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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

R.equi感染症 ワクチンはできないのか? 

2024-06-09 | 感染症

R.equi感染症の克服のために、ワクチンはできないのか?

Rhodococcus equi (Prescottella equi) vaccines; the future of vaccine development

Equine Vet J. 2015, Sep, 47(5), 510-8

For decades researchers have been targeting prevention of Rhodococcus equi (Rhodococcus hoagui/Prescottella equi) by vaccination and the horse breeding industry has supported the ongoing efforts by researchers to develop a safe and cost effective vaccine to prevent disease in foals. Traditional vaccines including live, killed and attenuated (physical and chemical) vaccines have proved to be ineffective and more modern molecular-based vaccines including the DNA plasmid, genetically attenuated and subunit vaccines have provided inadequate protection of foals. Newer, bacterial vector vaccines have recently shown promise for R. equi in the mouse model. This article describes the findings of key research in R. equi vaccine development and looks at alternative methods that may potentially be utilised.

この数十年にわたり研究者たちはワクチンによるRhodococcus equiの予防を標的としてきた。

馬産業界は子馬の病気を防ぐ安価で効果的なワクチン開発を行う研究者たちの継続的な努力を支援してきた。

生菌ワクチン、死菌ワクチン、弱毒化(物理的、そして化学的)ワクチンは効果がないと証明された。

そして、DNAプラスミド、遺伝子弱毒化ワクチン、サブユニットワクチンなど最新の分子手法によるワクチンが提供したのは子馬の不十分な防御であった。

より新しい細菌ベクターワクチンは、マウスモデルでのR.equiへの有望性を見せている。

この文章では、R.equiワクチン開発での鍵となる研究について述べ、利用できる可能性がある代替方法を紹介する。

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R.equi を Prescottella equi と呼ぼうという提案があるのだろうか?

かつては Corynebacterium equi と呼ばれ、それが Rhodococcus に分類され、混乱があるのだろうが・・・・

Prescott 先生は偉大な細菌学者なのだろうが、安易に人の名前を付けるのはやめてもらいたい。

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子馬はR.equiに生後とても早い時期に暴露され、感染が成立する。

子馬は細胞性免疫能がとても未熟で、さまざまな感染症に敗北する。

その子馬に生後すぐにワクチンを接種しても、免疫賦活される前に、R.equi強毒株に負けていくだろう。

液性免疫が有効なら、母馬にワクチンを接種して初乳を介して子馬に抗R.equi 成分を与えて子馬を守ることが可能かもしれないが、それも望み薄なのはこれまでの調査でわかっている。

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子馬をR.equiから守るためのワクチンの利用は、かなり厳しいと考えた方が良さそうだ。

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朝、関節鏡手術。

それから、子馬の尺骨骨折。

昼でないと来院できない。

発症当日なのだが、骨折線は開いていて、尺骨頭に近い。ずれるとやっかい。

プレート固定した。

午後3時半からは、前日に発症した2歳馬の第一趾骨縦骨折。

内固定器具も2セット以上必要だな。

滅菌が間に合わない。

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エゾカンゾウ

ユリに似ているが別種で、ワスレナグサ類らしい。

ニッコウキスゲと同じだとか、ちょっと特徴がちがうとか。

ササだけ刈って、エゾカンゾウを刈り残すのはなかなか難しい。

冬の間にササを刈っておいたら、少し増えてきたようだ

 

 


消毒?その前に掃除、その前に片付け

2024-04-24 | 感染症

日曜日、めずらしく入院厩舎が空になったので、馬房を掃除する。

馬房の端に積まれた敷き藁を別の馬房へ移す。

高圧洗浄機で壁についた下痢便を落とす。

ブラシで擦るよりは落ちるし楽だが、水圧の当てようによってはペンキが剥がれ、コンパネが削れる。

それでも落とせない汚れもある。

床はワラと便と尿がこびりついている。

高圧洗浄機で洗うと落ちるが、汚れが壁に飛び散る。

床と壁は交互に洗わないと。

壁のクモの巣とホコリが張り付いている。

これも高圧洗浄機で吹き飛ばす。

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この季節、新生子馬の敗血症(関節炎)も多い。

分娩馬房の洗浄、消毒に注意しないと新生子馬が次々に感染することになる。

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ロドコッカス感染症もかなり出ている。

感染子馬からの痰や便は次の子馬の感染源になる。

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これからはロタの下痢も流行する。

種付けに子馬を連れて行くのは十分に注意した方が良い。

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この季節、生産牧場は寝る暇もないほど忙しい。

それでも感染症や伝染病が出たら、もっと忙しくなる。

消毒?その前に掃除を。そして、効果がある掃除をするためには片付けないとできない。

Salmonella やコクシジウム症が出た牧場、病院、厩舎を衛生管理するのは専門的な知識と経験が要る。

Clostridium, Clostridioides など芽胞菌で汚れると洗浄、消毒するのは至難の業だ。

しかし、畜産には必須の技術だ。

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消毒というと、すぐ「消毒薬は何が良いでしょう?」と言う話になる。

有機物があると消毒の効果などないというのは基本事項として習うこと。

消毒の前に十分洗浄しなければならない。

ロドコッカスは土壌にいる、増殖できる、となるとパドックを消毒しようか、と言う話もでる。

土を消毒するなんて無理で無意味。

やるならパドックの土の入れ替えだろう。

土は植物を育てることさえできる有機物と細菌の複合体。

 

 


来年の子馬をロドコッカスから守るために

2023-10-02 | 感染症

季節の反対側に来ると春のことは忘れがち。

ただ、間違いなくやってくる春のために、今だからやっておくべきことがある。

厩舎を掃除しましょう

ロドコッカス肺炎にかかって喉がゴロゴロ、咳をしていた子馬の痰には大量のロドコッカス Rhodococcus equi 強毒株が含まれている。

それは壁や扉や馬栓棒に付着し、こびりつき、あるいは厩舎のホコリになっている。

子馬はあちこち舐めるし、汚れは乾燥すると微粒子になって舞い上がる。

来年生まれる子馬をロドコッカス感染から守るために、今のうちに厩舎を掃除しましょう。

消毒薬をかける前にまず洗浄。

物理的に汚れや有機物を取り除かないと消毒効果は得られません。

冬になったら洗浄機が使えない。

子馬は暖かくなる前に生まれ始める。

掃除して、今年の汚れ(ロドコッカスの!)を落とすのは、、今でしょ!

厩舎わきのパドックの管理

今年、肺炎にかかった子馬を厩舎のそばの小パドックへ出しませんでしたか?

ロドコッカス肺炎にかかった子馬の糞便にはロドコッカス強毒株が大量に含まれています。

下痢はしてなかった?

下痢の有無にかかわらず、喀痰を大量に飲み込むから糞便中のロドコッカス菌量が増えるのでしょう。

ロドコッカスは土壌菌でもあり、土の中で生き延び、気温が上がると増殖できます。

来年、生まれたばかりの子馬を放すのはそのパドックではないですか?

ロドコッカス肺炎の子馬を放して汚染したなら、パドックの土を入替えるのも方法です。

パドックは草で覆われていた方が好いです。

今なら、土を入替えるか深く天地返しして、種を蒔いておけば霜が降りるまでに草の芽が出るでしょう。

ロドコッカス感染症の被害を把握し対策を立てておきましょう

今年の子馬の中で何頭が感染したか把握しておきましょう。

早期発見が重要です。

発症期の子馬の検温や血液検査が有効です。

手間も費用もかかります。

忙しく、作業に追われる春に役立つ対策を立てておきましょう。

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ムクゲはまだ咲いているけど

ドウダンツツジやツリバナは紅葉し始めた。

ヘンな秋だけど、秋は秋だ。

 

 

 

 


Vaccine

2021-02-03 | 感染症

20年ほど前だろうか、ロタウィルスのvaccine の治験を頼まれた。

まだ市販されておらず、ロタウィルスのvaccine が手に入らなかった頃の話しだ。

とある大手の牧場の獣医師に頼んだが断られた。

それほど必要性を感じていない、とのことだった。

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別な牧場に頼んで、製造元の担当者が説明に行くのに同行した。

社長に説明する最初に、その担当者は・・・・

「実験馬に接種したら発熱する馬が出まして・・・・」と説明し出した。

真面目な人だったのだろう。

一番自分が気にしていることから切り出してしまったのだ。

野外で治験をしようとするくらいだから、副作用の率も症状もひどいものではなかったのだが。

結局、その牧場でも治験させてもらうことになり、こんなにロタの下痢が楽に済んだのは初めてだ、というような結果になった。

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当初、治験を断ってきた牧場も、後で「治験させてもらえないだろうか」と言ってきた。

しかし、もう予定頭数に達していたので断った。

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薬でもvaccine でも、副作用は必ず付きまとう。

だから、メリットとデメリットを考えて判断しなければならない。

私は、今のところ、covid19のvaccine接種を期待して待っている。

中国製はイヤだけどね。

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10年ほど前だろうか、日高でもLawsonia腸炎が出始めた。

ブタ用のLawsoniaワクチンが馬にも効くという情報があったので、大学の先生の指導も受けて、投与を推奨することにした。

しかし、結構な値段がする。

不良在庫になると困るので、私のところで予約を取って、発注を取りまとめることにした。

投与方法は、直腸注入が効果的との情報もあったが、経口投与も可能だろうと考えた。

もともとブタでは飲用水に混ぜて投与されていたりもする。

秋の大きくなった子馬に投与する。

ききわけがなく、しつけもされていない、もっともやんちゃで抑えにくい月齢かもしれない。

後に回って直腸内に投与するときに蹴られる人が出るのを懸念した。

Lawsoniaのvaccineはよく効いた。

経口投与でも、投与した子馬は1頭も発症しなかった。

かなりの牧場で使われるようになったので、数年で発注のとりまとめをするのはやめた。

最も購入額の多い薬剤になっている。

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感染源は何か、良い治療方法はないか、予防策はないか、いろいろ考えたが、結局vaccineが一番の解決方法だったかもしれない。

2回投与するvaccineなのだが、値段が問題なら1回にしてみる方法もあるのではないかとか、量を減らしてはどうだろうとも考える。

面倒なのか、経費を気にするのか、vaccineを使わないと決めて、Lawsonia腸症が出てこじれて困る牧場もある。

2回投与するにしても、1ヶ月以上間隔をあけた方が良いらしい。

きちんとした試験をしないまま使い始めたせいで、理想的な使い方はまだわかっていない。

ちょっと責任を感じている。

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ロタのvaccineは、妊娠中の母馬に接種して、初乳を通じて子馬を守ろうというvaccine なのだが、ある日齢で子馬に接種してはどうだろう、とこの数年考えている。

以前は、初乳で守られている間はvaccineを接種しても効果がない、と考えられていた。

しかし、最近はそうでもない、という考えもあるようだ。

母馬から初乳でロタ抗体をもらってもそう長くは続かないし、母馬の乳汁中の抗体も下がってしまう。

ロタvaccineはもともと感染予防効果は強くなく、重症化を防ぐ、ということになっていて、実際にvaccineを接種した母馬から生まれた子馬で感染する子馬も多い。

それなら、子馬自身にも接種してみてはどうだろう、と考えるのだ。

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covid19のvaccineも、接種したくない、という人が多いのに驚く。

科学や医学の恩恵をもう一度考えてみたらどうかと思う。

 

 

 


旭川医大コロナ患者受入れ拒否に思う

2021-01-06 | 感染症

旭川医大の学長が、他の病院での新型コロナのクラスター発生時に、大学病院でのコロナ患者受入れを拒否したことと、

受け入れたいと進言した病院長に「それならお前が辞めろ」と発言したとか、

「あの病院は潰れるしかない」と会議で述べたことが問題になっている。

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文科省も調査を始めたとのことだし、

ネット上でも「学長こそさっさと辞めろ」との意見ばかり。

別に旭川医大学長は知り合いでもないし、偉そうな権力者は私も大嫌いだが・・・・

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旭川医大でコロナ患者を引受けるかどうかは、非常に専門的な判断で、一概に絶対引受けるべきだった、とは言えないかもしれない。

病気はコロナばかりではないので、もし旭川医大病院でもクラスターが発生してしまうと、コロナ感染症以外の病気の患者さんを入院治療する機関病院が共倒れ、総倒れ状態になったかもしれない。

道北には、重症患者や救急患者を受入れられる大病院は少ない。

医大病院は診療機関であるだけでなく、教育、研究機関でもあり、コロナ治療だけに時間と人的資源を回すわけにはいかなかったのかもしれない。

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結局、旭川医大病院もコロナ患者を受け入れることになったし、旭川市のいくつかの病院でのクラスターも抑えこまれたようなのだが。

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「おまえが辞めろ」とか、

「あの病院は潰れるしかない」とかは、暴言の部類だ。

こういう発言をする人は、本当の権限を持っておらず、自信がない人が多い。

自分の意見を通せるなら、余裕を持って「うちは受け入れません」とだけ言えばいいのだから。

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さて、伝染病、感染症。

家畜高度医療センターも、ロタ腸炎の子馬や、サルモネラ感染症、クロストリジウム腸炎の馬は受入れたくない。

ロタの子馬もサルモネラ腸炎も、クロストリジウム腸炎も、ひどい脱水や疝痛を示すことがあって、来院してしまったり、入院治療を頼まれることがある。

しかし、疑いがあったら断るようにしている。

施設構造、労力的に完全な伝染・感染対策ができない。

他の急患を断れない、からだ。

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「そんな馬は死んでしまった方がいい」とは言わないし、

「輸液バックを貸そうか?」とも訊くけどね。

去年もサルモネラ腸炎の子馬の来院・入院治療を断った。

輸液剤と輸液バックを貸したが、その子馬はすぐ死んでしまった。

来院・入院させても同じ結果だっただろう。

受入れ拒否は正しい判断だったと思っている。