真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「未来H日記 いつぱいしようよ」(2001/製作・配給:国映株式会社、カレス・コミュニケーションズ、新東宝映画株式会社、O・H・C/監督:田尻裕司/脚本:増田貴彦・田尻裕司/企画:朝倉大介/プロデューサー:森田一人・松家雄二・福俵満/撮影:飯岡聖英/助監督:吉田修・松本唯史・伊藤一平/撮影助手:田宮健彦・山本宙/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/タイミング:安斎公一/スチール:佐藤初太郎/応援:榎本敏郎/協力:《有》ライトブレーン、《株》日本映樹、《有》バック・アップ、志賀葉一、橋口卓明、細谷隆広、熊谷睦子、小峰千佳、小泉剛、小林康宏/音楽:面影ラッキーホテル 主題歌:『夏のダイアリー』 作詞:ACKY・作曲:ACKY・編曲:SONeY/出演:川瀬陽太・織原稜・川屋せっちん・小野弘美・佐藤幹雄・中浦安紅子・美輪めぐみ・羅門中・高梨ゆきえ)。企画の朝倉大介を先頭にまづはスタッフ、協力・O.L.H.を経て田尻裕司まで来たその後に、改めて俳優部が来るクレジット順に意表を突かれる。
 “1995年8月30日(水)”、洋菓子を手に商店街を歩く女の後姿。顔馴染のカレー屋の大将(羅門中=今岡真治)に声をかけられた鈴木悦子(小野)は、妹・智子の誕生日である旨答へる。いはゆるバックシャンで、口跡も素頓狂寄り。ところでその頃、十六になつた画期的にセーラー服が似合はない智子(高梨)の部屋には、ワンピースの誕生日プレゼントを携へた悦子の彼氏・佐藤健二(川瀬)が。悦子が前を通り過ぎる「恋する惑星」のポスターをわざわざ抜いた上で、智子と健二は対面座位に突入。その場に現れた悦子は洋菓子を投げつけ踵を返し、後を追ふ妹と彼氏の眼前、ベタなSE交通事故。ベチャッと健二に血糊を飛ばしてタイトル・イン、一濡れ場も一応こなし、ここまでアバンはそれなりに順調ではあつた。
 “5年後 2000年8月12日(土)”、五年前はリーマンだつた筈なのに、現在はドロップアウトしてプーの健二と、同居人でゲイの美容師の裕太(川屋)が、ベチャベチャ商店街を歩く。ゲイといふと美容師の紋切型を、昨今久しく見ない気がする。一方、本家未来日記の映画版上映館―八月十二日時点では、未だ封切られてゐなかつたみたいだが―前にて、待ち惚けを喰らはされる健二の彼女・美加(織原)の脇を劇場に向かふ、エッチな未来が書いてあり、その通りにしないと恐ろしいことが起こる。不幸の手紙的な「未来の日記」の都市伝説を投げる中浦安紅子と美輪めぐみ(最終的に、健二に二発目の血糊を飛ばすショートカットが中浦安紅子)と、映画を観て来た智子に、号泣してゐる智子幼馴染の彼氏・さとる(佐藤)が擦れ違ふ。続く美加と裕太が健二を取り合ふ悶着は蛇の足臭いが、総計一分半回すカットも積極的に悪くない。ともあれ水不足の夏の、“8月14日(月)”。健二が仕事に出る裕太を送り出すと、食事中の机上には何時の間にか、悦子の墓参りに行つた健二が、思ひがけない人と出会ふとする「未来の日記」が。その他辿り着けた配役、相ッ変らず健二と美加と裕太で無駄にガチャガチャする美容室に、「未来の日記」を健二宛の宅配便といふ形で届けに来る配達員は小泉剛。
 山崎浩治とのコンビは解消したのか、渡邊元嗣が2016年第三作・2017年第一作と二作続けて脚本家を増田貴彦と組んでゐるのに何気にでなくハラハラしつつ、DMMピンク映画chの片隅に潜り込んでゐるのを探しだした田尻裕司2001年第一作にして、前述したナベシネマ2016年第三作が十五年ぶりの電撃復帰作となる増田貴彦―アニメ・特撮畑を主戦場にしてゐる人らしい―のピンク映画初陣。個人的には大昔に故福岡オークラで観て以来、前後して駅前ロマンでも観てゐたかも知れないが、今なほ長く再見の機会には恵まれずにゐた。軽く話を戻して、「未来H日記」がDMMピンク映画chの“片隅に潜り込んでゐるのを探しだした”といふのは、直截なところタグづけがへべれけで、何処に何が紛れ込んでゐるのか大概手探りであつたりもする。辿り着く過程もそれはそれで楽しいので、ちやんとしろよとは別にいはん。
 閑話休題、増田貴彦は遅くとも90年代中盤には既にプロとして活動してゐるゆゑ、あとはといふか要はといふか、どれだけ田尻裕司が余計な手を入れて呉れたのかが鍵の責任回避なり弁解の余地は留保するにせよ、ナベシネマの今後が甚だ不安になつても来る出来。人の未来と文字通りの命運とを握るパラノーマルな飛び道具に導かれ、依然近所に暮らしてゐると思しき割には五年ぶりに再会した恋人を喪つた男と、姉を喪つた女。頑なに心を閉ざす智子に対し、美加や裕太との絡みも踏まへるに、全方位的に自堕落極まりない健二の造形が如何せん呑み込み辛い。田尻裕司の一般映画志向からすればそもそも論外である根本的な疑問点は強ひてさて措き、ピンク映画的には無邪気の範疇に押し込めて押し込めなくもない、ブラの中に蝉が入る小川欽也も真つ青なへべれけシークエンスよりも寧ろ、作劇上も素面の男女交際としても都合のいいことこの上ない、健二と美加の別れの一幕の方が一層度し難い。勿体つけて智子を絶句させながら、“8月23日”の「未来の日記」の内容を挙句その日に限つて見せない意味が判らないし、一旦出勤した智子が捌けたところで電話が鳴るや、傍らに置かれてゐたハードカバーが雑な繋ぎで「未来の日記」に変るカットも十二分に酷い、カメラワークでもつと幾らでもスマートに見せられたぢやろ。死の代償を懼れ、「未来の日記」が司る未来に従はうとする智子の姿は、相手役が自堕落に手足を生やしたが如き人物につき葛藤らしい葛藤が生じずドラマをゼロから拒み、にも関らず、出し抜けに手の平を返して土砂降る雨の中青姦カマしたかと思へば、元々クソな米米CLUBの劣化レプリカの主題歌―O.L.H.て、こんなバンドなの?―が流れ始めるラストは、ある意味綺麗にものの見事に万事休す。こんなに詰まらなかつたかな、とグルッと一周した清々しい感興を覚えかねないほどに詰まらない。ドリフ桶よろしく頭上から降つて来た、抜けた映画の底で脳天を痛打するかのやうな、小林悟でも観てか見てゐた方がまだマシ。“でも”とは何だ、“まだ”とは何事か。とまれここはひとつ、今後に際しては俺達のナベを信用するほかない、それか今作が何かの間違ひか。


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コメント
 
 
 
Unknown (はる)
2018-12-01 14:04:40
これって美加と裕太の絡みってあるのかしら?
2001年は何故かAVで女とホモのからみが4本出た珍しい年ですw
神田もものは一番リアリティがあったなw
斎藤竜一と平賀勘一でした

ゲイで美容師って90年代っぽいですね
未来日記ももう既に忘れ去られてるのは切ない…
 
 
 
>美加と裕太の絡み (ドロップアウト@管理人)
2018-12-02 00:21:38
 展開グダグダなんであれですが、一応所謂逆レイプします。
 
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