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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

麻酔覚醒起立時の水平あるいは傾斜線の影響

2019-03-09 | 麻酔学

馬は他の動物と同様に前庭と呼ばれる部分で平衡感覚を保っている。

しかし、前庭障害と呼ばれる状態で平衡感覚が侵されることがある。

その場合は、視力で平衡感覚を補正している。

そのことは、平衡感覚障害で頭を傾げている馬を目隠ししてみると傾きがひどくなることでわかる。

前庭障害がある馬を全身麻酔すると、覚醒起立時に傾きがひどくなり、覚醒起立が危ないことがある。

一般に、覚醒室と呼ばれる馬を全身麻酔から起立させる部屋は、壁はクッション材が張られ、床は柔らかく、暗く静かにできるように造られているが、馬が平衡感覚を視線で矯正しやすいようにはデザインされていない。

(カテゴリー「麻酔学」の過去記事を見ていただくと、海外の馬病院の覚醒室がいくつか写っている。

水平線が引かれていたりする覚醒室はない。)

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先日、右へ傾いているTHO(Temporo Hyoid Osteoarthropathy)の馬が来院する前、覚醒室に左へ30°傾いた線を引いてみた。

来院した4歳馬は、右のTHOで右へわずかに傾いていた。

右目は乾燥性角膜炎の悪化を防ぐために眼瞼縫合されていた。

左目を目隠しすると、右への傾きはひどくなった。

右の角舌骨摘出手術は無事に終わった。

仰臥で手術したが、右目は閉じられているので右横臥で覚醒させる。

一旦伏臥する良い覚醒。

起立動作が始まって、

良い感じで立ち上がった。

あれっ左へ傾いてない?

少なくとも右へ傾いた覚醒ではなかった。

普通の馬でも覚醒起立時に眼球震盪を起こして起立と転倒を繰り返すことがある。

覚醒室に水平な明瞭な線が引いてあれば、平衡感覚が回復するまで視線で平衡感覚を補正することがしやすいのではないだろうか。

私は、これを馬麻酔学の世紀の大発見ではないかと思っているのだけれど、学術的に証明し、広く認めてもらうのはなかなか難しそうだ。

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ねっ?

 

 

 

 


子宮角穿孔の開腹手術

2018-04-24 | 麻酔学

ことしは本当に子宮穿孔が多い。

記録的な積雪で、放牧地での運動が足らなかったことと関係があるのだろう。

生まれて2日目の子馬。

具合の悪いお母さんと一緒に来院したが、疲れて診療室で寝てしまった。

お母さんは腹痛というより、腹腔内と膣外への出血による貧血とふるえ。

触診で左子宮角の穿孔が確定診断された。

毛を刈って、イソジンスクラブをかけて、

水分つけてブラシで洗う。

水でびちゃびちゃにはしない。

水分は滅菌したペーパータオルで拭き取る。

ポピドンイオジンスクラブで洗ってから、クロルヘキシジンスクラブで消毒する。

10%ポピドンイオジンをスプレーして、

クロルヘキシジン・アルコールを浸み込ませた綿でぬぐいとって、

またペーパータオルで拭いて乾かす。

滅菌布をかける。

開腹手術準備のできあがり。

腹水の白血球数は59800.

フリーの細菌は見当たらなかったが、好中球に貪食されている細菌が見えた。

出血が多かったのが、この症例の特徴だった。

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コブシが咲いた。

春の野には匂いがいっぱい。

雪の下で死んで腐っているネズミの死骸に体をこすりつけて・・・・

ヤメロ!!

 

 

 


でまんどばるぶ

2017-10-30 | 麻酔学

馬の麻酔をしている診療施設では当たり前のように使われているのだけれど、意外に知らない獣医さんも居るので書いておこう。

デマンドバルブ、は酸素の配管や酸素ボンベから気管チューブへつなげると、自発呼吸で酸素を吸えるし、息を吐くこともできる。

そして、ボタンを押すと、酸素を押し込むこともできる。その場合もボタンを離せば、馬は息を吐くことになる。

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単純なつくりになっていて、

酸素の圧で膜が押し付けられて、排気できないようになっている。

呼気や吸気の圧で、その膜が開放されて、息を吐ける。

ボタンを押すと、酸素の圧がそのまま肺を膨らませる。

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人医療用で多くの機種が販売されている。

しかし、成馬には人用では流量が十分ではない。

それで、USAで販売されている馬用の流量を増やした機種を取り寄せている。

仔馬、子牛なら人用で大丈夫だろう。

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酸素ボンベ、気管チューブ、デマンドバルブ、を用意しておけば、麻酔中の馬に人工呼吸を簡単にできる。

むか~しは、麻酔器には大きな風船が付いていて、それを圧迫して換気させる、ということになっていた。

しかし、丈夫なゴム風船ではないので、馬の肺を膨らませるほど圧迫すると破裂するだろうし、

とても大きいので、人力で圧迫しようとすると抱きかかえるようにして圧迫しないとならず、現実的ではなかった。

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気管チューブ (気道確保) と

デマンドバルブ (換気方法) には、何度も危ない場面を助けてもらってきた。

吸入麻酔後でなくて静脈麻酔中でも、新生仔蘇生でも、すぐには何が原因かわからない気道閉塞や呼吸停止でも。

麻酔や緊急事態や救急蘇生の必須の器具であり、必須の手技だ。

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単純な構造だが、壊れたり、不調だったりすることもある。

吸えるけど吐けない、などという壊れ方をすることもあるらしい。

そうなると肺が膨らみすぎて危ないので、安心して目を離せるということではない。

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モミジの赤やオレンジは目を惹くが、カシワ林の赤茶色も美しい。

このカシワは妙に赤いね。

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人が動物の中では珍しく色の視認に優れているのは、色づいた果物や木の実を食べていたせいだ、という説があるらしい。

しかし、他の猿よりも色に敏感なことの説明にはならない。

社会性が発達し、他者の顔色を判断できる者だけが生き残った、という説もあるそうだ。

顔を赤らめて怒っている権力者や、青ざめて襲ってくる奴に鈍感だと生き残れなかったとしたら厳しい選抜淘汰だ。

医療者は、色に鈍感だとまずい。

貧血、チアノーゼ、黄疸、を見逃すようじゃ、ね。

 

 

 

 


神経ブロック研修会

2014-11-09 | 麻酔学
今日は、職場内の神経ブロック研修。

講義のあと、解剖体で染色液を注射してちゃんと神経周囲が染まっているか確認した。

実際の症例より少ない薬液量でも神経周囲が染まっている。
まあ、神経の走行を知っていれば、馬が動かないので難しいことはない。

実習馬で実際に跛行を作って、神経ブロックをやってもらった。
low 4 points も 種子骨掌側神経ブロックもうまくいき、跛行は軽減された。
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神経ブロックは跛行診断でもたいせつな手技だし、
外科処置のための局所麻酔法としても使える。
いろいろ注意点はあるのだが、それらもまず自分達がやる手技だと思っていないと知識も経験も技術も向上しない。
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「木の枝をすべりぬける少女」
相棒はこのブロンズ像にはとても反応した。
ウォンウォン吠えた。
狭い木の枝をすり抜けてくる少女の姿が、思春期特有の戸惑いと不安を表現しているのだそうだ。
相棒は・・・・・
「そんな危ないことはヤメトケ!」と言ってました。

プロポフォール

2014-09-04 | 麻酔学

P8316601今年になって試用しているプロポフォール。

去勢などの短時間麻酔だけでなく、

最近は吸入麻酔の倒馬にも使っている。

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もともとはケタミンが麻薬扱いになり、使いづらくなって代替の倒馬薬として使われだした。

しかし、われわれは麻酔管理者・麻酔施用者の認定を受けているので、プロポフォールを使わなければならない理由はない。

しかし、ケタミンやその他の倒馬薬を使ったときより覚醒・起立状態が良いことはプロポフォールの利点で、それを期待するところ大だ。

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プロポフォールの問題は、倒れてからのパドリング(遊泳運動)があることで、

それはしっかり鎮静しておくことなどで、起きる率も激しさもコントロールできるようだ。

ただ、倒れる前に飛び出すように暴れた馬が十数頭に1頭くらい?今までに2頭、私は目の前で観た。

倒馬用のスウィングドアを使い、前にロープを張っているので大丈夫だったが、油断していたり、状況が違えば危ないかもしれない。

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血管に白く濁った薬をうつのも観ていて気持ちよいものではない。

マイケル・ジャクソンが事故死することになった薬だとか、

某医大で小児ICUで医療事故が起きている薬だとか聞くと不安になるかもしれない。

しかし、馬の全身麻酔では覚醒・起立状態が良いという利点は捨て難い。

「安全な麻酔薬も安全な麻酔方法もない。安全な麻酔医がいるだけ。」

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今日は、

1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

1歳馬の腰痿のX線撮影。

右側喉頭片麻痺の術後検査。

午後は予定を変更してもらって、2歳馬の中足骨内顆からの螺旋骨折のプレート固定手術。

夜は、装蹄師さん達の勉強会。

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P81465312時間掛かりでスクリュー16本入れる手術は疲れる手術であった。

Equine internal fixation is a exacting and demanding skill.

(馬の内固定は精度が必要で、要求度の高い手技だ)

「気を使う、疲れる手術だ」と意訳してもいいのかもしれない。