真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「制服の誘惑 テレクラに行かう」(1992/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/脚本:池袋高介/撮影:伊東英男/照明:内田清/編集:フィルム・クラフト/音楽:OK企画/助監督:石崎雅幸/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:佐野良介/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:如月しいな・斉藤桃香・水鳥川彩・野澤明弘・青木和彦・栗原一良・姿良三)。
 縫ひ包みから室内を舐めると勉強中の真未(如月)が、平然と聞こえて来る嬌声にスポイルされる。スナップも掠めない両親は、母親も父親の赴任に同行する形で二年海外。真未はその間、姉の文重(水鳥川)と夫の斉藤昭夫(野澤)が暮らす津田スタに厄介となつてゐる格好。ヘッドフォンでCD3を聴く抵抗を試みはしたものの、手つ取り早く断念。ベッドに飛び込んだ真未がワンマンショーをオッ始めて、下の句が何故か怪談フォントのタイトル・イン。真未はフィニッシュまでには至らず、クレジット明けで再開した夫婦生活は完遂。翌日、登校時に合流した親友の前田理佐(斉藤)は、未だ処女の真未にテレクラを勧める。正直ビリングの頭二人が、清々しいほど女子高生に見えない点はこの際気にするな。
 配役残り青木和彦は、今回珍しく二つ机の並んだオフィスのロケも工面する、昭夫の職場の後輩・片岡。テレフォンクラブを介して出会つた理佐と交際する、テレクラに関してはパイセン。栗原一良は合コン的なイベント―の割に理佐と片岡は脊髄で折り返す速さで捌ける―に連れて来られる、片岡の後輩・沢口。小川和久(現:欽也)の変名である姿良三は、昭夫がよく使ふ仮称「摩天楼」のマスター。のちにワン・カット背中だけ見切れる、マスターに一杯奢る男は流石に判らん。
 何気ない裸映画でしかないやうに見せて、案外さうでもない気もする今上御大1992年最終第十三作。それぞれ理佐と片岡に、斉藤家with真未の外堀を埋めさせる会話が、へべれけなイントロダクションに堕すでなく、脚本・演出とも思ひのほかスマート。よしんば、あるいは単に、それが至つてど普通の水準であつたとて。オフィスは用意した反面、教室ないし校内ロケは相変らず等閑視。それでも―外から勝手に撮れる―校舎のロングから、真未と理佐下校時の往来へのティルト。理佐にテレカを借りた、真未の初陣。電話ボックスから出て来る真未を、理佐が待つ俯瞰。撮影にも、らしからぬ意欲を垣間見させる。片岡の名を騙つた昭夫と話が纏まりかけた真未が、ランデブーする文重と沢口を目撃。一旦偽片岡を理佐に押しつけたため、後日ツイン片岡とのダブルデートが成立する展開は素面で結構気が利いてゐる。ついでで沢口と遊んでゐる文重の、帰りが遅くなる夜。晩酌にでも付き合はせようと、ヘッドフォンでズージャーなんて聴いてゐる義妹に近づいた昭夫が、何だかんだか何が何だかな勢ひでザクザク手篭めにしてしまふのは、突破力を活かした野澤明弘(a.k.a.野沢明弘/ex.野沢純一)の真骨頂。で、あるにも関らず。最大の衝撃は、理佐とリアル片岡に、真未と偽片岡こと昭夫。各々の第二戦が頻繁なクロスカッティングの火花を散らす、締めの濡れ場。理佐らが先に駆け抜けて、真未が追走するものかと思ひきや、よもやまさかの主演女優―の筈―の絡みをある意味見事に放棄してのけるのには驚いた。そもそも、自宅にて義兄から手篭めにされる、割とでなく大概な真未のロストバージンから、中途で端折る始末。テレクラでの男捜しに二の足を踏む真未に対し理佐が投げる、平素とは一味違ふ何気な名台詞が、「誰でもいいぢやん、恋する訳ぢやないんだから」。適度な距離感を保ち、飄々と日々を楽しむ。ドラマ上実は最も安定する理佐の立ち位置を見るに、今上御大が二番手に移してゐた軸足は、繁華街を真未と沢口が他愛なくブラブラするインターバル挿んで、斉藤桃香で十分の大熱戦を序盤にして撃ち抜く地味でなく凄まじい尺の配分に、既に顕著であつたのかも知れない。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「奥様は覗き好き」(1993/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/脚本:池袋高介/撮影:伊東英男/照明:内田清/音楽:OK企画/編集:フィルム・クラフト/助監督:石崎雅幸/演出助手:井戸田秀行/撮影助手:郷弘美/照明助手:佐野良介/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:水鳥川彩・岸加奈子・南悠里・久須美欽一・杉本まこと・野澤明弘・寺島京一)。見るから変名臭い、撮影助手は誰なのか。
 川原の夜景から入つて、妙子(水鳥川)が真赤な天体望遠鏡で御近所の日常を覗く。のを、夫の三田(杉本)が窘め夫婦生活に。シャリバンレッドの天体望遠鏡にタイトルが入る、確かに奥様が覗き好きな一分十五秒が案外磐石。共働きにつき、狭義の“奥様”ではないのだけれど。
 妙子の友人と思しき、ナミ(岸)がワンオペの御馴染「摩天楼」に三田が一人で来店する一方、妙子はといふと職場のカラオケ帰りを、同僚の片岡(野澤)に送つて貰ふ。ノジーなんかに送らせて、この男送らうと迎へ撃たうと狼だろ。公園の青姦カップル(寺島京一と、女は多分三番手の流用)にアテられた、妙子の色香に片岡は火を点けられ妙子の尻に手を伸ばす、即ち覗きに痴漢。脊髄で折り返して怒る水鳥川彩のプンスカした顔があまりにも可愛くて可愛くて、胸が張り裂けるのが当サイト理想の死因。三田家に帰りつきつつ、有無をいはさず押し倒すでなく、なほも片岡が妙子にグジャグジャ執心してゐると、三田も帰宅。妙子が三田をシャワーに放り込んだ間も片岡は居坐つた挙句、妙子を抱いた三田が寝ついて漸く出て行く、ものかと思ひきや。片岡は三田を起こすと半ばどころでなく脅迫、玄関口で妙子に尺八を吹かせる、それでこそ俺達のノジーだ。
 片岡は、実は覗くよりも寧ろ見られることに関心があつた。配役残り、南悠里はそんな片岡の彼女・ミツコ。久須美欽一はナミの不倫相手・西井、目出度く離婚が成立した模様。
 今のところ1990~1993の活動しか確認出来てゐない野澤明弘(a.k.a.野沢明弘/ex.野沢純一にとつて、恐らくキャリア最後期に当たる小川和久1993年第七作。声の張りと精悍な体躯は変らないものの、何故か目尻が下がりぱなしで妙子の従順な後輩ぶつた片岡の造形には若干でもない違和感を覚えたが、徐々にノジカルな傍若無人を発揮、最終的にはらしさを回復する。
 妙子と、やがて妙子が感化される片岡の性的嗜好に初めから焦点を絞つた物語は、素直にシンプル伊豆もとい、シンプル・イズ・ベストな裸映画に直結する。その上で妙子が覗く快楽と、覗かれる悦楽とが同一線上に存在する可能性に辿り着き、かけるのは極めて斬新かつ魅力的な視座ながら、結局スコーンと等閑視。終盤は妙子と三田も西井の別荘に招かれる、当然ナミも交へた四人での小旅行に丸々費やしてのける展開の大らかな無頓着こそが、些末とかいふ言葉を忘れた今上御大のイズイズム。そんな中でも水鳥川彩と岸加奈子に、南悠里を揃へた女優部は超絶美麗のスレンダー・ストリーム・アタックを撃ち抜き、オッ始めたナミと西井の誘ひに、三田先導で応じる形で火蓋を切る締めの濡れ場。高を括つてホケーッと見てゐたら見逃しかねない、当初銘々で並走してゐた乱交が、劇伴起動も合はせたタイミングで何時の間にかスワップしてゐたりする何気な離れ業がフと気づくと驚かされる見所。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「OL生撮り本番」(1992/製作・配給:大蔵映画/監督:矢竹正知/脚本:浮舟節子/企画:佐藤道子/撮影:伊東英男/美術:最上義昌/音楽:中村半次郎/照明:森隆一郎/編集:国沢実/助監督:加藤翔/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:佐野雅俊/スチール:最上義昌/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/小道具:高津映画装飾/衣装:日本芸能美術/ロケ協力:那須ハイランド・那須高原ヴィレッヂ/出演:南野千夏・斉藤桃香・英悠奈・井上まゆみ・赤城玲子・山崎さちこ・野沢明弘・ロッキー伊藤・長沢聖也・森下昌也)。受け容れざるを得ない訳だけれども、これ本当に国沢実が編集してるのかな?それとピンク映画の撮影で、遊園地に話を正式に通してゐる、あるいは通つてゐる点は、地味にトピックであるやうに思へる。
 我等がノジー・ザ・ワイルドこと野沢明弘(ex.野沢純一)が、嫌がる南野千夏に肛姦を強ひる。「どうしてえ、外国ぢやこんなの当たり前だよ」と無理矢理挿入を試みる方便が、「よく締まつて男は堪らんのだ」、無体な先制パンチが完璧。結局断念し正常位に移行、限りなく三こすり半で達した事後、上京する親と会ふやう南野千夏に求められた野沢明弘は無下に拒否。食下がる南野千夏を振り切り野沢明弘が多分シャワーに立つたタイミングで、教会の鐘が鳴り始めタイトル・イン。後述する、タイトルバックへの繋ぎも実にスマート。
 堤物産社員の秋山竜二(野沢)は、交通事故に遭つたところを助けた社長の娘・浅子(斉藤桃香/斉藤桃華とは別人)に見初められ結婚。最終的には将来の社長の座も約束された竜二が、日の高いうちから初夜を満喫する一方、竜二に結婚をちらつかされた挙句掌返しに捨てられたホステス・やよい(南野)をカウンター内扇の要に、三人の女が苦虫を噛み潰す。画面左が重ねて貯金まで巻き上げられ、ついでにビデオも撮られた堤物産同僚の水木か水城秋子(井上)で、右はこの人も堤物産で、この人は強姦された美子(英)。見境なさ過ぎる、底の浅い野獣感が、N系OZAWA・NOZAWAこと野澤明弘最大の魅力。要は秋山竜二被害者の会は、今でいふ逆リベンジポルノを切札に復讐を期し行動を開始する。
 一筋縄では行かない配役残り、一筋縄では行かぬとは何事か。改めて、タイトルバックは教会での挙式後、それぞれの両親計四人に見送られ、タキシードとウェディング・ドレスのまゝ竜二が車を運転しハネムーンに出発するロング。因みに車は浅子の車で、行き先も堤家の別荘ではある。閑話休題、赤城玲子は竜二の母親で、山崎さちこが浅子の母親。問題が父親勢、問題とは何事か。竜二の父親は森下昌也しか名前が残らないが、この人は小林次郎と同一人物。浅子の父親はクレジットレスの西田光月、全く何の根拠もない思ひつきじみた直感に過ぎないが、もしかすると西田光月といふのは矢竹正知の変名?長沢聖也は、竜二に犯された一件で解消に至つた、美子の婚約者・ケンスケ、どうも山科薫のアテレコに聞こえる。ビリング推定でロッキー伊藤が、竜二に騙された結果、折角向かうから口説かれてゐたのに秋子が釣り逃がした格好の、重役出世を確実視される独身の時田部長。最早この人の顔は見せたくないとしか思へない、井上まゆみ(勿論イコール井上真愉見)にしか当たらない照明の影に沈み面相は判然としないものの、少なくとも声は高崎隆二、そんな闇雲に錯綜するのが楽しいか。拘泥する方が悪いといはれたならば、頭を垂れるほかないやうな気もする。
 1992年第一作、今後新しい弾がDMMに投入されるなり復活公開されなければ、矢竹正知最終戦。興味深いのが八作後の「高級秘密クラブ ザ・秘書室」(1993/主演:明日香ゆみ)同様、開巻でハイライトをジャミングする矢竹マジックは不発。カットの長さも繋ぎも普通といふより直截には平凡で、没個性的かつ端的に詰まらない作風が、少なくともこの時点で完成してゐる。ベクトルの正否はさて措き、絶対値の大きささへ失つてしまふことが、“完成”と称するに値するのか否かはこの期に及んではよく判らない。人間にとつて、成長といふ奴は得てしてさういふものかも知れず、何れにせよ、八作前の1990年全五作中第四作「凄絶・監禁レイプ」(主演:川奈忍)までのどれも判で捺した如き木端微塵を想起すると、恐らくは1991年といふ一年を重要な契機に、矢竹正知は一皮剥けるなり悔い改めたのかも知れない。
 監督が照明部出にも関らずな照明の下手な暗さが地表に露出した起爆装置であるといふ文字通り顕示的な特徴も、「高級秘密クラブ ザ・秘書室」同様。但し、微妙に検討の余地を残さなくもない。クリスマス・イブの夜、竜二は酔つた美子を強引に送つた上で犯す。「まるで送り狼ぢやない」といふ美子の抗弁に対しては、送り狼なんだよ!とツッコんでおくとして、部屋が暗いのもある意味リアリズムにせよ、何時まで照明焚かねえんだよと思つてゐたら結局終始暗い一本気には逆の意味で度肝を抜かれた、濡れ場も満足に見せないつもりか。ところが、那須への車中、秋子と美子がそれぞれ時田とケンスケとの情事を回想する二連戦。その件で初登場の時田は兎も角、ケンスケの早漏オチで終る情けない絡みに何の意味があるのかと一旦呆れかけたが、ここで英悠奈の裸を回収してゐるのだ。ロッキー伊藤を頑なに回避するライティングも、実は構図込みで、寧ろ案外高等なテクニックなのかも。

 最後に、矢竹正知戦は最後となつてしまひつつ、不思議と矢竹正知絡みのエントリーが何故か評判が悪くない。更に二年前に文字通りの戦死を遂げた、大御大・小林悟にも未だ追ひ着いてゐないといふのに、没後十余年、漸く時代が矢竹正知に追ひ着いたか。底の抜けたロマンティックを吹くやうだが、矢竹監督が泉下にてお喜び下されば、それに勝る喜びはない。小林悟に関してはDMMの豊潤な荒野に未見作がまだまだ転がつてゐるので、これからも追ひ駆けて行く。だから、大御大は四五百本映画を撮つてるんだろ、百本に一本の映画を四五本撮つててもおかしかねえよ。虚仮にするならせめて百本は観るなり見てからにしろよ、それが量産型娯楽映画に対する仁義つてもんぢやねえのかよ。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「本番狂ひ」(1990/製作:21映像企画?/配給:大蔵映画/監督:矢竹正知/脚本:浮舟節子/企画:佐藤道子/撮影:倉田昇/照明:森隆一郎/音楽:中村半次郎/美術:最上義昌/編集:酒井正次/助監督:鈴木正人/撮影助手:高橋淳/照明助手:竹内弘一/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/小道具:高津装飾/衣装:日本芸能美術/撮影協力:料亭・松風、村山スタジオ/出演:南野千夏・神山洋子・島田さとみ・赤城玲子・南条千秋・長沢聖也・高橋隆二・橋詰哲也・西田光月・野沢純一・青松次郎・本郷竜二・藤堂五郎・海野力也・川津正雄・住吉夏男)。出演者中、高崎ではなく高橋隆二は本篇クレジットまま。
 女子大生の家庭教師・愛子(南野)が、高校二年生の教へ子・ひろし(南条)にピアノ際に追ひ詰められる。思ひ詰めた南条千秋の、マー坊みたいな髪型が堪らない。カット一転、足抜けしようとした暴走族のリンチに遭ひ半死半生のひろしに駆け寄る愛子と、パトカーが到着した気配に蜘蛛の子を散らす一同、この辺りの繋ぎの無造作さは矢竹正知の真骨頂。後のシーンではパトカーを実際に用意してゐるところを見るに、もしかすると単車も走らせてゐるのかも知れない、バンクでなければ相当本格的なチェイスに続いてタイトル・イン。お屋敷、寝つ転がつてドラクエの攻略本を読んでゐるのは、ひろしではなく貿易商を営む父親の有三(だから正しくは高崎隆二でないの?)。素行にも問題のあるひろしに家庭教師をつけることを考へた有三は、二年前に再婚した後妻・雪江(神山)の浮気を心配して、女の先生を希望する、息子のヤリたい真つ盛りは無視かよ。夫婦生活を経て、愛子が、同級生の竜介(長沢)と遅い初体験を迎へるまででマッタリと二十分を消化、漸く家庭教師に入る。エクストリームにグダグダな、残り時間僅かな終盤ではグルッと一周してスリリングに至る無頓着な尺の配分も、矢竹正知の持ち味。何処か正方向に評価可能なポイントは見当たらないものか、とかく、頑なに加点法を拒むストイックな監督ではある。
 そんなこんなでぼちぼちと矢竹正知1990年第一作、jmdbには製作は21映像企画とされるものの、配信された動画では確認出来ず。例によつてといふべきかこの際順調にと自暴自棄にさへなるべきなのか、ツッコミ処だけには事欠かない。豪快な先制パンチで見るなり観る者を秒殺するのが、タイトル・イン直後のキャスト―のみの―クレジット。よもや忘れたのではあるまいなと心配させられるスタッフに関しては、オーラスまで持ち越される。役名も併記して呉れるのは見知らぬ名前も多いこの時期のピンクにあつては非常に助かりつつ、カーセックス後族に襲はれる島田さとみが、劇中ユカと呼称されるにも関らず“若い人”と投げやりに済まされるのは、これで全然序の口。お相手の橋詰哲也の“若い男”は、男優部の濡れ場要員はそのくらゐの扱ひでも問題なからう。青松次郎以下六人が暴走集団と、〃AからEで一括られるのもいいとして、最大級のインパクトを誇るのはリーダー格・野沢純一(a.k.a.野澤明弘)の役名、

 不良番長。

 不w良w番w長w、二十四年前と考へると昔のことのやうな気もしないではないにせよ、1990年に不良番長はねえだろ、破壊力が半端ない。“不良番長 野沢純一”と並ぶ奇跡的な文字列が今作の最高潮、え、オープニングのクレジットが頂点?これはこれまで見た三作に共通する特徴なのだが、陰気な女のナレーション―主は多分赤城玲子―で心情の変化なり展開の推移を片付けるインスタントな作劇は、今回が最も顕著、より直截にいふと酷い。極端な話ダラダラした濡れ場の隙間を、ト書きで埋め誤魔化してゐる。開巻では逃走した不良番長with暴走集団が本篇では全員お縄の自由奔放な映画文法は、矢竹正知の得意技、一体何なんだこの人。最終的に、愛子と―後半は暫し退場したままの―竜介のラブ・ストーリーに収束するラストが別の意味でケッ作。愛子への想ひを胸に、辛うじて一命を取り留めたひろしの立場が全くない。

 配役残り西田光月は、警視30号のパトカーに乗車する刑事、同行する部下は不明。赤城玲子は有三が労を労ふかに見せかけて、酔ひ潰した愛子を手篭めにする赤坂の料亭の女将。


コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )




 「凄絶・監禁レイプ」(1990/製作・配給:大蔵映画/監督:矢竹正知/脚本:浮舟節子/企画:佐藤道子/撮影:倉田昇/美術:鎌倉浩一/照明:森隆一郎/音楽:吉栖康浩/編集:酒井正次/スチール:最上義昌/助監督:竹内雅俊/撮影助手:稲葉正広/照明助手:高橋淳/メイク:坂上久子/衣装:日本芸能美術/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/小道具:高津映画装飾/撮影協力:章英スタジオ・ホテル2001年/出演:川奈忍・井上真愉美・山岸めぐみ・赤城玲子・野沢純一・高崎隆二・長沢聖也・岡谷修・西田光月・時田賢一・大西毅・大森鉄)。出演者中、井上真愉見でなく井上真愉美といふのは本篇クレジットまま。
 高崎隆二が多分大森鉄にボディーは駄目だ足を狙へとピストルを手渡し、バキューンと足を撃たれた野沢純一(a.k.a.野澤明弘)がフッ飛んでタイトル・イン。川奈忍が、四人がかりでモタモタ手篭めにされる。続いて山岸めぐみと長沢聖也と、井上真愉美と野沢純一の濡れ場二連戦。五里霧中のストーリー展開を仕方がないので総合的に、もしくは事後的に整理すると、シャブの元締め・蔵島か倉島か倉嶋か蔵嶋(西田)のシマの新宿に、横浜から東堂か藤堂(高崎)が進出。二人連れのチンピラ(時田賢一と大西毅の二役?)に絡まれてゐたところを助けた縁で、情婦(山岸)を蔵島一家のジロー(長沢)に寝取られた東堂は激昂。東堂に恐れをなした蔵島は、ジローの兄貴分・ハートのマサ(野沢)にジローを匿はぬやう指示する。ビリング上は二番手であるものの扱ひは三番手の井上真愉美は、マサの情婦・ユミ。東堂の片腕・片桐鉄(恐らく大森鉄)にマサが銃撃された現場に、女友達とレインボーブリッジを見に来てゐたユウコ(川奈)が通りがかる。
 配役残り又しても脱がずの四番手の赤城玲子は、あからさまなキナ臭さに関り合ひになることを避け重傷のマサを見捨てて逃げる、ユウコの連れ。ビリング推定で岡谷修は、マサが担ぎ込まれた病院の医師?ここでの看護婦が、赤城玲子のもう一仕事か否かは正面から抜かれないため不明。消去法で時田賢一と大西毅は東堂の子分、片方はサブ。
 さて矢竹正知第二戦、特に狙つた訳でもないのだが、「新妻・衝撃の夜」のちやうど次作に当たる1990年第四作。これがまあ、粗が多過ぎて途方に暮れる強ひていふならば怪作。前作で火を噴いた長尺カットは改悛したかのやうに鳴りを潜め、逆に結構小刻みに刻んで来る。尤も、間に何某かの画を挿むだけで、結局長々と回してゐることに変りはない。ともあれ今度は刻んだら刻んだで、不用意にバンクを多用するゆゑ、何か意味があるのかと思ひきや、実際には一切まるで全然ないといふ情報撹乱レベルのインサートにはクラクラ来る。それ以前に、最初にこの人達は何者なのかといふイントロダクションをスッ飛ばして山岸めぐみV.S.ジロー戦とマサV.S.ユミ戦が延々と展開される序盤に、脈略といふ概念は存在しない。医師から摘出した銃弾を見せられたマサが、“スミス&ウェッソンの38口径リボルバーで銃身の短い近距離用”と拳銃の種類を無闇に詳細に分析してみせるのは、マサの凄腕ぶりを―凄く下手糞に―演出しようとした一幕なのかも知れないが、そもそも、開巻で東堂が片桐に渡すのはオートマチックである、寧ろ隙がない。ユウコと足を洗ふことにしたマサが、思ひついた新商売が歩行者天国でのわらび餅の露店といふのは、そこは笑ふところなのか?拉致したユウコ―ヤサに如何に辿り着いたのかは謎―に対する東堂の恫喝が、画は使ひ回しにも関らず開巻では“お尋ね者を匿つたらどうなるか”云々であつたものが、終盤では何故か“裏切り者を匿つたらどうなるか”、何故わざわざ間違つた方向にアフレコし直す。看板の監禁レイプも確かに凄絶、口では子分に譲つておいて東堂が最初にユウコを犯す時点で既にあまりにあんまりなのだが、続いて音声上は二番手を指名された鉄が大喜びしてゐるのに、画の中で実際にレイプするのはサブ、どうすれば斯くもへべれけな映画が撮れるのか。ユウコと、何時の間にかジローも捕はれたマサは、それなりに野澤明弘らしい戦闘力を発揮し東堂一家を壊滅、二人を救ひ出す、描写的にはジローはもしかしたら死んでるかも知らんけど。自首する腹でユウコの下を去つたマサが、港で適当にカッコつけて終りといふラストは何だこりや、高飛びでもするつもりかよ。繋ぎの夜景ショットひとつ取つてみても、パンが妙にぎこちない辺りが不完全無欠。稚拙あるいは出鱈目といふ直截はあへて呑み込むならば、ある意味不毛な愉しみには満ち溢れてゐるともいへ、最早ツッコんだ方が負けなのかと不安が鎌首をもたげぬでもない釣堀映画。何だか変に楽しくなつて来た、もう少し攻めてみよう。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「新妻・衝撃の夜」(1990/製作・配給:大蔵映画/監督:矢竹正知/脚本:浮舟節子/企画:佐藤道子/撮影:伊東英男/美術:高橋淳/照明:沖茂/音楽:吉栖康浩/編集:酒井正次/スチール:津田一郎/演出助手:竹内雅俊/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:稲葉和博/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/小道具:高津映画装飾/衣装:日本芸能美術/撮影協力:村山スタジオ・ホテル2001年/出演:白鳥麗・森園今日子・山岸めぐみ・赤城玲子・野沢純一・山科薫・高崎隆二・吉岡一郎・森下昌也・桂多門・西田光月)。
 野沢純一が走つて会社に飛び込みタイトル・イン。ここで、野沢純一といふのは野沢(あるいは野澤)明弘と同一人物。どうやら純一から明弘に改名したやうなのだが、jmdbによると境目に当たる「ドリームワイフ 官能の狂ひ腰」(1991/監督:市村譲/DMM未収録)の項目には、純一と明弘両方併記されてゐる。話を戻して、エリート社員―陰気な女のモノローグより―の吉岡(野沢)がカンザワ専務(どんな字を書くんだ/高崎隆二)に娘との結婚を申し出て完拒絶されるまでに、スタッフのクレジットが併走するのは、クレジットを追つたが最後少しでもなく判り辛い。交際してゐたカンザワの娘・芳恵(白鳥)を同僚の並川(山科)にカッ浚はれた吉岡は、辞表を提出、無軌道に夜の街に沈む。といふのに並川は、結婚後半年と経たずに新入社員・久美子(森園)と不倫、芳恵から心を―体も―離す。そんな中、退職金も使ひ果たし再会する間にホステスからママへと出世してゐたリカ(山岸)の家に転がり込みヒモとして暮らす吉岡は、化粧品店で万引きし逃走する芳恵を目撃する。
 配役残り、この人は、正確にはこの人も照明部らしき西田光月は、芳恵が浮気調査を依頼する中央興信所の、調査表を表紙から手書きする―1990年水準だとそれで問題ないのか?―調査員。脱がずの四番手・赤城玲子は、芳恵を追ひ駆ける化粧品店店員。吉岡一郎(a.k.a.吉岡市郎)は、最終的に吉岡に泡風呂に沈められた芳恵(源氏名:メグミ)の客。問題は森下昌也と桂多門が、手も足も出せずに特定不能。候補すら、背中からしか抜かれない化粧品店店主くらゐしか出て来ない。声はすれども姿は見えぬ、カンザワの運転手も含まれるのかな?
 初対戦の矢竹正知に関して、jmdbと日本映画監督協会公式サイトの、現存しない物故会員名簿(2003年没)のキャッシュを頼りに簡単に掻い摘むと、照明・撮影部から演出に転向、三十本弱を監督。興味深いといふいひ方が妥当なのか否かはよく判らないが、木俣堯喬とは古い付き合ひがあつたらしく、1995年にメガホンを擱いた以降、再び照明部に戻つてゐたりもする。DMMの中に六本ある中から1990年第三作の今作を選んだのは、サムネに野澤明弘が見切れてゐたのと、監協のキャッシュに大蔵映画監督賞を受賞したとあつたからである。と、したところが。平社員か幾分の役つきかまでは兎も角、若造が専務室にお嬢さんを下さいと乗り込む無造作な開巻で順調に垂れ籠めた暗雲が、終ぞ晴れることはなかつた。オープニング・クレジット直後の、芳恵を並川に奪はれた吉岡がドロップアウトするイントロダクションの、ガッチャガチャの繋ぎで既に十二分に大概なのは正しく序の口。最も特徴的なのは子細は俳優部に丸投げした、ひとつひとつが途方もない長さのカット。二分、三分は当たり前。旦那に夫婦生活の求めを拒まれた芳恵が、暫くゴソゴソした末に自慰に至る件。山科薫が丸々四分間をひたすら寝たふりで押し通す、前代未聞の長回しにはある意味度肝を抜かれた。面白いのが、それでも案外果てしない長尺をそれなり以上に乗り切つてみせる山科薫に対し、野澤明弘がカットの長さに全然耐へられない。甘いマスクと精悍な肉体、魅力的な張りのある発声に恵まれながら野澤明弘が大成しなかつた所以の一端は、その辺りに垣間見えるのであらうか。無体なのはさて措いてあちらこちら綻びだけは事欠かない始終に、実も蓋も消滅してしまふが特段見るべき点は見当たらない、一体大蔵の監督賞とは何なのかといふ話である。あまりにも漠然と掴み処がないゆゑ、もう五本あるのをぼちぼち見て行かう。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )