真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「逆レイプ女王様 愛川まや 牝豹の生贄」(1991/受審:新東宝ビデオ株式会社/監督:浜野佐知、の筈/出演:愛川まや・石井基正・山口賢二)。石井基正と山口賢二には、各々“AS 友人”・“AS 夫”と役名までクレジット併記される。役名といふか、役柄といふか。
 まや女王様(大絶賛ハーセルフ仮名)の仁王立ちを、足下からカメラが舐める。気を張つてゐないと割と覚束ない、素の表情にアバンでは愛川まやのみクレジット。女王様にしては吹いて下さる、尺八を仰角に抜いた画が―以降サブタイトルが入る度に―暗転して“もう一つの物語”。朝食の支度をするまやに、夫(山口)が背後から迫る。喘ぐ口元のアップを止めて、凄まじく酷い書体のタイトル・イン。“新居の幸せな午後”、素敵なマンションでまやと夫が適当に乳繰り合つて、ゐたかと思へば。唐突に起動する砂嵐挿んで、女王様ver.のまやが奴隷を張る。アバンギャルドと紙一重に無造作な、雑すぎる構成が堪らない。“爽やかな休日の朝”から、その発想を忘れてゐた女体ならぬ男体盛りを展開する“女王様のお食事”と続いての、“親しい友人の来訪”。クレには友人とあるものの、劇中の遣り取りを窺ふに、夫の後輩である石井基正が愛欲の巣に遊びに来る。石井基正キタ━━━(゚∀゚)━━━!!、とても2022年の感興とは思へない。
 “スペルマに血が混じるまで…”“女王様が責めまくる”だとか、パケにはブルータルな惹句も躍るアダルトビデオ。確かに、夫犬が勝手にハモニカを吹いて女王様激おこの件では、熱ロウで責められた山口賢二が普通に絶叫してゐる。例によつての確認可能な限りで、愛川まやは新田栄の「痴漢と覗き」第六作「露天風呂篇」(三本とも1991/脚本:夏季忍=久須美欽一)に主演したほか、大御大・小林悟の「女子大生 奴隷志願」(主演:工藤ひとみ/四番手)と、イヴちやん(a.k.a.神代弓子)の妹である家永翔子(a.k.a.竹田愛美)の最初で最後作「巨尻 ぶち抜く!」(脚本・監督:珠瑠美/二番手)に出演してゐる。
 往来する虚実が最終的に何処かへと膨らむなり抜ける、でもなく。さうなつて来ると所詮は漫然とした羅列に止(とど)まる、総じてはいふほどの無茶もしないプレイの数々を、副題と砂嵐とでズッタズタに切り刻む。まるで断裁するかの如くぞんざいな繋ぎに、そこでさう切るのかよ!とその都度軽く度肝を抜かれる以外には、物語的な面白さは絶無で、山賢のところに大穴の開く、俳優部の旨味も大いに物足りない。琴線の触れ処を探すにも俄かには難く、最早ホッケーと乳尻を眺めるほかない、スタージョンの黙示に支配された大山の、山腹から下を成す一山幾ら作。最終章の“新しい一日が始まる”、夫と一泊した友人を普通に送り出したまやが、「さあてお掃除でも」とか伸びをして、玄関に引つ込まうとする一欠片の変哲もない画に、兎に角叩き込まれるFINには起承転結の転部でも平然と映画を強制終了してのける、大御大・小林悟に近い正体不明の衝撃を受けた。といふか転がすところまで辿り着くどころか、起部から満足に起きてない。

 あと、サブタイのひとつに“心暖まる晩餐の時”とあるのは、さういふ用法の時は“温まる”だと思ふよ。


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