思う。私もそこで買ったから。


Tie backの新兵器と秘術

2006-03-09 | 呼吸器外科

P3090023 馬が大きく息を吸ったり、走っているときには、空気を大量に吸い込めるように披裂軟骨は左右上方に開く(左)。

P3090021_1 しかし喉頭片麻痺の馬は、右の写真のように左の披裂軟骨が麻痺して落ち込んでおり、安静時も左右不対称に見える。鼻を塞いで深呼吸させても左の披裂軟骨は開かないか、あるいは開きが悪い。

こういう馬は、運動中に気道の陰圧が高まると、 左

P3090020の写真のように左の披裂軟骨が気管の入り口を塞いでしまう(虚脱)。

こうならないように左の披裂軟骨の一部(筋突起)に糸をかけて、後ろ(尾側)へ引っ張る TieBack ことで運動能力を取り戻させようというのが喉頭形成術。

P3090025_1  糸のかけ方は左の図のとおり。できるだけ背側正中へ向けて引っ張る方が左披裂軟骨が「良い」開き方をする。しかし、これがなかなか難しい。下の3連の写真の左は左披裂軟骨が麻痺した喉頭。中央は中程度にTie backされた写真。右は引っ張りすぎた状態。

できるだけ開いていた方が良いと言うわけではなく、開きすぎると咳が続いたり、誤嚥するようになる。で、目いっぱい開いているのではなく、適度に開いており、気道を塞ぐような虚脱を起こさないようにすることが大事だと考えられている。

また、術後はきちんと開いていても、術後数週間でゆるむことがある。これが喉頭形成術Tie back の難しさであり課題だ。Tiebackt1_2(以上写真はEquine Surgery 3rd edより)

で、新兵器。右はSECUROS社http://www.securos.com/newprods-0402.htmlのTieBackシステム。いままで使われてきた糸より太いナイロンコードを軟骨にかけ、専用の道具で強力に引っ張り、それを金具で止めることでゆるみをなくす。これを今年から使い始めた。今のところ今までの糸と併用し、糸を1本、ナイロンコードを1本使っている。これはJRAの先生に教えてもらった。

ペンシルバニア大学のDr.ParenteはAAEPの講演で、喉頭の軟骨同士の関節を壊しておけば、TieBackされた状態で癒着し、後で糸を切ってもTieBack状態が持続することを報告していた。まだ実験段階の報告だったが、私はTieBackしたときに開き易いように、そしてゆるみにくいように軟骨の間の接合を鋏で切っている。これはケンタッキーでも指折りの馬病院Hagyard-Davidson-McGee http://www.hagyard.com/の先生に教わった。

そして、基本的には声嚢・声帯切除を併用していこうと考えている。すこしでも成功率100%に近づけるように。


Tie back and Cordectomy

2006-03-08 | 呼吸器外科

Photo_14   呼吸器外科などという科目があるのかどうか知らない。しかし、競走馬の診療の中では「のど鳴り」は避けて通れない。

呼吸器の能力は競走タイムに直結するという研究報告もある。すなわち競走馬は呼吸器系の能力を最大限使っており、それが妨げられると競走能力が落ちてしまう。そこで手術でなんとかできる可能性のある「のど鳴り」は何とかしようということなる。

右上の写真は、喉の手術を行っている者には衝撃と納得を与えた。昨年のAAEPで発表されたのだが、喉頭形成手術の後もパフォーマンスが良くない馬に、左の披裂軟骨以外の部分の虚脱が認められたという写真。

左の披裂軟骨は手術により開いた状態で固定されているのに、右の披裂喉頭蓋飛皺襞と左の声帯が虚脱している。

Tiebackがうまくいっているのにパフォーマンスが改善されない症例については納得できる理由を。声嚢・声帯切除はのど鳴りの音は変えても、パフォーマンスは改善しないと考えていた者には驚きを与えた。

こういうことを防ぐためには、喉頭形成術 Tie back にあわせて声嚢摘出や声帯切除 cordectomy も行ったほうが良いということになる。

私の尊敬するケンタッキーの馬外科医は、「Tie backの成功率は50%だ。それ以上の成功率を報告している者もいるが、そんなことはない。」と言っていた。たいへん率直で正直な意見だ。

彼は1年に一度、喉の手術のために呼ばれて日本へやって来る。昨年12月に来たときも、このAAEPでの報告の話をしたら、Tie backにあわせて声嚢・声帯切除をしていった。

私も今日からTie back 3連チャン。そして来週にもう1頭。少しでも100%に近づけるよう秘術を尽くそう。秘術・新兵器についてはまた今度。

P3020005 新生仔低酸素虚血性脳脊髄症(この病名は普及しないかも。NMS;新生仔不適応症候群の方が言い易いから。)の子馬は退院して行った。 もう戻ってくるなよ!

帝王切開した母馬も退院して行った。

腹膜炎の育成馬は状態悪化し、安楽死することになった。

life and death.

合掌。