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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

分娩時の膣穿孔 とおまけ・・・の疝痛例

2022-02-19 | 繁殖学・産科学

夜、11時過ぎ、お産を終えた馬の産道から腸管が出てきたのを押し込んだのを診てほしい、との依頼。

どこが裂けているか尋ねたが、子宮の奥の方だ、とのこと。

子宮角、子宮体部の腹側だと開腹手術して縫った方が良い。

子宮体部の背側、あるいは膣だと立位で縫うことになる。

第2当番を呼び出すかどうか考えながら準備する。 

               -

途中、担当の獣医師からまた電話。

別の難産が入ったので行けなくなった、とのこと。

まずは一人で診てみるか・・・

               -

来院して、枠場に入れて、陰部を洗って手を入れてみる。

あ~膣が裂けてる・・・・

子宮頚管の背側だ・・・・

子宮頚管は・・・・かろうじて大丈夫だ。

これなら立位で縫えるか・・・

               -

特殊な長い膣鏡を入れてみるが、お産が終わった後の産道は弛緩していて裂創は見えない。

仕方がないので、手探りで縫合することにする。

長い吸収性縫合糸を、大きめの三稜針につけて縫合する。

私はなんとか両腕を膣に入れて、左手で裂創の片側を持ち、右手に持った針でそれを貫き、左手で針を抜く。

それを繰り返して膣裂創を閉じた。

おとなしそうだったので尾椎硬膜外麻酔はなしでやったが、これはやるべきだった。

途中で馬がガタついた。

               -

途中の結紮でもたつき、糸が絡んでしまった。

結紮は膣の中で片手でやらなければならないのだが、左手の指がうまく動かなくなった。

それでも、結紮はできているのでほどけはしない。

腸管が出てこないようには縫合できたはずだ。

              ---

終わって1時半。

フトンに入って寝付けずにいると、分娩6日の疝痛の連絡。

20分前に見つけたと言う。

ブスコパンをうったけど治まらない、とのこと。

フルニキシンをうつように指示する。

11分後、フルニキシンを投与したが、馬は滾転する。

診てほしいので、もう馬は出発した、と言う。

何分で着く?と訊くと、40分と言う。

40分で着くわけがない。

じゃあ50分、と言う。

              -

結局、1時間して来院した。

疝痛は治まっている。

馬運車の中でもおとなしかったらしい。

排便があった。

血液検査で、PCV45%、乳酸値1.5mmol/l。

超音波で、十二指腸は動いている、右背側結腸の壁は厚くない、盲腸も膨満していない、右胸腔に胸水なし。

左で左腎臓確認(結腸左背側変位なし)、胃拡張ひどくない、左胸腔に胸水なし。

腹底で、腹水増量なし、膨満した消化管なし。

直腸検査して、腹圧高くない。膨満した腸管なし。腸紐の緊張なし。

              -

入院厩舎で数時間ようすを観ていってもいいけど、子馬を置いてきているし、帰りますか。

また痛かったら連絡ちょうだい。

4時。

もう朝だ。

そして・・・・

           /////////////////

良い天気だった。

近所のスロープでスノボ練習。

スノボは見た方へ曲がっていきますとか、

曲がれ、と思うと曲がります、とか教えられるのは好きじゃない。

スノボの構造、ターンとカーヴできる理論、を理解した。

あとは考えずに実践できるように練習するだけ。

            ー

夕方、モデルナをうってもらってきた。

ファイザー製を2回うった3回目はモデルナ製の方が抗体産生量が多いので、モデルナ製をうってもらいたかった。

ほぼ12時間経ったが、ほぼ平熱。

何かのひょうしにわずかに頭が痛いか?

三角筋はほかのワクチンと同じ程度の反応。

            -

患者?の入ったブースの向こうを看護師さんが転がる椅子で移動しながら次々に接種していた。

前回より効率よくなった印象。

みなさんの努力に感謝したい。

 

 

 


流産の難産は

2021-11-29 | 繁殖学・産科学

1月中旬に分娩予定の馬が、その朝から流産だが、肢が4本産道へ入ってきて、頭は触らず難産だとのこと。

流産が難産になることはあるが、妊娠月齢が早いと胎仔が小さいので、月満ちた分娩より容易であることが多い。

「こんなの持ってきちゃって・・・・」

と担当の獣医さんの弁。

                   -

枠場に入れて、リトドリンを投与して、産道潤滑剤を入れて、

うちのアラフォーの獣医さんが手を入れるが、彼はギックリ腰の療養中。

力が入らないみたいで交代。

                   -

別の獣医さんが手を入れる。

牧場で、後肢を牽引しながら、前肢を押し込もうとしてきたらしい。

だから、もう後肢を牽引して、尾位にして出すしかないのかもしれない。

しかし、枠場でやってみても怒責が強くて前肢を押し込めない。

                   -

それで、私に交代。

中の様子を把握して、

後肢の産科チェーンを強引に引張ってもらう。

途中でバキッと音がしたが、胎仔が出てきた。

まだ、小さい。

胎仔は最後の1ヶ月あまりで急速に大きくなる。

難産は胎位、胎勢、胎向を修正しないと出てこないが、胎仔が小さいなら別だ。

胎仔と胎盤は検査のために家畜保健衛生所へ届けてもらう。採血も忘れずに。

                  -

今シーズンはじめての難産症例だった。

               ///////////////

近年は、1年中昼夜放牧されている若馬も多い。

跛行してないか、怪我してないか、風邪ひいてないか、元気は良いか、観察してやることもだいじ。

 


難産 頭頚部失位2頭

2021-05-02 | 繁殖学・産科学

朝、飛節OCDの関節鏡手術。

若い先生に教えながらやるが、細菌性関節炎の関節洗浄や先週からの疝痛馬が待っていてのんびりもしていられない。

関節鏡手術は早々に終わらせて、

もう破水から4時間経っている難産。

最初から頭が触れない、とのこと。

枠場に入れて腕を入れると、両前肢は膣へ来ているのだが、頚が曲がり、頭は下顎にしか触らない。

「全身麻酔して出せるかやってみましょう」

もう16歳で、もうそろそろ繁殖を引退、と思っていた馬だそうだ。

                  -

全身麻酔して後肢を吊上げて、両前肢に産科チェーンをかける。

さらに腕を入れて、頚にもチェーンをかけた。

それを引張ってもらうと、子馬の顔に触ることができた。

子馬はもう死んでいるだろう。

眼窩に産科フックをかけて、弱く引いてもらうと鼻っ面がこちらを向いた。

頭を産道へ誘導したら、膣内へ頭が入ってきた。

ショットラー(産科ワイヤー)を子馬の耳の後にかけた。

あとは引張るのだが、まだ横胎向なので、捻る。

上胎向になった。

牽引して・・・・娩出させられた。

大きな雌子馬だったが、角膜は白濁していた。

早い時期に死んでいたのだろう。

                 -

向こうの覚醒室で疝痛の馬を倒して、腸管手術が始まる。

もとは結腸便秘だったようだが、結腸が変位し、便秘が解消したあとも便が出ない。

手術の開始だけ手伝って、私は午後は地元獣医師会の理事会。

戻ってきたら、開腹手術の最中だった。

子宮角に血腫ができているのと、その部分で穿孔し、腹膜炎を起こしている。

血腫を切開して凝血をかき出し、あとはいつものように穿孔を閉じ、腹腔洗浄。

                 -

その夜中、1:44に起こされた。

「難産で、片方の腕節しか触れない」、とのこと。

来院して、枠場に入れて、産道に手を入れてみるとたしかに。

22歳でもう種付けはしない馬。

「牧場でも子馬は動いていなかった」、とのこと。

家畜共済も非加入の牧場。

とても帝王切開や全身麻酔しての難産介助の対象にはならない。

枠場でやれるだけやってみる。

若い獣医さんに、「中手骨に産科チェーンをかけて」

「それを引張りながら、今度は繋にチェーンをかけて」

と指示しながら進める。

片方の腕節は伸びて、産道から蹄が出た。

球節が硬い。

蹄も黄色く染まっている。これは、胎仔が胎便を洩らしたことを示している。子馬はもう死んでいる。

もう片方の肢も伸ばして、それから曲がっている頚を伸ばして・・・・だが、

母馬が汗をかき、踏ん張り、苦しみだした。

もう苦痛を与えても仕方がない。

そのままあきらめることにした。

解剖場で子宮を開けてみた。

子馬は頚を曲げ、伸びていない残りの腕節でその頭を抱えていた。

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入院厩舎に、きのうの開腹手術馬2頭が入っている。

もう夜が明ける。

検査と治療をしなきゃ。

                //////////

ウメ~はさい~たか

 さく~らは まだかいな ♫

 

 


右子宮角の血腫と穿孔、そして腹膜炎

2021-04-30 | 繁殖学・産科学

分娩して1日半の繁殖雌馬。

腹膜炎を起こし、子宮穿孔が確認されて開腹手術。

私は会議から戻って来て、途中から立ち会った。

右子宮角が膨らんでいるのがいつもの子宮角穿孔とはちがう。

子宮壁の中が血腫になっている。

中の凝血を出しておかないと後で化膿するかもしれない。

搔き出したら子宮角の膨らみはずいぶん小さくなった。

子馬が後肢で蹴って、ただ穿孔するのではなく、子宮壁の中の血管も切れたのだろう。

あとは、汚れた腹水をできるだけ排泄し、生理食塩液を入れ、また排泄するのを繰り返す。

ドレインを残して閉腹。

                  -

例年、お産が堪える馬だそうで、分娩後2-3日は調子が上がらないのだそうだ。

麻酔覚醒も時間がかかった。

入院厩舎で持続点滴を開始する。

開腹手術前はPCV56%、翌朝はPCV51%だった。

食欲は1割ほど。

どうしようか考えたが、子馬が待つ牧場へ帰ってもらった。

この季節、牧場も忙しい。

               /////////////////////

花が開くのを楽しみにしているのに

このGWはすっかり雨のようだ

自粛してもらうには良いかもしれないけど

 

浅野のお殿様の暴挙にかかわったことで小藩にお預けになり幽閉謹慎させられている旗本をとりまく物語。

赤穂浪士の数名が、殿様の最後の言葉を訊きたくて訪ねてくる。

ことばを伝えたり、赤穂浪士があだ討ちをすれば、この主人公も罪を問われ、預かっている藩も幕府に責められる。

そうなるくらいなら病死、にでもすべく抹殺してしまおうとするかもしれない・・・・・

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まあ、かなり設定にも物語にも無理がある。

将軍の気まぐれや、ご政道にも、赤穂浪士たちの論理も矛盾がある。

思えば、武士道とかいうくせに、ごまかすことは平気でしてきたのだな。

証拠が残せない時代の悪弊だな。

 


子宮体背側から膣への穿孔

2021-04-28 | 繁殖学・産科学

朝、というかまだ夜中、3時23分に起こされる。

「難産で来た馬で、子馬を引っ張り出したけど、来院前から膣穿孔していて、子宮まで裂けていて縫えそうにない」

とのこと。

全身麻酔して後肢吊上げで出したのだと思い、

「馬はもう立ったの?」

と訊くと

「枠場で出した」

とのこと。

「今、行くわ」

                 -

1時間以上かかる力仕事になるかもしれない。

ギックリ腰にも、60肩にもならないように準備体操しながら野菜ジュースだけ飲んで”出勤”する。

子馬は枠場の前でのた打ち回っている。元気良さそう。

直腸検査エプロンと直腸検査手袋、その上に手術用のグローブをつけて陰部から手を入れるとたしかに大きく裂けている。

入れた手は腹腔へ入り、縮み始めている子宮壁外側のゴワゴワを触る。

裂孔の頭側も触れる。

「これなら縫えるかな」

「立位で縫うから子宮が縮んでくれた方が縫いやすいかも」

オキシトシンの点滴を始める。まだ残っている胎盤も落ちてくれるかもしれない。

尾椎硬膜外麻酔。

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三稜針に吸収性編み糸2号を付けて・・・・・付け外しに・・・持針器が要る。

それと糸を切るのに鋏。

いや、鋏付き持針器だからホントは糸切り鋏は要らない。まだ寝ぼけてる。

繁殖雌馬は18歳だと言う。

子宮から膣まで裂けているので、大切な子宮頚管も裂けてしまっている。

「もう受胎は難しいと思いますよ。でも子馬が生きているから乳飲ませてくれれば乳母代いらないから」

乳母を借りるには100万近い費用がかかる。

                 -

縫合は・・・・北米馬外科専門医にやってもらった;笑

私がさらに経験を積んでも私はもう上達しない。

これからの若い外科医に経験を積んでもらうことの方が価値がある。

左手で子宮壁を引張っておいて右手で子宮壁に針を通しても良いし、

完全に手探りで右手で縫合することもできる。

大きめの三稜針を使うことが要点のひとつ。

糸は片手結びで手探りで結ばなければならない(できるよね?獣医外科医のみなさん)。

1時間ほどで縫えた。

                 -

その間、私は超音波装置を出してきて腹腔を診た。

液体はあるが多くはない。

このあと、腹膜炎を起こす可能性はある。

お産はRed Bag Delivery (早期胎盤剥離)で、下胎向で、初期に膣背側を穿孔していたとのこと。

潤滑剤を使ったが、胎盤の中に入れたので腹腔へはほとんど入っていない、はず。

腹膜炎を起こしたら、腹腔ドレナージが必要になるかもしれない。

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子馬は毛布にくるんでぶら下げて馬運車に乗せ、うしろを母馬を連れて行った。

ベテランのお母さん馬だ、命がけで哺乳してくれるだろう。

試しに搾った乳は蜂蜜のような良好な初乳だ。

このお母さん馬は、2年前に結腸捻転で助かった馬。

けっこう重かったらしい。

今はすっかり太って、体形も崩れていない。

外はもうすっかり夜が明けた。

life or death, but survive !

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相棒にひっぱられて

こぶしを観に行った

私にはわからないが

におい、するのかもね