馬は他の動物と同様に前庭と呼ばれる部分で平衡感覚を保っている。
しかし、前庭障害と呼ばれる状態で平衡感覚が侵されることがある。
その場合は、視力で平衡感覚を補正している。
そのことは、平衡感覚障害で頭を傾げている馬を目隠ししてみると傾きがひどくなることでわかる。
前庭障害がある馬を全身麻酔すると、覚醒起立時に傾きがひどくなり、覚醒起立が危ないことがある。
一般に、覚醒室と呼ばれる馬を全身麻酔から起立させる部屋は、壁はクッション材が張られ、床は柔らかく、暗く静かにできるように造られているが、馬が平衡感覚を視線で矯正しやすいようにはデザインされていない。
(カテゴリー「麻酔学」の過去記事を見ていただくと、海外の馬病院の覚醒室がいくつか写っている。
水平線が引かれていたりする覚醒室はない。)
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先日、右へ傾いているTHO(Temporo Hyoid Osteoarthropathy)の馬が来院する前、覚醒室に左へ30°傾いた線を引いてみた。
来院した4歳馬は、右のTHOで右へわずかに傾いていた。
右目は乾燥性角膜炎の悪化を防ぐために眼瞼縫合されていた。
左目を目隠しすると、右への傾きはひどくなった。
右の角舌骨摘出手術は無事に終わった。
仰臥で手術したが、右目は閉じられているので右横臥で覚醒させる。
普通の馬でも覚醒起立時に眼球震盪を起こして起立と転倒を繰り返すことがある。
覚醒室に水平な明瞭な線が引いてあれば、平衡感覚が回復するまで視線で平衡感覚を補正することがしやすいのではないだろうか。
私は、これを馬麻酔学の世紀の大発見ではないかと思っているのだけれど、学術的に証明し、広く認めてもらうのはなかなか難しそうだ。
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ねっ?