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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

Sarcoidの自家免疫療法

2021-10-05 | 馬内科学

8月末に包皮にできた腫瘍塊を摘出に来たブルトンの種雄馬。

取り出した組織の検査でウシ・パピローマウィルスが検出された。

ウシ・パピローマウィルスの感染による馬サルコイド(類肉腫)だということだ。

外科的切除をしても非常に再発しやすい腫瘍であることが知られている。

               -

そしてこの馬、呼吸が苦しい。

前回帰った後、とても呼吸が速くなり倒れてしまった。

鎮静剤を投与しても呼吸が苦しくなるので、まず呼吸器の検査。

肺は聴診で異常ない。心音もおかしくない。

超音波で、肺や胸腔に異常なし。

内視鏡で喉頭を検査したら・・・・披裂軟骨炎だ。

左右共に披裂軟骨小角突起が腫れて、右はまったく外転しない。

               -

頚の皮膚を5箇所、小切開して

切除して凍結しておいた腫瘍塊を皮下に埋め込む。

ウシ・パピローマウィルスに対する免疫が活性化されることを期待する。

確立された方法ではないが、海外の報告ではなかなか良好な成績が報告されている。

鎮静剤投与もなしで行えた。

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ほかに、4歳競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

午後は、2歳未出走馬の球節の・・・骨片骨折、繋靭帯炎、変形性関節症の関節鏡手術。

当歳馬の骨盤骨折のX線撮影、立位で。

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娘を送っていったついでに滝がある渓谷へ紅葉見物に行って来た。

今がさかりの木もあったが、全体にはまだ早かった。

ゆきむし、が飛んでいた。

 

 

 

 


症状と徴候 symptom と sign

2021-08-11 | 馬内科学

某社の獣医学の教科書の頼まれ原稿を提出したら、「症状」という記述のすべてを「徴候」と修正されてきている。

見出しも、【症状】ではなく、【症状・徴候】となっている。

symptom 症状、というのは患者によって認識される病の状態なので、獣医臨床ではありえない。???

ということなのだそうだ。

だから、sign 徴候、を使っていこう、ということなのだそうだ。???

                  -

と言われても、現在のところ、私は納得できないし、おおいに違和感がある。

「徴候」という言葉を、日常の診療の中で使うことはない。

獣医師同士の専門用語としても使わない。親しみがない。

「徴候」という言葉は、”きざし” だから、軽度という観念が含まれていると思う。

重度の徴候、とか、ひどい徴候、とかには矛盾を感じる。

「徴候」という言葉には、初期、前段階の、これから、という観念も含まれていると思う。

末期症状、とは表現できるが、末期徴候と言った場合は、これから末期になるであろう”きざし” という意味ではないだろうか。

                  -

長年使ってきて、親しみのある「症状」という用語を使わないようにしよう、というのも納得がいかない。

症状とは”病の様子” であり、自己認識がなければありえないものではないだろう。

symptom がまずいというなら、それは「自覚症状」のことであり、symptom = 症状、という翻訳がおかしいのではないか。

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馬が発汗し、前掻きし、転がりまわる。

それらは、それぞれが徴候 sign である。というところまではわかる。

痛い、という自覚症状は、馬と言葉で話せない畜主にも獣医師にもわからないのだから、獣医臨床にはsymptom はない。

と言われているのだ。

実験動物しか扱わない基礎獣医学の分野から出てきた学問上の指摘が元になっているんじゃないだろうか??

馬が痛がっている、犬が苦しんでいる、それは獣医臨床にはない、と言ってしまっていいとは思わない。

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ヒト臨床では、主訴 Chief Complaint といって、患者さんはどう言っている、というのを重視する。

カルテ(診療記録)の記載でも、SOAP ; Subjective, Objective, Assessment, Plan の最初に記述される。

獣医臨床でもこれは使われていて、Subject 主観的所見、から記述する。

獣医臨床では、畜主がどう言っているか、になるだろう。

「症状」”symptom”は無い、と言って、Subjective 所見を書かず、いきなり「徴候」”sign” から始めるのか??

                  -

その教科書の編集方針はもう決まっていて、私が反対したところでどうなるものでもないので、

私は自分の文章として納得できなければ、自分の記述をすべて撤回して削除してもらうしかないだろう。

馬の苦しみも痛みもわからない、と言われて納得したのでは、馬たちに申しわけが立たない。

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ゆり。派手。

園芸種の品種改良のせいか?

たいして肥料を与えていないのだけれど。

 

 

 

 


子馬の駆虫の難しさ

2021-05-07 | 馬内科学

先日の小腸重積の子馬。

発症は71日齢だった。

重積部位にはけっこうな数の回虫が居た。

40日齢ほどでイヴェルメクチンで駆虫したそうだ。

おそらく、その牧場の回虫はイヴェルメクチンに耐性を持っていて、効果がなかったのだろう。

そして、体内移行を済ませて小腸へ戻ってきた回虫が蠕動を亢進させ、小腸重積が起きた。

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この本には、60日齢までは馬回虫を駆虫すべきではない、と書かれている。

効果に乏しいし、耐性が進むから、と。

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今回の症例は、最初の手術のときには回虫は大きくはなかったし、腸を閉塞させてはいなかったが、腸の中で元気に泳いでいた。

吻合部位からもはみ出してきた。

狭い所へもぐり込む性質があるのだろう。

おそらく、その日のうちに再度空腸重積を起こし、翌日剖検する結果になった。

手術後にフルモキサールを投与したので、剖検時は回虫は元気がなかった、が生きている個体もあった。

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私は、60日齢まで回虫の駆虫をしないのでは、今回のような手遅れの症例が避けられないと思う。

回虫の駆虫は、イヴェルメクチンは有効でないことがある(多い)。

子馬を寄生虫から守るのはとても難しい。

そして、その個体を駆虫することだけでなく、他の方法でも牧場の寄生虫対策をしていく必要がある。

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モクレン・サンライズが咲いた。

サクラより早く咲くのも嬉しい。

私には香りはわからないのだけれど。

 

 

 


寄生虫性動脈栓塞による死亡だった

2021-02-27 | 馬内科学

発熱と不調で来院し、輸送熱(胸膜肺炎)の再発かと思われた上がり馬は4日後に死亡した。

「あの程度の胸膜肺炎で数日の経過で死ぬか・・・」と思ったが・・・

剖検したら腹腔内がひどいことになっていた。

盲腸と大結腸が壊死している。

左の胸腔に胸膜炎はあったがひどくはない。

前腸間膜動脈根部に血栓による完全閉塞があった。

血栓をほぐしたら普通円虫の仔虫が何匹か見つかった。

盲腸動脈、結腸動脈にも血栓があり、そちらでも円虫の仔虫が見つかった。

死因は「寄生虫栓塞による大結腸・盲腸の壊死」だった。

         ー

この病気の多くは消化器症状(主に疝痛)を示す。

この馬はそれがまったくなかったので疑うこともできなかった。

腹部も超音波で診たが、腹水増量もなかった。

診察中に、私は駆虫したか訊いて、不調なのでまだ駆虫していない、という返事だった。

不調でも構わないから駆虫しなさい、と私は言った。

私が寄生虫性動脈瘤の可能性を考えたのは蛋白電気泳動像が寄生虫性動脈瘤パターンだったから。

β領域に異常な増高があり、それも鋭いピークではなくβ1とβ2がつながる。

昔よくみた。

しかし、イベルメクチン普及後はほとんど見なくなった。

知っているのは、私より上の年代の獣医さんだけだろう。

私が指示したとおり駆虫したのかどうか知らない。

いずれにしても手遅れだった。

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またゆきふったです

ゆきふっててもウン〇さんぽいきたいです

 

 

 

 


2日続きの胸膜肺炎

2021-02-23 | 馬内科学

あがり馬が発熱し、胸膜炎のようだ、ということで来院。

超音波で診たら、左の胸腔の隅に炎症性の胸水とフィブリンがあった。

針を刺して抜けるほどではない。

抗生物質で治療するしかないが、胸膜炎は治療が長期化しがちだし、再発することも多い。

治療費は高額になりがちだ。

輸送熱を診たら、胸腔を超音波で検査すべきだ。

発熱や血液検査所見が落ち着いて抗生物質投与を止めても、数日後の再検査をルーチン化してはどうだろうか。

超音波検査しても良いし、血液検査でSAAをみても良い。

頼まれて抗生物質投与するのだけが獣医師の仕事じゃないだろう。

                   -

翌日、1歳馬の胸膜肺炎が来院。

超音波で診たら、左の胸腔には炎症性の胸水とフィブリンがあった。

右の胸腔はかなりの量の胸水が溜まっていた。

左の胸腔は留置針で穿刺して胸水をできるだけ抜く。

が、数十mlしか抜けなかった。

右は・・・

18Frのトロッカーカテーテルを留置した。

5リットルほどオレンジジュース様の胸水が抜けた。

生理食塩液を入れて抜いてして洗浄し、抗生物質を入れた。

この馬も数週間前に治療歴がある。

牧場で流行ったウィルス性の感冒をこの馬だけがこじらせたらしい。

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アウトドア好きの青年が、ひとりで出かけた荒野の岩の隙間で、落石に腕を挟まれ動けなくなってしまう。

誰も通りがかったりしない。

どこからも見えない。

大声を出しても誰にも聞こえない。

水がなくなればやがて脱水で死ぬしかない。

腕を切り離せば脱出できるが、鎮静剤も麻酔薬も、手術道具もなくそんなことができるのか?

実話、実在の人物の経験談だそうだ。

・・・・・・私には無理。

止血の方法や、どこを切るのが切断しやすいか多少の知識はあるが・・・無理。

この青年を尊敬する。

実在の主人公は、今も義手をつけてアウトドア活動を楽しんでいるそうだ。

行き先のメモを必ず残して。