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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

第三なんとかコツ

2011-01-04 | 想い出

獣医師になった年、診療所長が休養馬のx線撮影を頼まれたので手伝いに行った。

「おい、第三なんとか骨が傷んでるんだと。」

と言われてもどこを撮って良いのか私もわからなかった。

第三なんとか骨は・・・・・

第三頚椎、第三胸椎、第三腰椎、第三尾椎、第三肋骨、第三手根骨、第三中手骨、第三指骨、第三足根骨、第三中足骨、第三趾骨・・・・・こんだけかな?

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 まあ、今なら見当はつく。

競走馬の骨折で多いのは、前肢の腕節か球節。

第三中手骨が骨折していたらキャスト(ギプス)も付けずにいることはないので、おそらく腕節の第三手根骨の骨折だと競馬場で言われて帰ってきた競走馬だったのだろう。

腕節を触診すれば腫脹、熱感、関節液の増量などがわかったかもしれない。

速歩させてみれば、跛行の程度もわかっただろう。

 生産地の獣医師としての1年目、私にはそんな知識もなかった。

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もっとも25年前だ。

レントゲンは自動現像機のスイッチを入れて現像液を温めてから暗室に入って現像しなければならず、うまく写っているかどうかはドキドキものだった。

関節鏡手術はUSAで始まったばかりで、関節切開しての骨片摘出術の予後は良いとは言えなかった。

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 自分がどういう順序で、どうやって臨床解剖学の知識を増やしてきたか、もう忘れてしまっているが、

思い出せるなら書き留めておこうと思う。

(下図はGoodyの「Horse Anatomy」より)

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Florida on my mind

2010-08-31 | 想い出

むかし、3月にフロリダ大学で3週間研修させてもらったことがある。

フロリダはocalaを中心にサラブレッド生産や育成調教が行われていて、冬でも青草があり、寒くならないので、調教を進めるにも都合が良いらしい。

P8310464_2フロリダの3月は海開きで、春休みになった大学生がビーチに繰り出す楽しい季節のようだった。

「良い所だ」とほめると・・・・・

「夏に来てみろ、ひどいぞ」と言われた。

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そういうと、フロリダは大学の入院厩舎も金網張り。P8310465

壁は天井とつながって居ない。

訪ねた牧場の厩舎もそういう造りだった。

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フロリダの開発が歴史的に遅れた原因は、夏の暑さと吸血昆虫だったとも言われているそうだ。

北海道も蒸し暑いこの夏。

北海道の牧場も放牧地に避陰林やシェルターを作ったり、

スプリンクラーで水を撒くとか、厩舎に換気用の扇風機をつけるとか、

暑さ避けの方法が必要になるのかもしれないと思った。P8310462_3


伝貧検査  摘発・淘汰について

2009-09-16 | 想い出

 伝貧検査は採血も大仕事だったのだが、家畜保健所では持ち帰った血液を血清(凝固した血液の上澄み)分離して検査していた。

これは、ゲル内沈降反応という方法で、馬伝染性貧血を引き起こすウィルスに対する抗体を検出する。

それ以前は、担鉄細胞と呼ばれる細胞で伝貧ウィルスの感染を判定していて、その時代にはずいぶん間違いもあったようだ。

今はゲル沈よりも迅速に検査できるELISAも応用されているが、もう伝貧ウィルスの感染自体が日本ではまず起こらない状況になった。

担鉄細胞、ゲル沈による摘発淘汰が清浄化につながったのだ。

伝貧検査で伝貧ウィルスの感染を疑われた馬を隠して逃がしたとか、治そうとした獣医師が居るとか、実話もふくめて逸話が残っている。

しかし、手抜きや、単なるミスは別にして、その時代にはその時代に最良と思われる方法でその感染症の抑圧に向けて努力するしかない。

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 今、牛白血病の蔓延が問題になっている。

牛白血病ウィルスに感染してもすべての牛が発症するのではないだろうと考えられている。

発病要因を持つ牛だけが発病するのだから、牛白血病ウィルスに感染したことがあるというだけで淘汰するのは可哀想ではないかという意見もあるようだ。

しかし、現在、牛白血病の蔓延を抑える方法が摘発淘汰しかないなら、そうするよりないのではないか。

イギリスやスウェーデンやデンマークのように、かつての馬伝染性貧血のように、国レベルで摘発淘汰を進めるべきところへ来ていると思う。

牛白血病を発症する牛はこの10年あまりで10倍に増えた。

牛白血病ウィルスに感染する牛が激増しているのだろう。

摘発淘汰しか抑圧や清浄化に向けた方法がないとしても、抗体陽性率が全体で何割にもなってしまったら摘発淘汰もできなくなる。

猶予はない。と私は思う。

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今も海外には馬伝染性貧血が発生している国がある。Dsc_0038


原点

2006-10-21 | 想い出

Pa210068 学生の頃、馬に乗っていた乗馬クラブ。

飼いつけも当番制で行うし、専従の職員やインストラクターなどいなかった。

会費も学生で、なんとかなるくらいだった。

 地元の農業共済組合の久保田先生は、ほとんど毎朝来られ、馬を調教し、私たちに教えてくれた。

外乗に出かけた馬が麻痺性筋色素尿症で動けなくなったことがあった。

久保田先生が助けに行き、治療して治った。

外乗に出かけた馬だけが帰ってきたこともあった。どこかで、人を落としてきたらしい。このときも久保田先生が探しに行って、倒れていた乗り手を助けてきた。

 このクラブで馬に乗らず、久保田先生に会わなければ馬の獣医師にはならなかっただろうと思う。

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ホントは写真が白黒だったほど昔ではない。

クラブはこの小学校北側の河川敷から移転して今も活動しているそうだ。

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獣医科学生諸君、機会があったり、事情が許せば是非馬に乗ってみると良い。

そこには歴史あるヒューマンアニマルボンドの世界があるし、体重がはるかに重い動物を扱う How to があるし、何より馬は魅力あふれる動物だ。

すくなくとも将来、動物の専門家ですとか、動物の医師ですと名乗るなら、時間があるときに馬にも触れてもらいたい。

私のように仕事にしてしまうかどうかは別にして・・・・・・


症例の表現とラウンズ

2006-05-02 | 想い出

 私は二次診療というか、獣医さん達から診療依頼を受けることがほとんどなのだが、どうもその連絡が上手ではないと思う。

お互いに忙しいのに、どのような状態で、何をして欲しいのか理解するのに時間がかかる。

 まず、診療して欲しいのか、解剖して欲しいのか、参考意見が聞きたいのかわかるのが遅れる。

 馬の状態については、その馬が当歳馬なのか、1歳馬なのか、はたまた繁殖雌馬なのか言わない人が多い。

繁殖なら繁殖で、「馬の年は?」と聞くと、「あれ、いくつだったかな?」と年齢を把握していない。

当歳馬と育成馬、競走馬そして繁殖雌馬で、考えうる病気はずいぶん違う。繁殖でも年齢が違えば手術になるかどうかの率も違う。

子馬でも「いつ生まれ?」と聞いても、把握していない。

1ヶ月の子馬と、2ヶ月、3ヶ月の子馬はそれぞれ体重も、病気の進行具合も、手術や麻酔の危険度も違うのに。

 「診て欲しい馬がいます。・・・牧場、何歳の競走馬で、・・時からはらいたしてます。・・・時と・・・時に診ましたが、悪くなってます。手術が必要だと思います。」とか、

 「・・・牧場、・・・歳、・・・日分娩予定の繁殖が難産です。帝王切開までする気はありませんが、そちらで難産介助してください。」とか、要領よく手短にいかないものかと思う。

 こちらもしばしば聞くべきことを聞き忘れる。

牧場名も聞かず、何時に着くかも聞かずじまいで、担当の獣医師に連絡がつかなくなると、あとはただ待っているしかない。

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Barn_1  写真はちょっとSCENEが違うのだが、USAの教育病院では毎朝ラウンズと呼ばれる回診が行われていた。

そして毎日、担当の学生が「この何歳の去勢馬は、・・・・で入院していて・・・・・」と入院患畜について説明する。

そして次の日もまた「この何歳の去勢馬は・・・・で入院していて、きのうは・・・の検査をおこない、今日は・・・を行う予定で」と説明する。

ラウンズに出ているメンバーがほとんど同じでも、同じように繰り返す。

思えば、あれが患畜について要領良く説明する訓練になっているのだろう。

日本の獣医科大学でも最近はやっているのだろうか・・・・臨床の講座でなければ望むべきもないが・・・・・

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  馬を連れてきた牧場の方に「何歳ですか?」と聞く。 「ん?56。」

あんたの年聞いてどないすんねん。馬の年や、馬の年!!