朝、分娩予定日を過ぎた繁殖雌馬が軽度の疝痛症状をしめし、破水したが肢が出てこない、との連絡。
来院して、枠馬に入れて手を入れてみると、胎子の腕節が来ていて、おでこも触る。
片前肢の腕節屈曲を整復したら怒責が強くなったので、全身麻酔することにした。
子馬はまったく動かない。
全身麻酔下で後肢をつり上げて、子宮弛緩剤を投与して、産道潤滑剤を入れて、
子馬の顎をひっぱって鼻っ面から産道へ入るようにして、
もう片肢をチェーンを着けて腕節を伸ばして、
あとはひっぱるだけ。
と思ったら子馬の鼻っ面が肛門から直腸壁をかぶって出てきた。
初産ではこういうことが起こることがある。
経産馬と何がちがうかわからないが、産道ができていないのだ。
押し戻して、ひっぱり直す。
子馬は生きていた。
すぐ臍の緒がちぎれてしまったので、指で血を押さえて、鉗子をもってきてもらって留める。
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子馬はチアノーゼがひどい。
子馬の下半身を持ち上げてもらって、蘇生器具で気道を吸引した。
さらに吸引器で気道の用水を吸引した。
気管挿管して、デマンドバルブで酸素吸入した。
口粘膜の色は良くなった。
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しかし、両前肢の腕節と球節が拘縮していて伸びない。
このままでは立てない。
別な難産の依頼が来たので、麻酔から覚めて立ち上がっていた母馬を入院厩舎へ連れて行き、子馬は馬着に乗せて運んだ。
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別な繁殖雌馬が到着。18歳。
まだ破水していないが、分娩のようで、しかしおかしい、とのこと。
膣から手を入れると、頸管は開いてきていて、羊膜の上から胎子を触る、が動かない。
まだ腕節を屈曲させている。
超音波プローブを入れて子馬の胸に当てる。しかし、心臓は動いていない。
選択肢は3つ。
・このまま待つ。頸管がもっと開いて経膣分娩できるかもしれない。が、子宮が収縮し失位整復が難しくなるかもしれない。
・すぐ帝王切開する。その必要が確実にあるのかどうかわからない。
・全身麻酔して経膣分娩を試み、だめなら帝王切開する。
結局、最後の案で行うことにした。
両前肢を整復し、頭をひっぱり、頭位上胎向にして6人がかりでひっぱるが、胸まで出てそこから出ない。
子馬を回してみても出ない。
胸椎で切胎して、下半身は後肢から出そうと試みるが、後肢は膝しか触れない。
下半身だけを摘出するために帝王切開せざるを得なかった。
開腹したら、子宮の中で胎子の後肢は、母馬の背中側へ向かっていた。
まったく”子返り”していなかったのだ。
それでヒップロック(子馬の骨盤が産道にひっかかること)のようになって出せなかったのだろう。
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先の子馬は、肢の問題であきらめることになった。
子馬が正常で、分娩も正常に進めば、人が関与しなくてもお産は無事に済む。
しかし、子馬が奇形だったり、死産だったり、異常産だと、母馬も危なくなる。
逆に言えば、ひどい難産では、たいてい子馬はすでに死んでいるか、奇形かだ。
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樹が切られ、平らにならされた裏山。
重機の力はすごいものだ。
馬の難産用のロボットアームが欲しい。