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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

ロドコッカス感染子馬とパドック

2010-12-23 | 感染症

Pc170742_2 (剖検写真です。見たくない人はクリックしないで下さい。)

子馬がロドコッカス感染症で死んで剖検に来た。

すっかり痩せてしまっていた。

ロドコッカスは子馬に肺や腹腔内やその他いろいろなところに膿瘍を作る。

腹腔内に大きな膿瘍を作ると、治りきらず、数ヶ月経って死に至ることが多い。

Pc170743_2 この子馬は肺の前葉や肺付属リンパ節も膿瘍化していた。

左右の飛節ほかの関節も腫れていた。関節はおそらく細菌性関節炎ではなく、重症のロドコッカス感染のときに見られる、免疫介在性の非感染性関節炎だろう。

いずれにしても、このような子馬は免疫も破綻していて助かる見込みはかなり前からなかっただろうと思う。

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こういう子馬は糞便中に大量のロドコッカスRhodococcus equi 強毒株を排泄していたと思われる。

厩舎の横に作られた小パドックに入れられたりしているが、そういうパドックはRhodococcus equi強毒株で汚染されている。

来年、生まれれたばかりの子馬をそういうパドックに放してはいけない。

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いつもそのことを注意しようと思うのだが、春や夏では手遅れだし、秋では季節外れだし、出産の季節の前が良いかと思うのだが・・・・・・

冬は地面が凍って今さら新しいパドックを作ることも、パドックの土を入れ替えることもできない。

 オーストラリアでは放牧地で分娩させることが多いのだそうだ。そして、放牧地で出生した子馬の方が感染症が少なかったという調査成績が報告されていたりする。

日高の1-3月にまねできるかどうかは別にして、生まれたばかりの子馬を、昨年病馬を入れていたパドックに放してはいけない。


抗生物質あれこれ 海外の情報

2010-08-24 | 感染症

馬での抗生物質の使用方法については、書かれたものはたくさんある。

しかし、それがそのまま使えるかというと、そうはいかない。

熱心な獣医師は海外の成書や文献に従おうとするが、抗生物質の使用はとくに欧米に右に倣えというわけには行かない。

・原因菌の感受性が同じとは言えない。

・抗生物質の市販薬の有無、値段、etc.が違う。

・副作用の発生率・重篤度が海外と異なる。

例を挙げるなら、

 ケンタッキーの獣医師が来て手術をして、「術創をゲンタマイシン1gを2?の生理食塩水に溶かせて洗ってくれ」と言う。

「ペニシリンでも良いか」と聞いても、「駄目だ。ゲンタマイシンだ。」と言う。

「日本ではゲンタマイシンは高いんだ!」と言ったこともある。

だいたい、手術のときに予防的に使う抗生物質に、切り札的な抗生物質を使うべきではない。

と、私は思う。

 アンピシリンの投与量なども、とんでもない量が成書に表示されている。

(500kgの馬で)1日6-9gを3回投与。

日本でこんな量を投与したら、多くの馬が腸炎を起こすか、食欲をなくすだろう。

 エリスロマイシンも、欧米では平気で使われている。

U.C.Davisで、エリスロマイシン投与中で水様下痢をしている症例を見たが、

「投与をやめれば下痢もとまるから」と平然としていた。

日本ではエリスロマイシンを投与すると子馬でも成馬でも多くの馬が腸炎で死ぬ。

 USAではゲンタマイシンが大きなバイアルで売られていて安い。

だから日常的に使用されている。

反面、同じアミノグリコシド系抗生物質でもカナマイシンは手に入りにくいようだ。

そのためあまり使われておらず、「高いが一部の緑膿菌感染には良いかもしれない」などと書いてある文献があったりする。

 もともとUSAは、抗生物質を投与するなら充分な量を投与し、短期間で細菌を殺滅した方が治癒も早いし、耐性も引き起こしにくい。と考えるようだ。

これは原則的には正しいかもしれない。しかし、臨床的にはそのとおりに行かないことが多い。

ほとんどの細菌感染が、3-5日間MIC濃度を越える抗生物質濃度を維持すればそれで治る。と思っている臨床家はいないだろう。

体の中には抗生物質濃度が上がらない「腔」がいっぱいあり、細菌は血液に触れにくい病巣や膿瘍を作っていて、中には抗生物質に触れないための特有の仕組みを持っている細菌もいる。

治療計画どおりにはいかないのだ。

だから、経験に頼らざるを得ないが、その「経験」は万国共通ではないはずだ。

抗生物質の使用についての海外の情報は鵜呑みにはできない。

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インド・パキスタンなどで多剤耐性菌に感染する例が増えているらしい。

原因を明らかにし、対策をとってもらいたいが、おそらくは無理だろう。

とんでもない事態・時代は、すぐそこまで来ているのかもしれない。

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 まったく・・・・・・


抗生物質あれこれ 使用量

2010-08-22 | 感染症

子馬の肺炎、子馬を治療しているときの親馬の腸炎、開腹手術創の感染、プレートを入れる内固定手術における感染、カテーテル留置による頚静脈炎、去勢手術後の感染による炎症と、

馬の臨床における細菌感染の問題を紹介してきた。

このように、大動物臨床の診療対象のかなりの部分を細菌感染症、炎症性疾患が占めている。

だから、抗生物質はもっとも良く使う薬だ。

しかし、このブログで抗生物質の使い方についてあれこれ、とやかく言うことは避けて来た。

根拠に乏しい、いい加減な話になりがちなこと、

私も含めて獣医師の信用を失うような話も含まれること、

いつも避けたいと思っている批判的な内容になりがちなこと、

がその理由だったように思う。

しかし・・・・思い出話やら、独断と偏見やらも含めながら、思うことを書いてみたい。

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私が獣医師になった頃にも、抗生物質耐性菌の問題はあった。

しかし、先輩獣医師から、「人医療での抗生物質の使用量や、入院患者の長期の治療に比べれば、家畜の治療に使われる抗生物質の量や使われ方はたかが知れている」

と言われたことがある。

が、実はこれは量については正しくない。

抗生物質の使用量は,ヒトの治療薬として約520トン(1998年度),

動物治療薬として約1060トン(2001年度),

飼料添加物として約230トン(2001年度)に達しており,

ヒトよりも家畜に対する使用量の方が多い。

われわれ臨床獣医師は、適切かつ慎重な抗生物質の使用について常に考える必要がある。

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しかし、この動物治療薬1060トンというのが本当に治療薬なのか、

ひょっとすると治療という名目で処方箋が書かれているだけの大量の経口投与剤ではないのか、

対象は「動物」であって「家禽」ではないのか、

注射薬はどれくらいを占めているのか、知りたい気がする。

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P8220438_2 昔から、オケラも好き。

腕力で生きているようなその姿勢、

どこか間が抜けているのも良い。

なかなかハンサムだと思う。

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雨になるかと思ったら、今日も暑かった。

漁師さんが飼っている牛の手術は延期。

昆布漁が忙しいらしい(笑)。

おかげで学会の準備は進んだ。

夕方、1歳馬の疝痛。


馬伝染性貧血  感染源

2009-09-17 | 感染症

 馬伝染性貧血は、レトロウィルスに属するウィルスに感染することで起こる。

  (wikipediaの記載などを参考にしてください)

その紹介にも書かれているが、吸血昆虫によって媒介されると考えられている。

しかし、吸血昆虫が媒介したとは地域的にも季節的にも考えられないような発生の仕方があったらしい。

獣医師が注射針を使い回ししたために、特定の競馬場や牧場などで多発したことがあったようだ。

特定の獣医師が診療した厩舎や牧場でだけ多発したことがあったのだろう。

かつてはディスポーザブルのシリンジや注射針などなく、シンメルブッシュと呼ばれる器具で蒸気滅菌していたので、それがおろそかにされると感染を招いたのだろう。

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 今、牛白血病の蔓延が問題になっている。

吸血昆虫により媒介されると考えられている。

アブは次から次へと吸血して周るので、牛白血病ウィルスを伝播するが、

ダニは一度ある個体を吸血すると、また次の個体へ移って吸血することはないので、牛白血病ウィルスを伝播させることはないと考えられている。

牛白血病もまた、獣医師が滅菌していない注射針を使い回しすると感染させてしまうとされている。

ごくわずかな血液、リンパ球の中のウィルスで感染が成立することが確かめられている。

直腸検査手袋も、1頭1頭換えないと牛白血病ウィルスを伝播させうることが報告されている。

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 しかし、牛の飼養頭数が多い地域では、「直検手袋を1頭1頭換えていたら仕事にならない」と言う声があるそうだ。

「1時間に何十頭も直検しなければならないのにやってられない」とも聞いた。

 それはおかしいだろう。

 かつて日高ではCEM馬伝染性子宮炎が国内に侵入し、大騒動になった。

ゴム手袋を換えずに直腸検査に飛び回っていた獣医師のやり方も、CEMをうつすのではないかと問題になり、直腸検査手袋を1頭1頭換えないなどということはなくなった。

早朝、4時5時から分刻みで直腸検査して周っていた日高の話だ。

牛飼養頭数が多くて、獣医師の数が多くて、スケールメリットがあって、繁殖検診にせよ、治療にせよ、人工授精にせよ、それなりの計画が立てられ、収益があげられる地域で

「そんなことやってられない」はおかしいと思う。

自分の子供が学校で集団接種を受ける時、学校医が「児童一人一人に針なんか換えてられない」と言って集団接種して良いか考えてみればいい。

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馬伝染性貧血や馬伝染性子宮炎は過去の病気になり、教訓は生かされないのだろうか。

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Candida マーク

2008-10-12 | 感染症

Pa030023_2 牛の乳房炎の細菌検査。

発育が遅めで、白く、乾いた、少し盛り上がったコロニー。

鼻を近づけて臭いをかぐと、パンのような、麹のような臭い。

スライドグラスに蒸留水を一滴落として、白金耳(と言ってもプラスチック製)で拾ったコロニーを溶かす。

ドライヤーで乾燥させる。

グラム染色して顕微鏡で観る。

Pa030022  グラム染色陽性(紺色)の楕円形で大小不同な菌。

酵母様真菌、おそらくCandidaだ。

酵母はパンを醗酵させるイーストや、酒を醗酵させる麹にもつかわれているので、酵母様真菌が生えた培地はパンや麹の香りがするのも納得。

酵母様真菌の乳房炎の治療には、細菌に効く普通の抗生物質は効果がないので、酵母様真菌に効く抗生物質を使わなければならない。

Rogo                     -

右のマークは農業共済のシンボル。

農業をイメージした緑の楕円がNOSAIの「N」の形に並んでいる。

どうも酵母様真菌をイメージしてしまうのは、私だけだろうか・・・・・?