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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

繋靭帯炎の手術、子宮穿孔の開腹手術、全身麻酔での難産介助、後肢外傷の全身麻酔での処置

2021-05-13 | 日常

朝、繋靭帯炎の2歳馬の手術。

繋靭帯”炎”の手術は昨年から始めて、もう7頭ほどになった。

写真左が遠位。下が繋靭帯。その上が屈腱周囲の組織。間に肉芽様の組織がある。

その肉芽様組織を切除し、裂けている繋靭帯の中もデブリドする。

種子骨から剝がれた骨片が飛んでいたりもする。

この2歳も繋靭帯を傷め、休養したが運動再開すると球節が腫れた。

繋靭帯損傷部のデブリドで、温存よりは良い治り方をすることが期待できる。

                     -

つづいて、順番待ちしていた子宮穿孔疑いの繁殖雌馬の開腹。

子宮角の先端だが、漿膜は大きく裂けていた。

下胎向の難産だったそうだ。

縫合後。

今年も子宮穿孔は多かった。10頭近くになったのではないだろうか。

                 -

その手術の最中に難産の依頼。

夜中2時からのお産で、結局来院したのはお昼すぎ。

全身麻酔して後肢を吊り上げ、おでこから来ている頭を直して、

両前肢の腕節を屈曲しているのを直して、

ひっぱったが出ないので、時計回りも、反時計回りも試して、それでも出なかった。

母馬の左脇腹に子馬の後肢が突き出ていた。

子馬を胸椎で切胎して、母馬の脇腹の子馬の後肢を産道の方向へ押し戻して、

子馬の両後肢にチェーンをかけて、下半身は押し戻して、上胎向に直してひっぱり出した。

その間、1時間ほど。

母馬が今後無事かどうかはわからない。

                -

難産の馬が寝ている間に、前日、ウォーキングマシーン内で後肢を怪我した2歳の治療。

全身麻酔下で、もう化膿が始まっている傷を洗って縫合した。

             ////////////////

オラはちゃんとひるごはんもらえました

ログハウスでゆっくりねてました


Ganbare Wareware 2

2021-05-05 | 日常

うまく手術できた、と思った空腸重積の子馬がその夜から疝痛。

・吻合部位の通過が悪い

・また回虫が詰まった

・術後イレウス POI

・また重積した

いろいろ可能性を考えるが、再開腹は現実的ではない。

治療費がかさみ、生存率は1回目より低い。

痛み止めだけで経過を観ることにする。

翌朝、痛みは少しは落ち着いたが、状態は改善していない。

                 -

そんな早朝、繁殖雌馬の疝痛の依頼。

痛くて手に負えない、とのこと。

すぐ第2当番も呼び出す。

来院したら立っていられない。

血液検査所見は悪くないので、超音波検査したいが寝ようとする。

この馬、育成馬時代に開腹手術歴があり、おととしは癒着が元になって結腸捻転で2回目の開腹手術をしている。

その後、2回お産した。

前回の結腸捻転は妊娠末期だったで結腸固定していない。

再発したか?

開腹したら、予想外に空腸回腸の纏絡だった。

それも何重にかに小腸同士が巻きついて解けない。

第3当番も呼び出してもらう。

幸い、絞扼されて壊死し、膨満しているループのひとつが術創から離せたので、そこを切開して内容を捨てる。

他の部分で腸管を絞めている腸間膜を切断する。

それで腸内容を移動させられるようになり、絡んでいるループが解けた。

                 -

回腸を切断して盲端にする。

捨てる空腸下部と回腸を廃液ホースに使って吻側の空腸の内容を捨てる。

3.85m吻側orad で空腸を切断して、盲腸へ端側吻合した。

あとは腸間膜の穴を閉じる。

                 -

その手術のために手洗いしているときに、難産も依頼されていた。

当番でない獣医師も呼び出した。

腸管手術が終わる目途がたって、覚醒室で全身麻酔して難産介助を始めた。

もうお産の開始から4時間以上経っていて、産道が腫れ、羊水もなくなり、頭の失位を整復しても下胎向が治せない。

手術室があいたので、帝王切開する。

                 -

調教している2歳馬の疝痛も頼まれていた。

帝王切開の子馬を引張り上げるのを手伝ってから、2歳を診察した。

超音波でははっきりした異常はない。しかし、左の腎臓が見えない。

とても臆病な超大型馬。

鎮静剤と鼻捻子して直腸検査したが、左の腎臓の尾側にかろうじて手が届くだけ。

脾臓が触れ、左の腎臓と脾臓の間に結腸があって、そこから少し離れた骨盤曲らしい部分には便秘様の内容がある。

結腸左背側変位は否定できないが、様子を観ることにした。

                 ー

午後は腕節骨折の関節鏡手術。

そのあと、子馬の脚軸異常のsingle screw 手術。

具合が悪いきのうの小腸重積馬を診察する。

口粘膜チアノーゼ。

もうダメだろう。

超音波検査したら・・・・

また見事な重積像が見えた。

あきらめることにする。

吻合部位はなんの問題もない。

その吻側で2ヶ所が重積を起こしていた。

なんてこった・・・・

                  -

剖検を終えて私は引きあげた。

2歳馬は結局、左背側変位だったそうだ。

               /////////////////////////

構内のサクラも満開。

むこうの山のサクラも満開。

 

 

 

 


Ganbare Wareware

2021-05-04 | 日常

世間はGW。われわれには関係ない。

その日は、朝、子馬の肢軸異常のsingle screw 手術。

その前に、子宮穿孔・腹膜炎疑いの依頼。

臍から尿が漏れていた子馬が尿が出なくなった、のも診てほしいと依頼。

午後に入っているのは骨折手術なので、延期はできない。

                  -

single screw 手術と手分けして診た分娩後不調の繁殖雌馬は子宮穿孔で間違いなさそうだ。

左子宮角の穿孔。

馬の一般状態は悪くない。

入院しないで牧場で治療を続けることになった。

                 -

その手術の間に来たのは、臍から尿が出ていたのがでなくなった子馬。

腹腔尿症だ。

臍の構造が壊れて尿が腹腔へ漏れるようになったのだろう・・・・・

と思ったが、膀胱は臍近くでしっかり破裂していた。

                    -

そんな最中に、2月生まれの当歳馬の疝痛も来るという。

超音波で診たら、

見事な重積像。

膀胱破裂手術が終わるのを待って開腹する。

60cmほどの空腸空腸重積で、引張って戻すことができた。

絞められていた部分と、絞めていた部分が傷んでいたので切除し吻合する。

切除部190cm。

切除したら、吻側も反吻側も盛んに蠕動し始めた。・・・・・あとでそれが祟ったようだ・・・・・・

                 -

1時間ずらせて、2歳馬の第一指骨縦骨折のscrew固定。

同じ球節関節面からの縦方向への骨折でも、中手骨/中足骨の外側関節面、内側関節面、そしてP1の骨折で、リスクは異なる。

P1はワイングラス。危ないんだ。

                 -

昼前に来ていた角膜損傷の子馬は夕方まで待たされた。

角膜が広範囲に溶解melting している。かなり深い。

穿孔したらほとんど失明する。

手術室で吸入麻酔し、感染・壊死した角膜組織を剥がし、

眼球結膜を端から切れ込みをいれて、

病変部を覆った。

角膜には8-0の糸で縫いとめてある。

血行(血管)がない透明な角膜とちがって血行豊富な粘膜組織が、酸素や、白血球や抗体をはじめとする免疫成分を供給し、

感染した角膜を保護し、再生させてくれる。

                - 

朝から全身麻酔6頭。うち吸入麻酔5頭。うち開腹手術3頭。

やれやれ、Ganbare Wareware

(つづく)

けど、not to be continued  つづく べきじゃない;笑     

 

 


たいへんな、そして長い日曜日

2021-03-29 | 日常

朝、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

午後は、繁殖雌馬の歯の治療の予定が入っているだけだった。

まあ、繁殖シーズンだ。

そう穏やかに済むとは思っていなかった。

子宮穿孔疑いの繁殖雌馬の依頼。

            ー

さらに新生子馬の鼠径ヘルニアの連絡。

疝痛症状があるという。

それじゃあ連れてきてもらうしかない。そして、子宮穿孔・腹膜炎は午後にずらしてもらう。

鼠径ヘルニアの子馬は、たぶん、開腹手術になる。

悪ければ腸管手術になる。

来たら、鼠径部がかなり腫れている。

こりゃダメだ。すぐ手術だ。

こんなに腫れているということは、陰嚢の総鞘膜が破れているのだ。

腹腔と連続している総鞘膜の中へと脱出した腸管を戻すことはできない。

手術するにしても開腹手術もして、腸管を引っ張り込まないととても腸管を鼠径から押し込むなんてできないだろう。

去勢もしなければならない。

そして、反対側も鼠径が広いなら去勢して鼠径輪を閉じてしまった方が良い。

              ー

それが終わって・・・・・

午後1時からは繁殖雌馬の歯の治療の予定が入っていたが、黒毛和種牛の難産も帝王切開して欲しい、との依頼。

仕方がないので、二手に分かれて対応することにする。

私は、牛の帝王切開を担当することにした。

それが一番速いだろう。

ところが、来院した二産目の黒毛和種は興奮していて診療室へ入れられそうにない。

「こんな牛、立位で帝王切開できない」

「寝ちゃっても仕方がないから鎮静剤打とう」

鎮静剤投与したら落ち着いて、帝王切開を始められた。

しかし、すぐ伏臥してしまった。

そのまま帝王切開を続けて子牛を引っ張り出して、子宮を縫い閉じて、腹壁を縫って・・・・

皮下織は開業の若い先生に縫ってもらった。

私は追いかけるように皮膚を閉じた。

            ー

なんとこの牛、開業の先生が鎮静剤の拮抗剤を投与したら立ち上がって興奮して、飼主さんを振り切って逃げ出してしまった。

飼主さんと獣医師3名で追いかけたが、捕まえられない。

逃げ回ったあげく、500mほど離れた砂利置き場へ逃げ込んだ。

そこで飼主さんが捕まえて、土木資材につなぎ、トラックをとって来た。

トラックに引っ張り込もうとしたが、牛は入らない。

私が後ろから追おうとしたら、私めがけて突進してきて、飼主さんが離してしまった。

走る牛のロープを私がつかんだが、とても止められない。

牛は今度は診療所の敷地へ戻った。

            ー

忙しい日で、馬運車は4台停まり、畜主たちも居た。

「牛の方へ行かないで~!! 襲ってくるよ! 飼主以外が行くと牛逃げちゃうから~!!」

また飼主さんが牛を捕まえた。

たまたまトラクタ-が入っていた建物のそばだったので、シャッターを開けてトラクターの後ろへ繋いだ。

もう、牛の鼻環は壊れ、頭絡も切れかけている。

こんな牛が鼻環もなく、頭絡も無くなったら、どうしようもない。

国道まで逃げていったら人身事故になりかねない。

            ー

牛をトラクターで引っ張り、なんとかトラックの後ろまで連れて来た。

しかし、牛はトラックには乗らない。

首に荷揚げ用のロープを掛け、さらにもう一本かけて左右に引っ張って固定した。

そうやっておけば鎮静剤をうちに近づける。

それでやっと牛をトラックに引きずり込めた。

            ー

その間に、歯の治療は終わって、子宮穿孔・腹膜炎の手術が始まっていた。

子宮を閉じ、腹腔内を洗浄し、覚醒室へ運び出した。

新生子馬の胎便停滞疑いが来たので、私は別室で対応。

X線検査で胃も、小腸も、大腸も膨満している。

超音波で消化管がガスで膨満している。

潤滑剤で浣腸するが、浣腸液があまり入っていかない。

内視鏡を入れてみたが、20cmほど先から入っていかない。

・・・・・造影剤を入れて再度X線撮影したら、造影剤も行き止まり。

腸管の形成不全の可能性が高い。しかし、100%の確定診断ではない。

             ー

あちらの覚醒室で大きな音がしたので走って観に行った。

子宮穿孔の馬が覚醒起立しようとして、左の腕節を脱臼してしまっていた。

これでは予後不良だ。

それでも暴れて立とうとするのを抑えて、安楽殺した。

残念だが、それ以外どうしようもない。

             ー

新生子馬もとりあえず牧場へ帰ってもらうことにした。

             ー

夜、寝ついたところを起こされた。

分娩5日目の繁殖雌馬の疝痛だと言う。

PCV57%。

きのうも疝痛、次の日も疝痛しフルニキシンを投与し、さらに再発したのでフルニキシンを再投与し、そして今度は手がつけられないほど痛くなった。

来院したが、痛くて検査もできなかった。

これは、ダメかな、と思いながら開腹したが、なんとかなりそうだ。

結腸を引っ張り出し、骨盤曲を切開して内容をできる限り捨て、捻転を整復し、元へ戻して、colopexyして、閉腹した。

片付けて、入院馬房に輸液を吊り、カルテを書いて・・・・帰って寝る。

             ー

と、フトンに入ったらスマホが鳴った。

今度は難産だという。

両前肢の腕節が屈曲している失位。

それなら、全身麻酔して後肢吊上げすれば整復できる、だろう、と思って始めた。

が、産道がひどく狭く、とても整復できそうにない、という。

帝王切開するつもりもありますか? と尋ねたら、必要なら、との回答。

帝王切開する。

1人で執刀したのでたいへんだった。

1日に牛と馬の帝王切開をするなんて。

             ー

終わって朝5時前。

私は帰って寝た。

いつもはもう起きている時間だが、眠れた。

ところが、さらに具合の悪い新生子馬が来た、とのこと。

鼠径ヘルニアの子馬は調子良さそうだ。

結腸捻転の繁殖も食欲があり、昼から制限給餌を始め、夕方には帰っていった。

帝王切開した馬は、オキシトシンの点滴と羊膜の血管への注水で胎盤を落とし、退院した。

long long hard Sunday

                                                  /////////////

冬の寒さがなくなり

すっかりあたたかくなった

そして・・・・繁殖シーズン真っ只中だ。

 

 


診療実績2019

2021-01-14 | 日常

令和3年、西暦2021年、平成でいうと33年、昭和で数えると96年。大正や明治からだと・・・・・いいよね。

2021年が始まったばかりでややこしいのだが、2019年の診療実績が年末に出たので記録と記憶しておきたい。

                   -

診療件数は1594件

年間の診療頭数は1600頭ということでいいだろう。

そのうち牛は57頭。

全身麻酔したのは、881頭。これは過去最高。

吸入麻酔件数が566と増えているので、麻酔頭数の増加はプロポフォール静脈麻酔が覚醒起立が良いので、ということではない。

手術室でやる手術が増えたのだ。

                  -

馬の開腹手術が155頭

これも過去最高。

疝痛の腸管手術、子宮穿孔の修復と腹腔洗浄、帝王切開、子馬の膀胱破裂、etc.

関節鏡手術が252頭

これも過去最高。

1年は365日あるが、年間52週だから土曜日曜が104日ほどあるし、祝日もある。

週末や祝日も平日と同じようにこなさないと250という数字にはならない。

喉頭形成が43頭

このほかにDDSPやEEやその他もあるので、馬の「喉」の手術も過去最高だったろう。

外傷治療が74頭

馬の外傷治療 wounds management は馬外科の基本。

少しでも良好な結果が期待できるよう努力したいが、時間はかかるがどうしようもない傷が多いのも事実。

X線撮影が158頭

他の手技に併用したX線撮影は含まない。X線撮影と跛行診断のためだけの来院だ。

腰痿の頚椎撮影、あいかわらず多い。

麻酔頭数の中での数字だが、帝王切開は3頭、静脈維持麻酔での難産整復が14頭、ワンショット麻酔での難産が1頭、麻酔せずの難産が12頭

まあ、例年なみだったか・・・・

               -

牛は吸入麻酔26頭

静脈麻酔19頭

無麻酔12頭。

               -

血液検査は7322件

これも増えた。若い獣医師が増えたからだろう。

細菌検査で増えたのは気管洗浄液146件

これも若い獣医師が増えたからだろうか。

きちんとRhodococcus equi肺炎だと確定診断してから治療することはとても良いことだ。

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きのうは、朝、除雪。

トラクターに乗っていると腰に振動が来る。

中央で車体が折れるトラクターで旋回するのは、馬に乗って曲がるのと似ている感じがする。

振動は速足の反動に似てるし。

午前中は飛節OCDの関節鏡手術、つづいて蹄葉炎の高齢馬の剖検。

そのあと2歳馬の結腸捻転。

来院したらもう立っていられない。PCV53%。

久しぶりに結腸捻転を最後まで執刀したが、疲れる。

1時間半、休めない、失敗できない作業だから。

この数倍働かなければならない春がもうすぐやってくる。