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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

馬の頭の吊るし方

2010-04-01 | 麻酔学

全身麻酔した馬は、肢につけた足枷で吊り下げて運ぶ。

しかし、頭を誰か持ってやらなければならない。

これがとっても重い。

成馬の頭はたぶん10kg以上あるだろう。

吊り下げる高さによっては中腰になったりもするので、持ち上げる人の腰に非常に良くない。

おまけにつかむ所は、鼻か耳くらいしかないので持ちにくい。

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P3300111_3

それで、全身麻酔して手術台に載せる馬は、

倒馬前に頭絡(ホルター)をカラビナを付けたものに代えておく(右)。

馬が倒れたら、このカラビナと馬を吊り下げるホイストにロープを通して、 頭を吊り下げる。

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P3300114_2ロープは動滑車の原理が働くように通してあるので、片手で十分保持できる(左)。

馬を手術室から運び出すときも、またロープを付ける(右)。P3300115

この方法を使うようになって、

麻酔担当者の腰の負担は大きく軽減されたと思う。

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nicholさん、どうでしょう?

役に立ちそうですか?

                        


吊起帯による倒馬・覚醒

2010-03-24 | 麻酔学

高齢馬の去勢。P3200058

覚醒のとき、吊起帯を使いたいので、倒馬のときも吊起帯を付けてそのまま倒した。

手術が終わって、覚醒前に吊起帯を付けると、目が覚めたときに吊るされていることに驚いて興奮してしまうので、麻酔の前に吊起帯に馴致しておくと良いとされている。

また、麻酔からの覚醒が非常に危険が予測されるような整形外科の手術馬では、吊起した状態で覚醒させる方法も報告されている。P3200059

どちらにしても、馬の気性や、骨・筋肉の丈夫さ、体重が重要な要素になる。

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 この馬の倒馬はきわめて順調だった。

キャストを巻かずに来てしまった骨折馬とか、

キャスト固定ができない部位の骨折馬の倒馬には使える方法だろう。          

                         -P3200060

この馬の麻酔の覚醒は悪かった。

麻酔薬は肝臓で代謝されるが、高齢になれば肝機能が落ちていても不思議ではない。

吊起帯を付けていて良かったと感じさせるような起立だった。

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この馬のオーナーさんは、馬を大切にする方だった。

託された馬を助けられなかったことも何度かあった。

われわれに苦情も言わず、涙を流しておられた。

最後の依頼にこたえることができて本当に良かった。


覚醒室とヘッドギア

2009-11-12 | 麻酔学

Pb110015 以前、紹介した In Practice の馬の麻酔の文章に出てくる覚醒室の写真。

床は柔らかいのだろうがザラつきがなくて、濡れたら滑りそうだ。

継ぎ目がハッキリしているので、そのうち切れるだろう。

壁が光っているのは問題ない。掃除しやすいかもしれない、

色は好みじゃない(笑)。

覚醒だけに使うのなら良いが、手術にも使うとなると狭すぎる気がする。

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Pb110016 頭部保護用のヘッドギアは皮製のようだ。

おじいちゃんのツイードのジャケットを孫が着るお国柄か?

皮製の馬具はあるときプッツリ切れる。

うちでは、皮製の頭絡は麻酔覚醒には使わない。

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他所の麻酔覚醒に因縁つけている場合ではない。

どこも、試行錯誤しながら、1頭1頭、無事に立たせるために努力しつづけているのだ。

Pb030026 Pb070022 Barbaropoolinset


覚醒室の床

2009-11-11 | 麻酔学

  馬の麻酔覚醒に使われる部屋の床は、世界中でまだ試行錯誤が続けられている。

普通考えるのはマットを敷くことだが、マットの下に肢を突っ込んだりするとかえって危なかったりする。

部屋に敷きつめるほどのマットにすると重くてどうしようもない。

マット自体も、マットの下も汚れるので、いちいち洗って乾かさなければならない。

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Pb100033乾きやすくて、濡れても滑らなくて、掃除しやすくて、馬が暴れても怪我しないクッション性もある床材を貼り付けるか、塗れば良いのだが、そんな材質と構造はまだ定番のものがない。

USAでは、馬の病院向けに仕事をしている業者があるが、

ケンタッキーの獣医師に聞いても、まだまだ理想にはほど遠い。

日本では床のウレタン塗装は、ベランダや屋根の防水塗装をしている

Pb100034

業者さんが頼まれることが多い。

この辺りにはそんな業者さんは多くはないのだが、さすが馬産地、馬が歩くとどれくらい床に負担がかかって、どの素材をどれくらいの厚さにすると耐えられるか経験で知っている。

さて、良いものができるかどうか・・・

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Recovery quality is a very important aspect of equine anesthesia.

覚醒の室は馬の麻酔のとても重要な局面である。

言い換えれば

The quality of the recovery room floor is the most important for equine anesthesia.

覚醒室の床の質は、馬の麻酔でもっとも重要である。

                                                                       -Pb110008

Pb110012とりあえず、こんな感じに仕上がった。

新しいうちは良いのだが、

だんだんゴムチップが磨り減ってすべるようになる。

あまり柔らかいと床が切れるし、柔らかすぎると馬もフラつく。

硬いと骨折の危険が増すだろう。

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Pb090017 「モグラが死んでた」と子供達に言われるのだが、

「たぶんモグラじゃなくてトガリネズミだよ」

と答えてきた。

しかし、トガリネズミは実はげっ歯類(ネズミ目)ではなく、モグラやハリネズミに近いらしい。

この辺りでもっと数がいるはずのヤチネズミやクマネズミの屍骸より、トガリネズミの屍骸の方をよく見かけるのはなぜだろう?

ドンくさそうではあるな・・・


ポニーテールの縛り方

2009-10-19 | 麻酔学

Pa160009 全身麻酔からの覚醒時には頭絡と尻尾にロープを着けて起立介助しているが、

仔馬の尻尾はまだ毛が短く、おとな馬と同じようには縛れない。

それで、細い長めの登山用ロープで、引っ張ると尻尾が絞まるように縛っている。

かがり縫いのようでもある。

チャイニーズロッキングループのような縛り方をする方法もあるかもしれない。

子馬といっても秋には200kg以上ある。

腕力だけで起立介助するのはたいへんだ。

ロープで介助するに越したことはない。

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 近頃は、夜の急患がないので楽だ。

肉体的にも楽だが、精神的にも楽だ。

逆に、年明けのお産が始まる時季から、ほとんど疝痛がなくなるこの時季まで、

急患が来るかもしれないことにどれだけ抑圧されているか気づく。

・・・・と思っていたら、疝痛で呼ばれたが、どうやら手術にはならずに済んだ。

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うん、秋もいい季節だね。