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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

胆振馬講習会2013 装蹄療法

2013-10-27 | 講習会

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金曜日は苫小牧で胆振馬講習会。

毎年、興味あるテーマで講習会を聴かせてもらえることに感謝する。

ことしのテーマは装蹄療法。

獣医師だけでなく装蹄師さんも参加したので、会場は例年にも増していっぱいだった。

私は馬の蹄と蹄病にたいへん興味があるが、生産地でも蹄の問題は

「装蹄師さんに観てもらって」

で済ましている獣医師が多いかもしれない。

それは道具や経験を持ち合わせていないからでもあるだろう。

時間が許せば獣医師も装蹄師さんと一緒に蹄病を診るのだろうが、お互い忙しいのでなかなか立会うのも難しい。

が、装蹄師さんたちは、X線検査や、鎮静剤、抗生物質など薬の投与や、診断麻酔や、止血はできないので、

あるところからの処置はできない。

困難な症例になると獣医師と装蹄師が協力しなければ対応できない理由がそこにある。

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もうひとつ畜主の理解と協力ももちろん不可欠だ。

蹄病の治療には手間と時間と経費がかかることが多い。

跛行が少し良くなると放置されたり、きちんとした管理がされないために、途中で駄目になる蹄病馬も多い。

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それには畜主と装蹄師と獣医師の共通の認識が必要で、きちんと状況をとらえて、治療方針を立てて対応する必要がある。

難しい症例だけでなくても、繁殖雌馬の蹄が伸び放題で放置されていたり、休養馬のアンダーランヒールが認識されていなかったりする状況では、一番の問題は認識不足なのかもしれない。

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台風はそれてくれたようだが、

あちこちに雨の痕は残っていた。

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もう美しい紅葉は終わってしまったのだろう。

書き物に休みを費やし、やっと周りを見渡す余裕ができたかと思えば、

雪はまだ降らず、日も短く、日に日に寒くなっていく季節。


特定動物

2013-08-10 | 講習会

P8094727診療の主たる対象となっている動物(つまりほとんどの大動物獣医師にとっては牛)以外の動物についての知識や技術を身につけてもらおう。という趣旨の講習会に今年も呼ばれて行ってきた。

会場は農林水産省種畜牧場。

独特の雰囲気がある。

あいにくの空模様だったので展望台には行かなかった。

晴れて猛暑になるより良かったかもしれないけど。

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P8094728なにせ北海道、エアコンはない。

今年は今までより参加者が多かった。

3日間にわたって、ヒツジ、シカ、ダチョウ、ヤギ、そしてウマについての講義と実習がある。

馬がダチョウやヤギといっしょにくくられてしまうのは悲しいし、

もっと残念なのは受講者の半数は地域に馬がおらず、診る可能性もない、ということ。

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馬にも牛にも共通した話や、馬はこうしてますけど牛はどうですか?などという話にせざるを得ない。

                            
これから長い臨床獣医師としてのキャリアをスタートさせたばかりの獣医さん達。

なにかヒントや刺激になるものがあったならいいのだけど。

 


胆振馬講習会「超音波画像診断」

2012-12-17 | 講習会

今日は胆振獣医師会の馬講習会だった。

苫小牧まで出張してきた。

日高からも多くの参加者があり、馬地帯以外からも来られていたし、中には本州から泊りがけで参加しておられた先生もおられた。

参加者は100名を越えていた。

この講習会ももう15回目になるそうだ。

運営して来られた先生方に敬意を表したい。

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「超音波」は良いテーマだったと思う。

最初、卵巣や子宮が観察できるということで馬臨床に登場した超音波画像診断装置は、ついで競走馬の浅屈腱炎の診断で注目を浴びた。

しかし、初期の超音波画像は今から思えば褒められたものではなかった。

それが、徐々に改良され、その一方で装置は小型化され、同じ機能なら値段は数分の一になり、今はポータブルの装置は一人一台に近いまで普及している。

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が、それらの装置の機能を充分に使いこなしているかというとそうでもないし、

応用価値がある病態すべてに適用している馬医師はかえって少ないだろう。

超音波画像診断は、X線画像と比べて見えている範囲が少ないし、

「骨」だけが見えるX線画像に比べると、いろいろなものが様々な見え方をするので判読に経験が必要になる。

そして、プローブの当て方で見え方が変わってしまうので、プローブを当てている本人でないとイメージをつかみにくい。

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私は最新鋭の超音波装置を使って来たわけではない。P5172087

長く使って来た古い装置はかなり前に時代遅れになっていたし、他所の診療所の予算で買ったものだった。

その後使っていた機械は重宝して使わせてもらったが、他所からのもらいものだった。

やっと今年から新しい機種を使っているが、上位機種ではない。

それでも、超音波装置の性能の向上は素晴らしく、今はまさに使える診断器械になった。

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P4030032 カラードップラー機能を見ても、以前使っていた器械ではなかなか計測値が表示されなかったが、今の器械ではPI値やRI値が表示されないことはほぼなくなった。

何がどう進歩したのか、すでに理解できなくなっているのだが、間違いなく「使える」機能になっている。

その機能のために何十万、あるいは何百万もかけていることになるのだろうから、努力して使いこなしたい。


Dr.Ishiharaの馬整形外科の最新情報と神経ブロックの講習会

2012-12-09 | 講習会

Pc083395 土曜日は、Dr.Ishiharaの馬の整形外科研究の最新情報について教えていただき、

ついで神経ブロックについての講義の後、実習した。

 この数年、幹細胞治療や、多血小板血漿療法や、IRAP療法など、さまざまな移殖再生医療が馬整形外科分野でも試されるようになってきている。

しかし、まだまだ未知の部分が多く、エヴィデンスもないまま臨床試験が行われている感が否めない。

 Ishihara先生も幹細胞移殖を例に挙げ、見切り発車的に臨床応用され、期待したような治療効果が得られていない。と述べておられた。

 理論的に効果があるかもしれない。という段階で、「やってみる」というのは獣医療では許されても良いと私は思うが、

獣医師自らがプラセボの罠に陥ったり、営業の種になったりしないように自らを戒めなければならない。

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Dr.DysonもIshihara先生も、神経ブロックは跛行の確定診断のためには必須の手技。と述べておられた。

しかし、日本では日常的に行う獣医師は多くない。

跛行を確定診断しないまま痛み止めを投与したり、代替療法をしている馬医師は少なくない。

X線撮影の機材や、超音波診断装置は、この10年格段に性能が向上し、普及した。

だからこそ、画像診断だけでなく、神経ブロックによる跛行診断も取り入れることで確定診断に到れる可能性が増えていると思う。

 二次診療施設で処置をする上でも、早期に痛い箇所を特定して処置を依頼してもらえば、きちんと準備しておいて必要な手術や処置をすることがやり易くなるだろうと思う。

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 Dr.Dysonは若いサラブレッドの後肢でも神経ブロックをする。と断言しておられた。

木の枠場に入れて、患肢を枠場の柱のそばに置いて、負重させたまま針を刺すそうだ。

木の枠場は蹴ったときにクッションにもなり、反響音がしないのでその音にさらに馬が驚くということがない。とのこと。

つまり、馬が枠場を蹴って、金属製の枠場が響くほどの音をたてるということも経験しておられるわけだ。

馬を頭を持つ人、それから馬の気をそらす人、ときには同じ側の前肢を持ち上げることもあるとのことで、チームワークが大切とのことだった。

私のような小さい女性でもやれるし、大きな怪我はしたことはない。と述べておられた。

う~ん・・・・・・私はやっぱりやらないかな;笑。

木の枠場もないからね。

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研修でいっぱいのスケジュールになった週末。

天気も大荒れで、風は吹くわ、雪は降るわ、おまけに地震まで来て、まさに疾風怒濤の週末だった。

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「こんな神経ブロックの実習を受けたら、オーストラリアでは数万円取られます。」

とはシドニー大学獣医学部生の弁。

日本の大動物獣医師は無料の卒後教育に慣れて甘えすぎているのかもしれない。

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Pc093409 オラ、雪の中でも絶好調!!

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Dr.Dysonの馬の跛行診断の講習会

2012-12-08 | 講習会

暇になったなどと書いたもんだから・・・・

木曜日は関節鏡手術、続いて当歳馬の開腹手術、そのまま1歳馬のスクリュー抜去。

夜は、Dr.Dysonの馬の跛行診断の講習会。

Pc073391 ひどい風と雪の中、300名近い人が集まったようだ。

跛行診断の方法について獣医師以外にもわかりやすく説明していただいた。

 翌日は、午前中Dr.Dysonの講義。

午後は、実馬を使っての跛行診断のための触診。

繋部の超音波診断のデモ。

Pc073393 その手技や講義の内容に、Dr.Dysonの緻密で真摯な毎日の診療の積み重ねが表れていて、感心した。

MRIや核シンチグラフィーだけが先生の武器ではなく、

最大の武器は、その妥協を許さない姿勢なのだろう。

そして、それは一人でできることではなく、周りの環境や、一緒に働く人の方向性でもあるのだろう。

跛行診断は診断に到らないとフラストレーションが貯まりがちな診療なのだが、

きちんと手順を踏みながら、徹底して確定診断を求めるその意欲をまず見習わなければいけない気がした。