真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「セクシー・ドール 阿部定3世」(昭和58/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:菅野隆/脚本:佐伯俊道/プロデューサー:村井良雄《日本トップアート》/企画:成田尚哉・山田耕大/撮影:野田悌男/照明:田島武志/録音:伊藤晴康/美術:金田克美/編集:奥原茂/音楽:細井正次/助監督:村上修/色彩計測:森島章雄/現像:東洋現像所/製作担当者:鶴英次/出演:三東ルシア・樫山洋子《東芝レコード》・萩尾なおみ・江角英明・石山雄大・八代康二・中原潤・新井真一・玉井謙介・桐山栄寿・小見山玉樹・中林義明・木元一治・井沢清秀・山本洋資・白井達始・松永隆幸・松本信子・立木綾香)。出演者中、松本信子と立木綾香は本篇クレジットのみ。
 電話ボックスに三東ルシアが入るロング、何処にかけようとしてゐたのかは結局謎の―当てが見当たらない―重宗和美(三東)が、木元一治(a.k.a.瀬木一将)をリーダー格とする三人組(二人は判らん)の愚連隊に襲はれる。逃げる和美と、追ふヒャッハーがタイトルバック。菅野隆のクレジットまで通過した頃合を見て、通りがかりの女・麗子(樫山)が四人の姿に目を留める。和美が派手に剥かれ、いよいよ挿されんとする段に介入した麗子が、如何にしてこの絶体絶命を打開するものかと、思ひきや。自ら毛皮のコートを脱ぎ始め、三穴で全員引き受けるエクストリームな利他主義には畏れ入つた。一旦果てさせてなほ、寧ろ麗子が三人を解放しない腰遣ひがエロいの向かう側でエモい。事後、車に乗せた和美に名を訊かれ、“阿部定”と答へた麗子は豪快に信号無視。麗子いはく青に見えたとかいふ、正真正銘赤信号にタイトル・イン。タイミングは兎も角、タイトルの入り具合にどうも違和感を覚えたのは気の所為か。
 表向きは村沢真知子(萩尾)を従業員にブティック―屋号は「E51 STREET」?―を営む、麗子の下に和美はそのまゝ逗留といふか居候。店を手伝ひもしないで優雅か有閑に雑誌なんか捲つてゐる和美が、鳴つた電話に出ようかとしたところ、「フェアリー・レディ」の留守番電話が起動。フェアリー・レディはコールガールだがゐるのはゐる筈の、真知子以外の嬢は劇中一切登場せず。
 辿り着ける限りの、配役残り。相変らず超絶の滑らかさでカット頭に飛び込んで来る、至高の十八番芸を華麗に披露する小見山玉樹はタクシー運転手、コミタマキタ━━━(゚∀゚)━━━!!。後部座席に麗子と座る石山雄大はフェアレの顧客、新日本商事の本庄、自称。ピックをバラ撒く橘高文彦感覚で本城もとい本庄が札片を切る、金で買はれ麗子に喰はれる濡れ場で、今回小見山玉樹も女優部の恩恵に結構与る。八代康二は本庄からの依頼を受け真知子が出張る、対イスラエルの武器輸出を巡る汚職疑惑で、偽装入院中の衆議院議員・今野吉雄。今野と真知子が死んだ一報に、麗子が慌てる隙を突かれ和美が二人組に拉致。中原潤が、そのうち男前な方の片桐タツヤ。片桐は和美を連れ、人の生死をも気軽に左右し得る何某かの大物・重宗源義(江角)邸に帰還。元々和美は重宗が妾に産ませた娘で、母親の死後正式に引き取られながら、逃げ出して来たものだつた。脱いで百合の花も咲かすにしては、本クレのみの扱ひが地味に不遇の松本信子と立木綾香は、重宗が周囲に侍らせる女。シックスナイン式に互ひを剃毛する、折角の斬新な絡みはもう少し引きで撮れないのか。新井真一は重宗邸から和美を逃がした咎で、拷問の末庭に半裸で放置されてゐる山口。玉井謙介は、麗子が本庄の素性を確認する貸事務所屋。徒にタナトス匂はせる、麗子―と片桐―の最終的な去就は語られないまゝに、“阿部定”を和美が勝手に襲名するラスト。全五作中三作と、菅野隆映画の最多常連を密やかに誇る桐山栄寿は、ビリヤード台に乗り大股開きで男を誘ふ和美の、観音様に玉を命中させ最初に頂戴する御仁。さて、クレジットに残る名前が五人分。ヒャッハ隊もう二人に、今野と真知子殺害を伝へる、玉謙と同じくらゐの齢恰好に映るNNK局アナウンサー、NNKは日本日活かなあ。あとプールバーにて桐山栄寿の露払ひを務め、全体を俯瞰するとアバンの麗子を引き継ぐ、巴戦に招かれる二人連れで一応数は合ふ。その他、麗子が本庄と入るレストランと、プールバーにそれぞれ十人前後。看護婦に扮装した真知子を易々通す、今野の病室を守る役立たずが二人、守れてねえ。和美拉致時に於ける片桐の連れと、貸事務所屋で黙々と机に向かふ男女一人づつ。ロマポらしい、豪勢な人数がノンクレで投入される。ち、なみに。共々藪から棒か木に竹を接いで“阿部定”を名乗りこそすれ、実は麗子も和美も、世代に関しては全く触れてゐない。
 凡そ四十年未ソフト化かつ未配信、どころか形の如何を問はず、上映されたといふ話もとんと聞かない。コケたともいはれてはゐるが、断片的に洩れ聞こえて来るところによると明確ないし対外的な所以があつた訳では必ずしもなく、どうやら日活の純然たるか生臭い内部的評価に―のみ―基き、兎に角封印されてゐた菅野隆第四作。ロマポ半世紀の周年記念に、リマスタ版が遂に発売されたものである。三東ルシア的には、前年の「女教師 生徒の眼の前で」(監督:上垣保朗/脚本:大工原正泰)に続く主演第二作。比較的大きめにも思へるネームバリューに反し、三東ルシアが劇場映画には全部引つ括めたとて両手で足る程度しか出演してゐないのもあつてか、主演したのは以上ロマポ二本と十九年ぶりで量産型裸映画に復帰した、松岡邦彦2005年第三作「肉屋と義母 -うばふ!-」(黒川幸則と共同脚本)の三本きりではある。
 女ごと国会議員を謀殺する、結構な大風呂敷をオッ広げてみせた割に、そもそも和美と重宗の因縁に触れないレベルで外堀を一向に埋めようとせず、前半娯楽映画が特にも何も弾まない以前に、覚束ない物語すら満足に起動しない。尤も三本柱の、裸は十全に拝ませる。後半も後半で、片桐が過去に麗子とは情死し損ね、重宗に対しても命を狙ひ損ねてゐた宿業じみた関係性を繰り出しつつ、矢張り詳細を詰めるのは頑なに拒み、単に、展開上和美が蚊帳の外に追ひやられかねない始末。とかく作劇的には痒い所に手が届かない、または確信犯的に届かせなかつたかのやうな出来栄え、とはいへ。要は菅野隆にとつて、お人形さんお人形さんした三東ルシアよりも、麻吹淳子あるいは風間舞子と同様、バタ臭い樫山洋子の方が恐らく琴線に触れるなり眼鏡に適つたのにさうゐない。オーソドックスな起承転結を爆砕してさへ、終盤を支配するのは出し抜けだらうと藪蛇だらうと遮二無二畳み込む叩き込む、否、撃ち抜く。和美と片桐が廃墟―は所謂お化けマンション―や荒野でひたすらヤッてヤッてヤッてしこたまヤリ倒す、“かんの”とクレジットに読み仮名まで振る第一作「ズーム・アップ ビニール本の女」(昭和56/脚本:桂千穂/主演:麻吹淳子)と、パッヘルベルキャノンの号砲轟く最高傑作「密猟妻 奥のうづき」(同/脚本:いどあきお/主演:風間舞子)のハイライトを足して二で割りはせず、更に踏み込んで二を掛けた渾身のスペクタクルが圧巻。素面の作劇としては正直木端微塵にせよ、同時に異様通り越して異常な迫力が溢れもする、決壊したダムの如くダダ溢れする。繰り返すと、決して裸映画的に不誠実の誹りにはあたらない。ただそれが、最たる情熱を注がれるのが主演女優でなく、二番手であつたといふだけで。直截にいふと今作の何処が何が斯くも、日活の逆鱗に触れたのだか釈然としなくはあれ、強ひて邪推を勘繰らせるならば、当時の日活目線では三東ルシアを新しいスターに育てたい目論見もしくは皮算用を、逆の意味で見事に御破算にしてのけたと看做されたのではあるまいか。それとも取つてつけたぞんざいなカットを窺ふに、阿部定御題にも大概後ろ足で砂をかけてゐる。デビュー三年の四本目にしては、偶さか往時の日活にとつて許し難い所業と受け取られたのかも知れないが、この期に及んだフラットな態度で触れる分には、菅野隆が窮屈なビリング―と企画自体―に縛られた中、それでも自らが最も撮りたいシークエンスを、果敢に全力で振り切つてみせた凛々しくリリカルな印象が強い。力なく無残な買取系ロマンXの最終第五作「マゾヒスト」(昭和60/脚本:磯村一路/主演:小川美那子)後ほどなく、即ちとうの昔に亡くなられた菅野隆の、再評価もへつたくれも遅きに失するにほどがある感は否み難くも、とまれ見られてよかつた、見ておくに如くはない一作。面白い詰まらないはこの際さて措き、確かに菅野隆の息吹がこゝにある。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« トーキョー×エ... 生でドピュド... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。