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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

裏返す?裏返さない?

2009-10-15 | 麻酔学

以前紹介した「馬の麻酔覚醒」のIn Practice誌の記事(右;これは左横臥)。Pa060826

覚醒室で何をするべきか、すべきでないかも書かれているのだが、

横臥位で麻酔していたなら、覚醒中に低酸素血症になったり、低酸素血症を悪化させないように、覚醒中も同じ側を下にするべきだ。

反対側へ返してはいけない。

と書かれている。

理由は、反対返すと、下になっていなかった肺野に沈降性充血してしまうから。ということのようだ。

う~ん・・・・

横臥位の麻酔では、下になった側の肺は膨らみにくい。血液は下になった肺に集まりやすい。

機能しやすいのは上になった側の肺のようだ。

麻酔中や覚醒中の体位変換は急変のきっかけになることがある。

状態が悪い人や動物では体位変換で循環や呼吸の状態が変わることがあるからだ。

しかし、馬の横臥麻酔の問題のひとつには下になった側の筋肉の虚血性損傷もある。

できるだけそちら側の筋肉が下になり続ける時間を短くしてやることも大切だろう。

う~ん・・・

横臥で手術したときに、覚醒は裏返すべきか、返さざるべきか、それは問題だ。

                         -

ちなみに、

仰臥で手術したときは左下にして覚醒させるべきだ。

と書かれている。

その理由は、右側の肺の方が副葉があって、機能的な換気容積が大きいから。

(私は副葉があるからというより、要は心臓の容積の分、右が大きい。と言ったほうが納得できる)

これも、本当に実験したら左横臥の方が血液ガスの値が良かったりするか疑問だ。

                         -

人も寝るときに仰向けが良いとか、横に寝るなら右・左どちらが良いとか言うようだ。

私は、「心臓を上にした方が負担がかからない」と聞いて、右横臥で寝ていたが、

最近はとある理由で左横臥で寝ることが多い。

体に良いのは、さあどっち?


In Practice

2009-10-07 | 麻酔学

Pa060826 Veterinary Record  はイギリス獣医師会の雑誌なのだが、姉妹誌として、In Practice という雑誌も出るようになった。

2009年の9月号には、

「馬の麻酔からの覚醒 その2 併発症を避ける」

が載っている(左)。

学術的な調査・研究だけが臨床を支えているのではなくて、臨床では(In practice)では、

臨床的な、実際的(practically)な知識や技術が必要とされる。

だから、こういう雑誌のニーズがあるのだろう。

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COMPLICATION arising during recovery from anaesthesia in horses are common and, in many cases, potentially fatal.

馬の麻酔からの覚醒時には併発症が頻発する。そして、多くの場合、致命傷となりうる。

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覚醒室やヘッドギア、デマンドバルブや、起立介助のためのロープの使いかたや、吊起帯、プールなどが紹介されている。

因縁をつけさせてもらえば(笑)

・覚醒室の床がツルツル素材でできている。

これだと乾いているときは良いが、どうしても汗や羊水や血で濡れると滑ってしまう。

・尻尾をひっぱるロープを直接尻尾に結んでいるが、これだと解けなくなるとメインのロープを切らなければならなくなる。

・壁についているロープの支点が突出していて危ない。

そういう現実的な問題こそが、in practice では大切になる。

                         -

Pa060829 同じ号に

「ペットのウサギの歯科疾患」

も載っている。

ウサギの歯と顎の構造は馬に似ているかもしれない。

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小さい口の中で硬い歯を治療Pa060830するのは、それはそれで難しそうだ。

馬の口に腕を入れるのも危ないが、

ウサギの口に指を入れるのも危なそうだ(笑)。


鎮静中も危険

2009-05-21 | 麻酔学

これからレポジトリー用のx線撮影の季節でもあるので書いておこう・・・

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日本で馬に良く使われている鎮静剤はメデトミジン(商品名ドミトール)。

あるいはキシラジン(商品名セラクタールorセデラック)。

用量依存性があり(たくさん投与すれば)しっかり効く。

(ただし、たくさん投与してもある程度以上は効かない。成馬の場合寝てしまったりはしない。)

 あまりフラフラになっても診療しにくいので、目的に合わせて量を加減して投与している。

ただ、馬それぞれによって効き方が異なり、それは投与してみないとわからない。

そして、麻酔でも鎮静でもそうなのだが、興奮してしまっていると効きにくいし、痛いことをすると効きにくいし、覚めてくる。

 もうひとつ忘れてはいけないのだが、

しっかり鎮静されていても、暴れる時は暴れるし、蹴るときは蹴る。

鎮静されているからといって、けっしてゆっくり蹴ったりはしない!

                       -

競走馬の球節の剥離骨折の関節鏡手術。吸入麻酔。

仔馬の蹄内の化膿。診断のため神経ブロック。

仔馬の角膜炎の結膜フラップ切除。鎮静。

繁殖雌馬の鼻腔真菌症と眼球周囲炎。鎮静中暴れる!

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Csc_0187_2  オオジシギの急降下。

ブシュブシュブシュ、ゴゴゴゴゴ、

と騒がしい。

エネルギー使うだろうな~


麻酔覚醒中の開脚

2007-06-08 | 麻酔学

牛は起立不能になると、股を開いてしまいカエルのような格好になりがちだ。

そうなることで、股関節や筋肉を傷めてしまい、二度と立てなくなる。

それで、起立不能になった牛は、後肢を結んでおくことが推奨されている。

P5300420 馬は麻酔覚醒中には後肢は開かず、自分の蹄を反対後肢で踏んでしまう。

しかし、まれに後肢が開いてしまいがちな馬がいる。

肢を自分で閉じられず、良い位置に後肢を置けず、股開きになりかねないので、後肢をそれ以上開かないように結んだりする(左)。

これは牛の診療から学んだ。

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 もう何年も前、後肢が開いてしまうタイプの馬で、覚醒室から出すときに転んで大腿骨を折ってしまった馬がいた。

剖検すると、内転筋が白く変性していた。その理由はわからない。

その後も、後肢が開いてしまうタイプの馬が、開腹手術後の回復が悪く剖検したが、やはり内転筋が変性していた。

仰臥で手術しても、内転筋は圧迫されたりしない。しかし、股を開いた姿勢を保つので内転筋の血行が悪くなる馬がいるのかもしれない。


馬を吊るす時の尻尾の縛り方

2007-03-25 | 麻酔学

麻酔からの覚醒・起立を介助するときに尻尾を結ぶ方法。Photo_214

起立介助し始めた最初の頃はロープを直接尻尾に結んでいた。

しかし、馬を引っ張り起こすために強い力で引くとロープがほどけにくくなる。

丈夫なメインロープがほどけにくくなると面倒だ。

そして、メインロープの端はホイストに固定して、尻尾のカラビナを引き上げるようにすると動滑車の原理になり、引く力の倍の力で引き起こすことができる。

それで4mmのロープで尻尾を縛り、それにつけたカラビナにメインロープを通している。

さて、ちょとコツがいるのは尻尾を縛るロープの縛り方。

P3230219 尻尾は尾骨がなくなった先で折り返す。

その中にまずロープを通し、くるりと周りを巻く。

(ストマックチューブを折り返した尻尾だと思ってください)

もう半周尻尾の周りを回しておいて、

P3230221 もう一度尻尾の折り返しの中を通す。

すると折り返した尻尾の両側にロープの端が出るので、

それにカラビナを通す。

この結び方がほどけてしまわず、はずす時にははずし易い。

P3230223この結び方はオリジナルじゃないかと思う。P3230224

子馬は尻尾の毛が短くてほどけてしまう。

何か良い結び方、あるいは他の方法がないかと考えてはいるのだが・・・・・・・・

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この4mmのロープもクライミング用。

結び目はテグス結び。

私のところでも作業用のロープで馬を引っ張っていてロープが切れたことがある。

他所でもロープが切れた話を聞いたことがある。

そのへんのロープは数百キロの荷重をかけるには信頼性に欠ける。

ちゃんとしたロープを買って使った方が良い。

馬と牛と人の安全のために。

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 今日は、午後4時頃に昼ごはん・・・・・・