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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

優駿の門アスミ 6

2014-04-02 | 図書室

P4015999 プレイコミック連載中の競馬劇画「優駿の門アスミ」6巻を贈っていただいた。

地方競馬を舞台に、女性騎手をはじめ、調教師、厩務員、馬主として女性達が活躍している。

原作も、作画も女性だ。

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馬の主人公ネイルクイーンが予後不良と言われるような骨折する。

そこで!

hik先生が登場する!;笑

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実はストーリーを作る前に、取材に来られた。

馬の骨折治療についてお話し、x線写真や吊起帯などもお見せした。

架空のドラマではあるけれども、「リアルさは追求したい」とのことだったので、

馬の骨折治療の現状や、どのくらいの骨折までなら競走復帰が可能なのかもお話しした。

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さて、どのようなドラマになっているか、P4016001_2

hik先生は本物に似ているか(笑)、

読んでいただければと思う。

私は馬の表情に涙が出た。

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11時に起こされ、これから十勝から疝痛の重輓馬を運びたいと言う。

来るのはいいけど・・・・事情も何もわからない。

何時に着くのかも着く前に教えてほしい。

折り返しまた電話が来て、2時半に着く。とのこと。

まだ治療中ということなので、来るかどうかわからないな。と思いながらウトウトしていたら、

もうそろそろ着くとのこと。

しかし、手術までするつもりはないようで、内科的治療をすることにした。

まだ疝痛が続いているまま近くの牧場へ行った。

もう夜明け、ほかの入院馬の診察と血液検査をする。

長い1日になる。


Never Cry Wolf

2014-03-12 | 図書室

Photocry wolf とは、「オオカミだァ~」と嘘を言う。という意味の慣用句なのだそうだ。

もちろん背景にはイソップのオオカミ少年の話がある。

だから、この作者のモワットは、

カリブーの生息数が減ってしまったのがオオカミのせいだと、

間違いを言うな!と言う意味をこめて、

Never Cry Wolf という題にした。ということらしい。

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しかし、私は、「狼よ、なげくな」という以前の邦題が好きだ。

この新訳を読んでますます「狼よ、なげくな」というタイトルが好きになった。

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この本の中身は、ほとんどがオオカミの生態観察の記録で、

そこに描かれているオオカミは、

とても友好的で、控えめで、家族愛に満ちていて、厳しい自然の中で、節度を守りながら、懸命に生きている。

にもかかわらず、ヒトはオオカミが住むヒトにとって不毛の地まで飛行機で踏み込んで行き、ライフルを撃ちまくり、カリブーを大量殺戮し、毒を撒いてオオカミを殺す。

そして、カリブーが減って狩りを楽しめなくなった原因をオオカミのせいにする。

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USAではイエローストーン国立公園などで絶滅したオオカミを再導入することで増えすぎたシカの数をコントロールして自然の生態系を維持しようとする試みが成功している。

日本でも絶滅したオオカミを復活させようと主張している人たちもいる。

本州でも、北海道でも、シカの増えすぎは農作物の被害だけでなく、森林への被害も問題になっている。

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ニホンオオカミはかなり小型だったらしい。

体重15kgというと・・・うちの相棒の半分くらい;笑。

そんな小型のオオカミがエゾシカを襲って減らすことでエゾシカの数をコントロールできるのかどうかはなはだ疑問だ。

モワットさんも書いているが、オオカミはカリブーの年老いた個体や病気の個体や弱い個体しか襲わない。

だから、カリブーの群れを健康に保つ役割を務めても、カリブーの数を減らしはしない。

オオカミが絶滅する前から、北海道ではエゾシカの大群が太平洋側と日本海側を季節によって行き来していたらしい。

おそらく今よりもっとエゾシカも含めて野生動物の楽園だったのだ。

だから、

たとえオオカミを再導入しても、エゾシカはそうは減らず、アライグマも減らず、になるだろうと私は思う。

反論があるのも知ってるが、オオカミの主食が季節によってはげっ歯類だという報告も当たっていると思う。

私の相棒もとても熱心にネズミを狙うし、飛び上がってキツネそっくりなしぐさをする。

ドン臭いのか捕まえられたことはないみたいだけど;笑。

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この本については純粋なノンフィクションではない。とか、どこまでが創作かわからない。とか、

オオカミの生態が今の動物生態学の知見と比べると正確ではないという批判があるようだ。

私たちは研究者ではないのだから、そんなことは抜きにして楽しく読めば良いのだと思う。

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列車がシカを轢いてしまったり事故の予防に、線路の周りにライオンの糞や尿を撒くことが効果をあげているらしい。

シカによる農作物などの被害を減らすためにオオカミの尿を商品化したものも市販されているようだ。

ゴールデンレトリーバーの匂いじゃ効果ないのかな??

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Maley and Me

2013-12-19 | 図書室

今日は、

当歳馬の”外傷性”蹄葉炎。

午後は、1歳馬の大腿骨骨嚢胞の病巣内トリアムシノロン注入。

1歳馬の下顎骨膿瘍。

1歳馬の飛節の捻挫。

夕方、当歳馬の腋の外傷。

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マーリーPhoto

 

世界一おバカな犬がおしえてくれたこと

Maley & Me

life and love with the world's worst dog

USAで200万部を超えるベストセラーになったそうで面白い良い本だった。

赤ちゃんを育てるときの練習にとラブラドルレトリバーを飼い始めた新婚夫婦が家族を増やしながら成長していくエッセイ。

問題犬ということになっているが、噛み付くわけでもなく、吠えまくるわけでもなく、ただデカくて(45Kg!はたしかにデカい)エネルギッシュで、ヨダレが多く、雷恐怖症で、というだけ。

引張り癖が治らないとか、飛びついていたとか、分離不安があるとかは、飼い主のしつけの問題だと思う。

読んでいるとバカな犬の方が可愛く思えて、うちの相棒の賢さが残念なほど;笑。

でも、イヌを飼っている人には多かれ少なかれ思い当たるふしがエピソードが多いし、

同感できる苦労話もあるので受けたのだろう。

この原作が映画になったり、ストーリー的には関係がないような関連映画が作られたりしたようだ。

良い本だ。

最後は涙が止まらなくなる。

 


White先生余話 その3 Equine Acute Abdomen

2013-12-13 | 図書室

White先生のEquine Acute Abdomen。Pc105414

先生は御歳67だそうで、1990年に初版を出された。

ということは44歳のときだ。

44歳で自分の名前が冠されるような獣医学術書を監修されたことに驚いてしまう。

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馬では疝痛 colic はとても大きな問題で、それについて正面から取り組み、総合的に消化管構造、消化生理、診断方法、薬物治療、外科治療の器具、施設、技術、そして腸管手術の手技、さらに各論として腸管各部位の障害とその診断・治療・予後について書かれた本はまさに名著だった。

決して馬外科医だけが重宝する本ではないので、たくさん売れただろうと思うのに、2版目はなかなかでなかった。

初版を扱った出版社にトラブルがあったらしい。

2008年に2版目が出たのだが、発行部数は少なかったそうだ。

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私は第二版をamazonで買おうとしたが、とんでもない高値がついていたので、頼んでUSAで買ってきてもらった。

White先生が来られてからまたamazonで調べたら、278,000円で出品者から買えることになっていた。

White先生に、「日本のamazonでは30万円近くします。」と言ったら、親指を立てて喜んでおられた;笑。

そのあと数日で突然値段は下がったので、検索する人が増え、正規に輸入して売ろうという書店が出品し始めたのかもしれない。                      

とても良い本だし、獣医科大学の図書館などは必ず蔵書しておかなければならない本だけれど、amazonでどうして30万円近い値段がつけられるのか仕組みが私にはわからない。

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The Equine Acute Abdomenの表紙は傷ついた馬の顔が描かれている(右上)。

Crutelaという名前のアラブの牝馬で、この絵は探査的開腹手術前の顔だそうだ。

1976年にGreat American Horce Raceを勝ち、その後まもなく第1指骨のひどい骨折を起こしたが手術で生き延びた。

数年のち、疝痛で手術が必要になったが、助からなかった。

この数奇な生涯を送った馬のこの絵は、疝痛の症例に遭遇する獣医師や馬主の困難を思い起こさせてくれる。

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疝痛は今も、どこでも、どんな馬にとってももっと多い死因のひとつだ。

それをなんとかできるのは飼い主と馬医師だけだ。

馬獣医師が治さなければ馬は苦悶のうちに死ぬしかない。

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今晩はひどい風だ~

オラ、玄関フードに避難するゾ~

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ハーバード白熱日本史教室

2013-10-23 | 図書室

空港の書店で見かけて、あいた時間に読みつないできた。Pa235170

難しい本ではなく、会話調で書かれていてとても読みやすい。

しかし、すごい女性(ひと)だ。

天才というか、よくできているというか、余計な傷などなく歩んできた人なんじゃないだろうか。

博士号を取るのにふつは5年、あるいはそれ以上かかるというのに3年でクリアしてしまう。

英語を使いこなすだけでもたいへんなのに、論文を書き、講義をし、それで母国語として英語を使う人たち、それも名門大学の教員達の中でも優れた評価を得てしまう。

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ところがこの本の評価はとてもさまざま。

みごとに評価1から5まで均等に分かれている。

低い評価のひとつには自慢話が多くてつまらないというもの。

これはやっかみ、ねたみ、をたぶんに含んでいるように思う。

高い評価を得たことを自分で書いていることを私は自慢話だとは思わないし、嫌な感じもしなかった。

もうひとつは著者の歴史認識についての懸念であり、日本史についての講義の内容そのものについての疑義である。

これは私も読んでいて違和感を感じた。

この本は学術書ではないので、著者の日本史についての研究内容を裏打ちする史料などは説明されていない。

しかし、那須与一の逸話の女官がsamuraiとして殺されない性を象徴しているとか、

秀吉の正室、北の政所がLady Samuraiの典型であるとか、

秀吉に斬首された女性たちがsamuraiとして扱われたとか、

それらはハーバードの学生達からは反論が出なくても、歴史好きの日本人には歴史誤認としか思えない。

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本業の日本史講義の内容に不安は感じるものの、その年間の講義の進め方は学生達にとても高く評価された。

とても斬新で、周到に準備され、そして楽しく工夫されていることが、この本で紹介されている。

著者も書いているが、ハーバードの学生にとって日本史の知識など直接将来の自分の仕事や生活に役には立たない。

しかし、日本史を学ぶ中で、仲間と協力することや、自分で考えながら探求したり創造していく過程は学生達の知的財産として身についていく。

何より楽しく学べることが学生達に受け入れられたのだろう。

学生達は(少なくともハーバードの学生達は)楽に単位をくれる講義ではなく、楽しく学んで自分に何かを身につけられる先生の講義を選択したがったのだ。

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覚えたり身につけなければいけないことだけでも山積みの医学教育や獣医学教育といっしょにはできないかもしれないが、

大学生に講義をする者にとっては、自らの講義を振り返る機会になる本だ。

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ヨンダ~?

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