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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

朝から難産2頭

2019-03-13 | 繁殖学・産科学

朝、分娩予定日を過ぎた繁殖雌馬が軽度の疝痛症状をしめし、破水したが肢が出てこない、との連絡。

来院して、枠馬に入れて手を入れてみると、胎子の腕節が来ていて、おでこも触る。

片前肢の腕節屈曲を整復したら怒責が強くなったので、全身麻酔することにした。

子馬はまったく動かない。

全身麻酔下で後肢をつり上げて、子宮弛緩剤を投与して、産道潤滑剤を入れて、

子馬の顎をひっぱって鼻っ面から産道へ入るようにして、

もう片肢をチェーンを着けて腕節を伸ばして、

あとはひっぱるだけ。

と思ったら子馬の鼻っ面が肛門から直腸壁をかぶって出てきた。

初産ではこういうことが起こることがある。

経産馬と何がちがうかわからないが、産道ができていないのだ。

押し戻して、ひっぱり直す。

子馬は生きていた。

すぐ臍の緒がちぎれてしまったので、指で血を押さえて、鉗子をもってきてもらって留める。

            ー

子馬はチアノーゼがひどい。

子馬の下半身を持ち上げてもらって、蘇生器具で気道を吸引した。

さらに吸引器で気道の用水を吸引した。

気管挿管して、デマンドバルブで酸素吸入した。

口粘膜の色は良くなった。

            ー

しかし、両前肢の腕節と球節が拘縮していて伸びない。

このままでは立てない。

別な難産の依頼が来たので、麻酔から覚めて立ち上がっていた母馬を入院厩舎へ連れて行き、子馬は馬着に乗せて運んだ。

それが、このシーン。

           ー

別な繁殖雌馬が到着。18歳。

まだ破水していないが、分娩のようで、しかしおかしい、とのこと。

膣から手を入れると、頸管は開いてきていて、羊膜の上から胎子を触る、が動かない。

まだ腕節を屈曲させている。

超音波プローブを入れて子馬の胸に当てる。しかし、心臓は動いていない。

選択肢は3つ。

・このまま待つ。頸管がもっと開いて経膣分娩できるかもしれない。が、子宮が収縮し失位整復が難しくなるかもしれない。

・すぐ帝王切開する。その必要が確実にあるのかどうかわからない。

・全身麻酔して経膣分娩を試み、だめなら帝王切開する。

結局、最後の案で行うことにした。

両前肢を整復し、頭をひっぱり、頭位上胎向にして6人がかりでひっぱるが、胸まで出てそこから出ない。

子馬を回してみても出ない。

胸椎で切胎して、下半身は後肢から出そうと試みるが、後肢は膝しか触れない。

下半身だけを摘出するために帝王切開せざるを得なかった。

開腹したら、子宮の中で胎子の後肢は、母馬の背中側へ向かっていた。

まったく”子返り”していなかったのだ。

それでヒップロック(子馬の骨盤が産道にひっかかること)のようになって出せなかったのだろう。

              ー

先の子馬は、肢の問題であきらめることになった。

子馬が正常で、分娩も正常に進めば、人が関与しなくてもお産は無事に済む。

しかし、子馬が奇形だったり、死産だったり、異常産だと、母馬も危なくなる。

逆に言えば、ひどい難産では、たいてい子馬はすでに死んでいるか、奇形かだ。

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樹が切られ、平らにならされた裏山。

重機の力はすごいものだ。

馬の難産用のロボットアームが欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 


子宮穿孔による小結腸脱出と腸間膜損傷

2019-03-11 | 繁殖学・産科学

お産したら腸が出てきました。との早朝の電話。

どんなお産だったか? 子馬は奇形ですでに死んでいた。

出てきた腸は? 小腸だった。

汚さず、傷めず押し込めたか? 傷んでない。少し出ただけ。

ということで来院した。

               -

出ているのは小結腸。

破れているのはかなり奥。子宮の背中側のようだ。

胎盤が残っているので、このまま立位で手探りで縫合することはできない。

実習生に、

「小結腸には腸紐がある。

腸間膜が破れて血行を失っているので開腹して腸管手術するしかない。

直腸に近くて吻合できない部位だとあきらめるしかない。」

と説明する。

開腹したら小結腸の腸間膜は3箇所で破れていた。

1箇所は腸間膜の基部まで裂けていて、縫合して閉鎖するのは極めて困難。

腸間膜に孔が残れば、そこを腸管がくぐることでまた疝痛を起こす可能性がある。

小結腸はなんとか切除吻合できる部位のようだった。

子宮の裂孔は子宮体の背中側右よりで、開腹手術創から触ることはできるが、創外へ引き出すことはできず、目視もできない。

オキシトシンを点滴してもらい、胎盤をひっぱってもらって、胎盤を除去できた。

子宮は縮んだが、膣から手を入れて手探り縫合するのはかなり厳しい。

かなり考えたし、残念だがあきらめることにした。

               ///////////

このごろよく晴れて日中はあたたかい。

日暮れは寒いが、夕陽がきれい。

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日高路は夕陽がとても美しい。

晴れていれば、毎日すばらしい夕陽を観ることが出来る。

地図を思い出して下さい。

長大な南西を向いた海岸線を持つエリアですから。

 

 


異常産 産科学の必要性

2019-03-08 | 繁殖学・産科学

予定日を1日過ぎた繁殖雌馬が、夜中3時に疝痛。ひどくはなかった。

朝6時にも疝痛。

ということで、昼前に来院した。

血液所見はPCVも乳酸値も少し高い程度。

超音波で胸腔近くに腹水(のちに子宮内の羊水だとわかった)が見えた。

直腸検査では、胎子が骨盤腔の先まで来ていた。刺激すると動く。

疝痛はない。

陰部から赤い液が出た。

膣に手を入れてみたが、出血部位は特定できなかった。

射乳した。

子宮頸管は、少し緩んできていて、妊娠中の堅くしまった状態ではなく、ピンクの粘栓はなかった。

入院厩舎で様子を観ることにした。

腹腔穿刺したらわずかに赤い液が採れた。

血清と採れた液のクレアチニンを測ったら、血清では2未満、採れた液は7超だった。

腹腔尿症?

           ー

日中の予定の手術が終わってから、膀胱に内視鏡を入れてみた。

膀胱破裂はない。

来院してからずっと疝痛はない。

馬のようすは悪くない。

夜中の疝痛持より腹囲は減ったような気がする、とのこと。

牧場へ帰って様子を観てもらうことにした。

           ー

夜10時すぎ、その馬が疝痛で来院したが、実は分娩だった。ところが、難産だ、ということで呼ばれる。

胎子はもう動かず、屈曲した頭しか触らない、とのこと。

全身麻酔して後肢をつり上げた。

産道粘滑剤を入れ、子宮弛緩剤を投与し、頭を直し、両腕節を伸ばして、牽引して娩出させた。

が、子馬はすでに死んでいて、角膜は白くなっていた。

           -

おそらく、最初(夜中)から腸閉塞の痛みではなく陣痛だったのだ。

しかし、午前10時すぎには子馬は動いていた。

そのときは、もう破水していたのだろう。

ただ、はっきりした破水ではなく、徐々に漏れてしまうような破水だったのかもしれない。

そして、子馬は午後に死んで、夜に難産になった。

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最初に来院したときに帝王切開していたら、子馬も助かった可能性があったか、とも思うが、

帝王切開しても子馬が助からなかったら、「まだ分娩の準備が完全にはできていないのに帝王切開したから・・・・」

となってしまう。

こういう異常産だと、帝王切開ができる施設に入院して、ずっとモニターを続け、帝王切開のタイミングを知らないといけないと思うが、そのknow-how も器材も、私たちにはない。

馬は獣医分野ではもっとも新生児学が発達していて、分娩前からの観察が重要だとされているが、その方法は確立されていない。

胎児心電図をとっていたことがあるが、簡単ではなかった。

羊水の量は、あきらかに多いとか、極端に少ないのはわかるかもしれないが、客観的に評価する方法は知らない。

分娩誘発にしても、子馬にも安全な方法は馬の場合、いまだにない。

            -

家畜繁殖学の研究者はいるが、産科学はなおざりされている。

(「おざなり」ではなく「なおざり」だ)

1年に1頭しか産めない、最も高価な家畜であるサラブレッドなので、産科学をもっと発展させる必要があると思う。

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なんとか冬を越せたようだ。

エキノコックスを媒介すると嫌われているが、キツネに罪はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


苦戦と決断

2019-02-18 | 繁殖学・産科学

夜、10時40分に呼ばれた。

難産で、頭が「捻れていて」1時間がんばったが直せない、とのこと。

来院したらすぐ全身麻酔する。

両前肢は出ているのだが、頭が遅れている。

横胎向。

頭は鼻っ面から来ている、が産道の奥にやっと届く程度。

横胎向なのを押し込んで、前肢をねじりながら引っ張って、を繰り返して上胎向になおそうとするが直らない。

胎子の顎にフックをひっかけて頭を引っ張ってこようとするが、うまくいかない。

来院してから50分が過ぎてしまった。

「子馬はダメだろうけど、帝王切開してでも親だけでも助けたいか?」

と牧場の人に訊くが明確な返事はない。

             ー

結局、下顎にフックをかけることができて、それで頭をひっぱったらなんとなく上胎向になり、そのまま強引に引っ張り出すことができた。

なんと子馬は生きていた。

結局、親子が帰っていき、掃除や片付けが終わったのは午前1時40分。

             ー

遅れた頭を引っ張るには、下顎にフックをかけるのが有効なときがある。

しかし、あまり強い力で引っ張ると下顎が割れてしまう。

苦戦して先が見えないとき、戦術も大事だし、戦略も大事。

それには情報も重要なのだが、しばしば適切な決断ができないことがある。

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日露戦争は悲惨な状況に陥っていく・・・・

新装版 坂の上の雲 (4) (文春文庫)
司馬 遼太郎
文藝春秋

北方野戦場でも弾薬が足らず、

無能無策な司令官乃木の旅順攻撃は、「もはや戦争というより惨劇」の様相。

要塞攻撃で1万5千人が死に、塹壕が死体であふれ、塹壕として機能しない・・・・・

業を煮やした児玉源太郎は、ついに自らが旅順へ赴き、軍の統制を乱すことや、同郷の友人としての乃木を気遣いながらも指揮内容を一変させ、二〇三高地を陥落させる。

            ー

私は若い頃、無能は罪か?をずいぶん考えた。

歳を経るにしたがって、無能は罪だが、責めても詮無いこと、と思うにようになった。

<「坂の上の雲」は小説で、乃木を愚将として書いていることについて批判や事実誤認の指摘もある>

 

 

 

 


分娩中の結腸脱出 膣前庭裂創

2019-02-13 | 繁殖学・産科学

お産の途中に大結腸が出てきたので、子馬は引っ張り出して、結腸は押し込んだけど・・・・・

という電話。

連れて来るかい?

                -

来院して、枠場に入れて、産道に手をいれたら・・・・

ああ、破れてる・・・・腹腔に手が行く・・・・・腸管触る・・・・・

あ~尿道孔より手前だ。

腹側にムニュと見えているのが尿道孔の入り口付近。

その手前で膣前庭底が避けている。

10cmほど。

長柄の持針器に1 monocryl (吸収性モノフィラメント縫合糸)を着けて、鉗子で膣壁を保持してもらいながら連続縫合した。

膣壁は粘膜をかぶっているが、その粘膜を縫うのではなく、丈夫な膣壁本体をしっかりひっかけて縫うことが大切。

縫い終わる頃、抗生物質が入った生理食塩液を腹腔内へ入れた。

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家の裏に現れた野郎ども。

角をつけた若い雄シカたちだった。

1本角から4つ又までいた。

若いオスもね~・・・・たいへんなのよ。