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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

麻酔覚醒 ミネソタ大学のやり方

2011-11-27 | 麻酔学

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YouTube: How do you wake up a horse safely?

馬を安全に全身麻酔できるようになったことは、この30年の馬医療の大きな進歩の1つなのだが、まだまだ完全ではない。

とくに麻酔覚醒の起立時にはどうしようもない骨折や自損事故が起きることがある。

それを防いだり減らす方法はいろいろ考えられ実践もされているが、理想的な方法は確立されていない。

これは、ミネソタ大学のやり方。

覚醒室の床がエアマットになっていて、フワフワで馬が起きにくいようにしておいて、馬がしっかりしてきたら空気を抜いて立たす。

良さそうだが、ペンシルバニア大学のようにプールの中で覚醒させても暴れる馬もいるので、エアマットの上でも大暴れする馬がいないか聞いてみたいところだ。                   

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今日は、後肢の跛行診断とX線撮影。

午後は当歳馬の外傷と鼻梁骨折。

その他にも、当歳馬の前眼房の出血や、繁殖雌馬の肋骨骨折の相談。

雨降りで馬も暴れる日だったのだろうか?


ラフトップ スリップ防止ゴムマット

2011-03-23 | 麻酔学

全身麻酔から安全に起立させることは、馬の麻酔の一番たいせつな部分であることは今まで何度か書いてきた。

言い換えれば、馬の「麻酔事故」の一番多くを、覚醒起立時の骨折事故が占めている。

Pb110008_2 覚醒室の床はかなりの厚さのクッション材を入れて柔らかくし、

表面はゴムチップで凹凸を作って滑りにくくしてある。

濡れると滑りやすいので、できるだけ床を濡れないようにし、

濡れたら拭いたりタオルを敷くようにしている。

しかし、どうしても凹凸は磨耗して平坦になってくるし、

汗や尿や羊水や血液でどうしても濡れてしまうこともある。

P2070889それで、ゴムマットを用意した。

表面は非常に深く細かい凹凸がある。

どうやって加工しているのだろうと思う。

あまり厚くないので、極端に重くはなく、扱いやすい。

P3090950P2070886_2ゴム層の中には繊維が入っていて厚さのわりには丈夫そうだ。

裏地は布でできていて床の上で滑りにくい。

  この表面なら血液や羊水で濡れても滑らないだろう。

ただし、使った後、掃除するのはたいへんそうだ。

馬の毛が絡んだら、一本一本取らないと取れないだろう。

P3100956_5 使ってみたが、良い感じ。

取り扱いに慣れれば、それほどの労力をかけずに使えそうだ。

しかし、いったい何用のマットなんだろう?

どうやって作っているんだろう?

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「がんばれ」じゃなくて、「がんばろう」の方が良いと思うけどな。
披災者の中の、「がんばれ」って言わないで。という気持ちもわかる。
国と地方の財政問題、政治不在、円高、デフレ、産業の空洞化、就職難、etc. 地震と津波の前だって明るい世相でもなく、未来は希望に満ちてはいなかった。
そこへの衝撃だった。
それでも、生きていかないと。
生きられるんだから。






馬の鎮静と麻酔の実際

2011-01-11 | 麻酔学

 馬の鎮静や全身麻酔については、いろいろ書いてきたが、覚醒中の事故の予防や、麻酔にともなうあれこれについてが多く、実際にどのように麻酔しているかは書いてこなかった。

が、質問があったので紹介しておこうと思う。

あっ、その前に、どうして鎮静・麻酔・鎮痛が必要なのかを思い知らせてくれる動画を紹介しておく。                        

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YouTube: Horse kick

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鎮静

  平成20年度に行った鎮静処置は413頭。

今は塩酸メデトミジン(ドミトール)を使うことがほとんど。4-6μg/kg静脈内投与している。

かつては2%塩酸キシラジン(セデラック)を使うことが多かったが、メデトミジンの方が長く効いている。

キシラジンが保険給付薬であることを除けば、同じ鎮静効果を求めるならメデトミジンの方が安くつくと思う。

 メデトミジンに酒石酸ブトルファノール(ベトルファールorスタドール)を併用すると、鎮痛効果を期待できる。

 局所麻酔を上手に使うことも、立位で処置するときのコツであり、安全のためにも大切だ。

浸潤麻酔だけでなく、肢や頭や眼の処置では神経ブロックを使えば、かなりの処置が立位で可能になる。

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全身麻酔

注射麻酔

 平成20年度に行った全身麻酔のうち、後で述べる維持麻酔を用いない注射麻酔は136頭。

これは、メデトミジンでの鎮静ののちに、塩酸ケタミン(ケタミン10%)を約2.5mg/kg静脈内投与している。

たいていはミダゾラム(ドルミカム)かジアゼパム(ホリゾン)を混注している。これにより麻酔時間が延長する。

しっかり鎮静されていれば倒馬はスムーズで、10-20分間ほど馬は寝ている。ただ、麻酔時間は痛いことをするかどうかにもよるので、倒馬して処置するときも局所麻酔を併用することが望ましい。

 麻酔時間を延長したい場合は、キシラジンとケタミンを追注することができる。

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TIVA(Total Intravenous Anesthesia) or トリプルドリップ

 単回あるいは数回の注射麻酔では処置時間が足らないときには、麻酔薬を点滴して維持している。

これは平成20年度は118頭に実施。

25gのGGE(グァイフェネジン・グアヤコールグリセリンエーテル)を5%ブドウ糖500mlに溶かした液に、ケタミン1000mg、キシラジン400mgを加えた液を点滴静注する。

30分から1時間ほどまで麻酔時間を延長できるが、投与量が増えると覚醒が悪くなる。

処置の準備をしっかりしておいて麻酔時間を短くすること、局所麻酔を併用して疼痛や興奮を少なくすることが大切。

かつてはかなりの手術をトリプルドリップで行うことが多かったが、最近は減少傾向にある。

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吸入麻酔

 注射麻酔で倒馬したあと、気管内に管を挿入して、気化性の麻酔ガスを吸わせて麻酔維持する。この吸入麻酔が平成20年度で389頭。

かつてはハロセンを使っていたが、今はイソフルレンかセボフルレンを使っている。

どちらの薬も呼吸抑制があり、自発呼吸が止まってしまうので呼吸器付きの麻酔器で、麻酔医がモニターしながら呼吸も管理している。

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再鎮静

 全身麻酔して処置が終わった後、スムーズな覚醒のためにもう一度鎮静剤を投与することがある。

痛みによる興奮や、まだ代謝されない麻酔薬が残った状態より、鎮静剤で落ち着いて寝ている時間を経てから覚醒して立ち上がるほうが起立状態が良いことが多いからだ。

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注射麻酔、TIVA、吸入麻酔を合わせて平成20年度は643頭に全身麻酔をかけたことになる。たぶん日本で一番多い。

かつては、「麻酔をかけた馬は走らない」とか「麻酔をかけると半年は駄目だ」などと言われたこともあったようだ。

実際に、昔は麻酔方法も手術の結果も望まれるようなものではなかったことも多かったのだろう。

今も、完全に安全な麻酔や、結果の保証のある手術はない。

しかし、鎮静処置や全身麻酔で処置を行うことで、今まで治せなかったものが治せるようになってきた。

必要なときには躊躇なく行うべきだし、馬の獣医師はその準備をしておくべきだろうと思う。

P6040269_2

足枷、去勢馬具、ロープの使用は、吸入麻酔薬や解離性麻酔薬が使われるようになるまで、馬の「麻酔」に不可欠であった。

今はもう、こういうのは麻酔とは呼ばないのだろうと思う。

 


Horse Rescue

2010-10-04 | 麻酔学

吊起帯の使用が望まれる状況にはAndersonslinggood_2

麻酔覚醒だけでなく、

起立不能・困難の馬を立たせること、

蹄葉炎や骨折の治療で肢の負担を減らしてやりたいとき、

そして、どこかへ落ちたりはまり込んで動けなくなった馬を救出するとき

がある。

USAでは、荒地を数日かけて騎乗するような野外騎乗も多く行われているせいか、馬を吊り上げて助け出さなければならないような事故も時たま起こるようだ。P3200060_2

また、Horse rescue のチームがあったり、そのための講習会が行われたりしているのにも驚かされる。

日本でも消防署や消防団は対応してくれるのだろうか・・・・・

この辺の消防団員は牧場関係者も多いので経験や技術はあるかも。

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凱旋門賞。2010

惜しかったね。

しかし、すごいことだ。


牛頭馬頭 ごずめず

2010-05-06 | 麻酔学

先日、尿石症の手術に連れられてきた肥育牛。Photo

たいてい肥育牛は不思議なくらい大人しいのだが、この牛は男3人が持て余していた。

それで、簡単に牛の鼻をつかめる鼻環で鼻をつかんだ。

やっぱり牛には鼻環でしょ。

(右は別症例;この肥育牛は鼻環をしている)

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馬は、極端に鼻捻りを嫌うのもいるが、たいていは鼻捻りがよく効く。

痛くて動けないのだとか、可愛そうだとか思う人もいるようだが、鼻捻子をすると心拍数は下がるとされている。

脳内でエンドルフィンが分泌されて、大人しくなるのだそうだ。

必要なときには遠慮しないで鼻捻子すれば良いと思う。

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地獄で人を責め苛む獄卒は、人の体に牛の頭や馬の頭をしていて「牛頭馬頭(ごずめず)」と呼ばれるのだそうだ。

牛の頭に、馬の頭なら・・・・鼻環に鼻捻子だ。

私は牛頭馬頭など恐れはしない(笑)。