goo blog サービス終了のお知らせ 

馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

犬から「見た」世界

2012-08-17 | ワンコ修行

Photo_2 USAでベストセラーになったらしい。

イヌが世界をどのような方法でとらえているか、イヌの行動の特徴はどうか、そして、人との関係が書かれている。

著者はイヌの認知行動学で学位をとった女性で、心理学の非常勤の助教授だそうだ。

各項目の最初は著者と犬との詩のような生活風景が書かれている。

それは、この本が愛犬家の女性に書かれたことを示していて、この本の雰囲気を作り出している。

ところどころに著者自身の手による犬のスケッチも挿まれていて、これも本に楽しさを加えてはいるが・・・・スケッチはヘタウマだ;笑。

                                                                             -

実は内容はスタンレーコレン先生の「犬も平気で嘘をつく?」にかなり重なっている。

著者はコレン先生の著書に影響を受けなかったのだろうか?読んでないのだろうか?と思うほど。

おそらく読んでないことはないのだろうけど、文献録には含まれていない。

犬がどのように周りの世界をとらえているかイヌの感覚器に触れ、

犬同士、犬と人とのコミュニケーションの特徴を考察し、

犬の心理や精神について考えている。

                            -

スタンレーコレン先生の著書より内容が新しく、

本の雰囲気が柔らかく、犬への愛情の表現が情動的だ。

科学的な記載はコレン先生の本より少ない。

犬好きの方は、ぜひ!

                            -

だれか、「馬から見た世界」を書いてくれないかね?

                           ///////

今日は、

1歳馬の第1趾骨翼の捻除骨折の関節鏡手術。

競走馬2頭の跛行診断をして、

2歳馬の喉鳴りの手術。

DDSP治療として胸骨甲状筋切断、声帯虚脱の治療として声帯切除、

披裂喉頭蓋ヒダ軸側変位の治療としてヒダ切除。

                         ---

暑いのはわかるけど、そこまで日陰にこだわるのもどうかと思うナ。

P7292638


イヌ語・ウマ語の話し方

2012-08-14 | ワンコ修行

動物と話ができたら。とは誰もが思うことなのだろう。

ドリトル先生の話は世界的に有名だ。

ただし、ドリトルとは Do Little であって、じつは「ほとんど何もできない」という意味を暗にもたせているところが微妙なところだ。

英語的に表記するならドウリトル先生としなければいけなかったのだが、日本の子供たちに発音しにくいのでドリトルになったらしい。

ついでにこの名前にこめられた皮肉も忘れ去られてしまっている。 

                       -

Photo こちらは犬のコミュニケーションに関する本。

著者は心理学の教授にして犬のトレーナーでもあるスタンレーコレン先生。

楽しく書かれているが、科学的で込み入った内容の本だ。

こんな本が文庫本になって多くの人に読まれているのはそれだけ犬を飼っている人が多く、犬のことを知りたい欲求が強いからだろう。

人はイヌを擬人化して考えがちだ。

イヌが口を開けると口角が上がっていて人には笑顔に見えてしまう。

しかし、本当にイヌは機嫌よく笑っているのか?

                        -

イヌはどうやら動物の中で特別な行動特性や人とのコミュニケーション能力を持っているらしい。

人がそのようにしつけようとすることもあり、イヌは人の目を見つめる。

人の表情を読み、声を聞き分けようとするのだ。

さて、馬は?

                          -

ウマのような草食動物は、人やイヌやネコのように顔の正面に2つの眼が付いている動物に見られると緊張するようだ。

顔の正面に眼が2つ並んでいるのは狩りをするために遠近感をつかみやすいようにという肉食獣の特徴であって、そういう動物がまっすぐ自分を見ていること自体に危険を感じる本能を持っているのだろう。

生まれたときから人に飼いならされている馬達を扱っていると感じることは少ないが、馬を扱う上では知っておいた方がよいことかもしれない。

イヌでもウマでも、その動物の特性や習性を知って理解してやることが上手に扱うコツなのだろう。

                          -

近年は、ウマでもウマの習性を知って、それを生かして馬を調教しようとする人たちも出てきている。

とても良いことだと思う。

ただ、Horse Clinician と名乗ろうとしている人たちもいるのはひっかかる。

Clinician とは医療者だ。

一般には病院で働く医師や看護師ほかの人たちを指す。

だから、馬の心理学的なトレーナーがclinician と名乗るのはおかしいと思う。

                         -

さて、誰か「馬語の話し方」を書いてくれないだろうか?

                        ////////

へっへっへ、オラ専用水洗トイレさ。

P8122682


イヌと馬の耳の形

2012-08-13 | ワンコ修行

竹を割ったような・・・と言えば、さっぱりして、まっすぐな性格のこと。

竹を切ったような・・・とは馬関係者には、馬の耳のこと。

ピンと尖って、まっすぐ立っているのが良いということなのだろう。

耳の形状や動きは音を聞く機能と大いに関係していて、馬の耳はよく動く。

何か物音がすると、頭を挙げて、耳をあちこちへ向けて音を探っている。

                          -

イヌの場合はその耳の位置や動きはイヌ同士のコミュニケーションにも役立っているようだ。

警戒していることや、服従していることを相手に示している。

                          -

馬の場合はどうなんだろう。

「耳を背負う」と呼ばれる耳を後に伏せた顔は、

「てめえこのヤロー噛み付くぞ」という顔なのだが、

それは単に喧嘩に備えて耳を噛まれないようにしているのか、

相手に不機嫌であることを伝えようとしているのか、わからない。

                          -

T大学卒で某民間大企業の研究所勤務で競馬ファンという人と厩を歩いたことがあるが、

馬房から顔を出している馬が耳を背負っているのに、馬の射程距離から出ようとしない。

「危ないですよ」と注意しておいたが、

馬のあの顔は本能的に危険な顔だとわかるように思う。

人はそういう点でも動物としての本能というか、基本能力を失くしているのかもしれない。

イヌが身を低くして、牙をむき出してガルルっと吠えていたら、本能的に避けるよね?

                          -

さて、イヌが耳を動かして音の方向を探ったり、耳の位置で自分の感情を表してコミュニケーションをするのも、立ち耳のイヌであればこそ。

私の相棒のように垂れ耳だとほとんど自分の自由に耳を動かすことはできないし、

耳の位置で意思表示をすることもないようだ。

だいたい音を聞くためにも、蓋をしているようなものなので聞こえにくいだろうと思う。

                          -

ではどうして垂れ耳のイヌができたのか?

ロシアでは壮大な研究が行われていて、ギンキツネの中で人に興味をしめした個体だけを繁殖させ、さらにその子供世代でも人に懐く個体だけを繁殖させ、それを繰り返すという実験をすでに50年以上続けている。

すると、たいへん人に懐くキツネが作り出され、ソビエト連邦の崩壊で研究資金が厳しくなったので、そのキツネをペットとして売りに出して資金にしているそうだ。

イヌは狼から改良されたことははっきりしているが、それとはまったく別のイヌ科のペットが作りだされたわけだ。

そして、人に懐くキツネは、もとのキツネ達より口が短くて、耳が垂れているのだそうだ。

おそらくイヌも、ペットとして愛らしい個体を選抜する中で、垂れた耳が固定されてきたのだろう。

垂れた耳が見た目に好ましいからそのように改良されてきたというより、垂れた耳が性格に付随して選ばれてきたという説の方が真実のように思える。

                         -

このシベリアでの実験は家畜にかかわるわれわれにはたいへん興味深い。

競走馬として、あるいは乳牛として優秀だからといって、人を蹴る個体をもとに繁殖するとその形質も受け継がれるのかもしれない。

人も同じか?;笑

                                                                     /////////////

今日は、

2歳馬のTieback & Cordectomy.

肺炎子馬の剖検。

血液検査をして・・・たら停電。

復旧してから2歳馬の腕節骨折の関節鏡手術。

夕方、子馬の疝痛。

                          -

ushimitetara Mohttenakarete koshinuketa

P8052668


イヌと馬の聴覚

2012-08-11 | ワンコ修行

イヌの聴覚はヒトの4倍などと言われるが、それは正しくないらしい。

どれくらい遠くで音に反応するかという、あまり科学的でない実験から4倍と推測されたらしい。

イヌが飼い主が帰ってくるのにヒトより早く気づいたり、特定の音に敏感だったりするのは、聴き取れる周波数がヒトより広いからのようだ。

ヒトが聴き取れるのは20Hzから20,000Hzくらい。

聴き取りやすいのは2000Hzあたりのヒトの話し声(500~4,000Hz)ほどの音。

イヌは、45,000Hz~60,000Hzあたりまで聴き取れる。

イヌが最も聴き取りやすいのは8000Hzあたり。

これはどうやらネズミなどのげっ歯類が出す高音に敏感な方が餌として彼らを捕らえるのに有利だったことによると考えられている。

オオカミもそうそうシカなどの大型動物を捕まえられるわけではなく、季節によってはノネズミやウサギが主食なのだそうだ。

                           -

ヒトの高音を聴き取る能力は歳とともに衰える。

店の前にたむろする若者を追っ払うために、若者にしか聞こえない高音で不快な音を流したらうまくいったという事例もあるらしい。

ただ、高音域を聴き取る能力は音楽を大音量で聴いたり、ヘッドホンを長時間つけたりすると急速に衰えるので、最近の若い人は年寄りとかわらないかも知れない。

                           -

馬の可聴域は55Hzから33,500Hzくらい。

イヌやネコほど高音域は広くないが、ヒトよりはかなり高音を聴き取れる。

イヌやネコは高音域に敏感なために、掃除機や作業機械の音に過敏だったりするようだが、馬も気をつけてやった方が良いかもしれない。

                          /////////

朝3時までなでしこのフランス戦を観て、P8112675

朝3時まで男子サッカーのメキシコ戦を観て、

十勝まで出かけて4時間講義して、

プチ同窓会で飲んで、

朝4時前からなでしこの決勝アメリカ戦を観て・・・・

開腹手術で徹夜するのに比べたら楽なもんさ;笑。

                        


嗅覚 匂いと病気

2012-08-03 | ワンコ修行

イヌの嗅覚がすぐれているのを利用して、警察犬は犯人の追跡に使われることもあるし、麻薬犬は麻薬の発見に使われるし、災害救助犬は雪崩の下や倒壊家屋の下から人を探索するのに活躍している。

最近では、病気の診断にイヌの嗅覚が使えないか検討されている。

最初に報告された事例は人のメラノーマで、飼い主の皮膚の腫瘍に異常な反応をしたので、念のために病院へ行ったら悪性度の高いメラノーマだと診断されて手遅れにならずに済んだのだそうだ。

(葦毛馬にはメラノーマは多いのだけれど、どうなんだろう?)

他の腫瘍では、前立腺癌膀胱癌肺癌、乳癌などで、イヌが高い「診断能力」を持っていることが権威ある医学雑誌に報告されている。

前立腺癌や膀胱癌では被験者の尿の、肺癌や乳癌では被験者の呼気をイヌに嗅がせて、判定させたわけだ。

                           -

イヌが人のてんかん発作を予測できる。という研究もある。

日本でもてんかん発作によると思われる不幸な交通事故があったばかり。

イヌがてんかん発作を予測できるとしたら、薬による発作のコントロールや、生活上の事故や障害の防止に役立つのかもしれない。

                           -

糖尿病患者の低血糖にも反応している。という報告もある。

                           -

何度か書いてきたようにヒトは哺乳動物の中で特異的に嗅覚が鈍く、視力に頼る動物なので、医療においても、画像診断が発達してきたのかもしれない。

しかし、私のように鼻の悪い者でも診療の中で匂いが気になることはままある。

細菌感染症では、感染している細菌によって特徴あるガスを発生させるので、病変から特別な匂いがすることがある。

膿瘍を切開するとひどい悪臭がして、「これは嫌気性菌だな」と推測することもある。

細菌が代謝で産生する匂いは細菌検査室でもしばしば経験する。

細菌性膀胱炎が疑われる牛の尿を培養すると、培地から牛の体や牛舎の匂いがすることがある。

おそらく「あの」牛の体や牛舎の匂いは、牛の尿が牛の体や牛舎でその菌が増殖して作り出しているのだろう。

酵母様真菌が生えた培地からは酒粕やパンの匂いがする。

食欲を誘うにおいでもあるのだが、実は病気を起こすこともある酵母による発酵臭だ。

pseudomonas やproteus も独特の匂いを作り出す。

私でさえそうだから、イヌをトレーニングしておけばコロニーが大きくなるまえに匂いで嗅ぎ分けて、細菌種を判別するだろう。

それをどうやってイヌから教わるかが一番の問題かもしれない。

                        -

唾液の匂いで、結核患者をイヌに見つけさそうという研究は本当に行われているようだ。

誰か、ロドコッカス感染子馬を見つけるようにイヌを訓練してみないだろうか?

                        -

ヒトも動物も低血糖になるとケトーシスという状態におちいる。

エネルギー源として糖質が不足しているので、脂肪の分解が増え、体にとって望ましくないケトン体(アセト酢酸、βヒドロキシ酪酸、アセトン)が体内に増えてしまう。

ケトン体は尿中や呼気中にも増え、独特の匂いになる。

牛舎へ入ると、匂いでケトーシスの牛が居ることに気が付くという酪農地帯の獣医さんも居る。

大量に乳を出す乳牛では、餌から採れるエネルギーが不足し、しばしばケトーシスに陥る。

馬も痩せていくときにはケトーシス状態になっている。

イヌを仕込んでおくと、「この馬、エサ足りてないナ」とか気づかせてくれる。カモ?

                        -

開腹手術をしていて、壊死した腸管を切り出すと独特の匂いが手術室に立ち込める。

それは、長年馬の診療をしていて、「壊死した腸管の匂い」としか言いようのない特徴ある匂いだ。

あの匂いを馬の体から嗅ぎ取ることがイヌにできるなら、馬の変位疝(腸捻転、腸重積、腸変位)を診断できるかもしれない。

                                                                  -

人の虫歯も特有の悪臭がするのを記憶している人もいるだろう。

馬の歯が傷んだのも独特の匂いがする。

おそらくイヌは調教しておけば、歯の初期病変を簡単に匂いで見つけるだろう。

                       /////////

P7312659 保護色?