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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

馬の反転性裂胎

2023-03-27 | 繁殖学・産科学

<馬の難産と奇形胎仔の話で写真もあります。見たくない方は見ないでください>

            ー

「ほぼ予定日どおりだが、朝、お産が始まっていて出血していた。

胎盤は剥がれて出てきている。

子馬の頭は触れず、肢が3本来ている。」

とのこと。

胎盤剥離で胎仔が死んで、そのまま押し出されて来ているのだろう。

破水から時間が経っているだろう。

流産なら胎仔が小さいので出せるかもしれないが、予定日どおりだと失位整復は厳しいかも知れない。

全身麻酔して後肢を吊上げて、胎仔を押し戻して失位整復できなければ、帝王切開するしかないが・・・

と考えて、当番獣医師と実習生を呼び出す。

朝になって帰ったばかりなんだけどね;笑

           ー

全身麻酔する前に、社長に電話をしてもらって、帝王切開までする意向があるか確認する。

18歳で体型も崩れている。

そして異常産だ。

普通には帝王切開までするのはお勧めできない。

全身麻酔した繁殖雌馬の産道に手を入れてみる。

肢が4本来ている。ずっと奥に子馬の口を触る。

・・・・前肢を押し込んで、尾位にして牽引しよう。

ひっぱったり、押し込んだりして、尾位上胎向にして引きだそうとするが、飛節より先は出てこない。

そのうち腸管が見えてきた。

産道損傷?

いずれにしても厳しい。

母馬も助ける方法はない。

            ー

解剖場で剖検した。

子馬は背中で折れ曲がっていた。

鼻面も曲がっている。

これでは失位を整復できないし、失位整復できて牽引しても出ては来ない。

子馬は反転性裂胎だった。

脊柱が折れ曲がり、腹腔が閉じておらず、臓器が体外へ露出している。

            ー

反転性裂胎は、反芻獣、特に牛で見られることがある奇形で、原因はわかっていない。

schistosomus reflexus

馬ではとても珍しい。が、報告はある。

鹿児島大学で牛の奇形を研究しておられた浜名先生がおっしゃるとおり、

発生を記録しておくことがのちのちの病因解析につながるかもしれない。

牛でも、産道から娩出させることはできず、ほとんど帝王切開して異常胎仔を摘出することになる。

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春の妖精。

 

 

            

 

 


春の薫り

2023-02-06 | 繁殖学・産科学

当番の夜、分娩予定日を過ぎた繁殖雌馬の呼吸が速い、との相談。

症状、経過を聞くが、来院してもできることはなさそう。

分娩徴候がないと帝王切開しても子馬はまず助からない。

疝痛がないなら母馬の開腹手術の適応でもない。

           -

朝、1歳馬の外傷の依頼。

”ひばら”が20cm切れている。皮膚だけ。とのこと。

「自分で縫わないんだ」と訊いたら、バリカンが凍って動かないし・・・とのこと。

手はかじかむしね。

来院したら、膁部の腹側、膝ヒダの部分がF型に切れていた。

これは丁寧に縫うなら時間がかかる。

そして、癒合が悪い部分だ。

体幹と後膝を結んでいるヒダ状の皮膚で、動くたび、歩くたび、寝起きのたびに引っ張られるからだ。

立位で縫ったが1時間以上かかった。

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午前中、1歳馬の前肢の跛行診断。

直線常歩 Dysonグレード6/8。

ブロックするが、10%しか効かない。

しかし、どう観ても蹄の跛行だ。

そこへ、難産馬の来院。

           -

なんと、昨晩からの難産。破水から12時間経っている。

頭と後肢が産道へ入ってきている、とのこと。

枠場で診たら、たしかにそのとおり。

帝王切開するしかありません、と言ったら、「やってください」。

帝王切開は1時間あまりで終わった。

羊水が汚れていたので、閉腹の前に腹腔を洗浄した。

子馬の前肢は牧場での牽引で肩から剥がれてしまっていた。

腹膜炎を起こさないか、コントロールできるか、子宮頚管や膣の損傷が治まるか、わからない。

           -

午後の診療予定は遅らせてもらって、1歳馬の中手骨部の血腫。

もう1ヶ月ひかない。

全身麻酔下で、小切開してデブリドして、腔の遠位も切開しておく。

腫れるだろうが、袋状でなくなれば治っていくだろう。

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夕方、1歳馬の疝痛。

ガスが抜けて楽になったらしい。

まだ乳酸値はわずかに高かったが、超音波検査で異常なし。

帰っていった。

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まだまだ寒いし、日も短いのだが、春の薫りがしてきた。

         

 


初難産2023は尾位

2023-01-23 | 繁殖学・産科学

朝、4時半、あと30分ほどで難産が来ます。

肢が来てるけど、頭が触れない、ということなんで・・・との電話。

エネルギーチャージして、準備体操してから出かける。

          -

枠場に入れて、腕を入れたら「後肢ですね」とのこと。

牧場では飛節までは触れなかったらしい。

産科チェーンをかけて、尾位のままひっぱりだす。

破水から3時間経っていたが、子馬は生きていた。

結果的には牧場で引っ張らなかったのがLuckyだった。

本当は、尾位ならそのまま後肢から引っ張り出した方が好い。

尾位で産道に入ると早くに臍帯が切れるので急ぐのだ。

急がない難産ってあまりないけど。

というわけで、この繁殖シーズン最初の難産は子馬が生きて出てきた。

さいさき好いぞ、と思うことにしよう;笑

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今シーズン5日目のスノボ滑走。

朝はマイナス12℃で、寒いし手足の指が凍えた。

平日はあいかわらずガラガラ。

怪我や故障しないように頑張る;笑

 

 


診療実績2021 難産

2022-11-14 | 繁殖学・産科学

2021年帝王切開は4頭。多い年ではなかったようだ。

静脈維持麻酔による難産整復は13頭。

さして多いようには感じない数字かもしれないが、ほとんどが3月4月に集中し、夜中の重労働だ。

時間もかかる。

ワンショット麻酔による難産は2頭。

合わせて15頭が全身麻酔しての難産介助ということになる。

立位・枠場保定での難産介助・失位整復が16頭。

枠場が使えるおかげで「出せる」ということはある。

しかし、難産介助の途中で輸送時間を挟むのは、母馬にとっても、子馬にとっても良いことではない。

運ばれてくるような難産は、子馬は死んでいるか、腕節や球節が伸びないのが多いが・・・・

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総計35頭が帝王切開・難産介助・失位整復の件数。

            ー

私は獣医師になって38年。

馬の二次診療にたずさわって37年。

ひどい馬の難産をいちばん診てきたのだろう。

正解のない、とても難しい選択が必要な診療だと思う。

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きのう、日曜日は、前日に依頼された当歳馬の喉嚢真菌症。

2ヶ月前から頭をかしげ、左耳の位置が低かったらしい。

10日前にわずかに鼻出血した。

前日、大量に鼻出血し、喉嚢内視鏡検査をしたら大量の血餅と真菌病巣が左喉嚢にあった。

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来院して口粘膜を見たら貧血気味。

心拍66.

頭の傾きはわからないが、左耳が低い。動いてはいる。

右喉嚢から内視鏡検査したら、茎状舌骨の上側がやや太い。

左喉嚢は血餅がいっぱいで観察不十分だが、真菌病巣が内頚動脈部にあるのが確認できた。

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全身麻酔して、左の内頚動脈結紮とマイクロコイル栓塞術を行った。

この当歳馬、左耳の中が赤い粘液で汚れていた。

喉嚢(耳管憩室)から内耳、中耳を経て汚れがあふれてきたのだろうか?

喉嚢炎でも、側頭骨舌骨関節症でも、そんなことになった症例は診たことがないが・・・・

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血液検査、抗生剤治療、抗真菌剤治療、を提案しておいた。

重症だ。

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全国の天満宮で奉られている菅原道真公は、牛にも縁があったらしい。

蒔絵で牛車を引いているのは、黒毛和牛だよね。

肥育して食べたりはしなかったのだろうけど;笑

 

 

 

 

 


帝王切開後の胎盤停滞の治療 羊膜注水とオキシトシン点滴

2022-02-23 | 繁殖学・産科学

私が休みの日の夜中に難産で帝王切開された母馬。

翌日は元気が無く、食欲もなく、口粘膜は貧血していて、胎盤も落ちなかった。

何度かオキシトシンを皮下注したが、反応がない。

羊膜への注水も2回やったが胎盤も落ちなかった。

子馬はその夜、死んでしまった。

              ー

帝王切開の翌々日、枠場に入れて、オキシトシンを点滴投与しながら羊膜への注水をまたやった。

羊膜の大きな血管にチューブを入れて、ストマックポンプで水を送る。

10リットル入れて放置した。

母馬は、汗をかき始め、そのうち脚をガタガタし始め、

胎盤がバタンっと落ちた。

その間、40分。

            ー

途中、全体を捻りながらゆっくり引っ張ったりしたが、手で剥がしたりはしていない。

            ー

どうしてだかわからないがオキシトシンは点滴投与が特異的に効果をあげる。

作用時間の問題だけなら繰り返し皮下注射してもよいはずだが、ゆっくり点滴するとそれ以上の作用を感じる。

濃度が高くなるとブロックする機構があるのかもしれない。

そして本来、点滴静脈内投与する薬剤なのだ。

            ー

胎盤停滞への、羊膜への注水は画期的な効果的な方法だ。

水道ホースからつないでも良いが、注水量がわからなくなるので、

バケツの水をストマックポンプで入れるのが好ましいかもしれない。

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散歩は行かない。の図。