イヌの嗅覚がすぐれているのを利用して、警察犬は犯人の追跡に使われることもあるし、麻薬犬は麻薬の発見に使われるし、災害救助犬は雪崩の下や倒壊家屋の下から人を探索するのに活躍している。
最近では、病気の診断にイヌの嗅覚が使えないか検討されている。
最初に報告された事例は人のメラノーマで、飼い主の皮膚の腫瘍に異常な反応をしたので、念のために病院へ行ったら悪性度の高いメラノーマだと診断されて手遅れにならずに済んだのだそうだ。
(葦毛馬にはメラノーマは多いのだけれど、どうなんだろう?)
他の腫瘍では、前立腺癌、膀胱癌、肺癌、乳癌などで、イヌが高い「診断能力」を持っていることが権威ある医学雑誌に報告されている。
前立腺癌や膀胱癌では被験者の尿の、肺癌や乳癌では被験者の呼気をイヌに嗅がせて、判定させたわけだ。
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イヌが人のてんかん発作を予測できる。という研究もある。
日本でもてんかん発作によると思われる不幸な交通事故があったばかり。
イヌがてんかん発作を予測できるとしたら、薬による発作のコントロールや、生活上の事故や障害の防止に役立つのかもしれない。
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糖尿病患者の低血糖にも反応している。という報告もある。
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何度か書いてきたようにヒトは哺乳動物の中で特異的に嗅覚が鈍く、視力に頼る動物なので、医療においても、画像診断が発達してきたのかもしれない。
しかし、私のように鼻の悪い者でも診療の中で匂いが気になることはままある。
細菌感染症では、感染している細菌によって特徴あるガスを発生させるので、病変から特別な匂いがすることがある。
膿瘍を切開するとひどい悪臭がして、「これは嫌気性菌だな」と推測することもある。
細菌が代謝で産生する匂いは細菌検査室でもしばしば経験する。
細菌性膀胱炎が疑われる牛の尿を培養すると、培地から牛の体や牛舎の匂いがすることがある。
おそらく「あの」牛の体や牛舎の匂いは、牛の尿が牛の体や牛舎でその菌が増殖して作り出しているのだろう。
酵母様真菌が生えた培地からは酒粕やパンの匂いがする。
食欲を誘うにおいでもあるのだが、実は病気を起こすこともある酵母による発酵臭だ。
pseudomonas やproteus も独特の匂いを作り出す。
私でさえそうだから、イヌをトレーニングしておけばコロニーが大きくなるまえに匂いで嗅ぎ分けて、細菌種を判別するだろう。
それをどうやってイヌから教わるかが一番の問題かもしれない。
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唾液の匂いで、結核患者をイヌに見つけさそうという研究は本当に行われているようだ。
誰か、ロドコッカス感染子馬を見つけるようにイヌを訓練してみないだろうか?
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ヒトも動物も低血糖になるとケトーシスという状態におちいる。
エネルギー源として糖質が不足しているので、脂肪の分解が増え、体にとって望ましくないケトン体(アセト酢酸、βヒドロキシ酪酸、アセトン)が体内に増えてしまう。
ケトン体は尿中や呼気中にも増え、独特の匂いになる。
牛舎へ入ると、匂いでケトーシスの牛が居ることに気が付くという酪農地帯の獣医さんも居る。
大量に乳を出す乳牛では、餌から採れるエネルギーが不足し、しばしばケトーシスに陥る。
馬も痩せていくときにはケトーシス状態になっている。
イヌを仕込んでおくと、「この馬、エサ足りてないナ」とか気づかせてくれる。カモ?
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開腹手術をしていて、壊死した腸管を切り出すと独特の匂いが手術室に立ち込める。
それは、長年馬の診療をしていて、「壊死した腸管の匂い」としか言いようのない特徴ある匂いだ。
あの匂いを馬の体から嗅ぎ取ることがイヌにできるなら、馬の変位疝(腸捻転、腸重積、腸変位)を診断できるかもしれない。
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人の虫歯も特有の悪臭がするのを記憶している人もいるだろう。
馬の歯が傷んだのも独特の匂いがする。
おそらくイヌは調教しておけば、歯の初期病変を簡単に匂いで見つけるだろう。
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保護色?