真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女詐欺師と美人シンガー お熱いのはどつち?」(2015/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山﨑邦紀/企画:亀井戸粋人/撮影:小山田勝治・猪本太久磨/照明:ガッツ・蟻正恭子/録音:沼田和夫・廣木邦人/監督補:北川帯寛/助監督:菊嶌稔章・藤井愛/音楽:真梨邑ケイ・中空龍/劇中歌:『I LOVE NEW YORK』作詞・作曲・歌:真梨邑ケイ、『Summer Time』、『野ばら』/ライブ演奏:Vocal 真梨邑ケイ・Piano & Keyboards 今野勝晴・Wood Bass 金子健/ヘアメイク:大橋茉冬/編集:有馬潜/整音:若林大記/音響効果:吉方淳二/録音スタジオ:シンクワイヤ/ポスター撮影:MAYA/タイトル:道川昭/グレーディング:東映ラボ・テック/撮影機材協力:アシスト・株式会社 Po-Light・株式会社フルフォレストファクトリー/ロケ協力:Paradise Cafe・田中スタジオ/協力:真梨邑オフィス/写真提供:黒佐勇/出演:真梨邑ケイ・加藤ツバキ・倖田李梨・荒木太郎・ダーリン石川・竹本泰志・平川直大・滝ともはる・藤井愛・なかみつせいじ)。出演者中、滝ともはるはまだしも、藤井愛が載つてゐるのに何故か平川直大が本篇クレジットのみ、照明部メインのガッツは守利賢一の変名。
 サーマターイムとヴォーカル・インに続いてタイトル開巻、後ろに今野勝晴と金子健を従へた、ジャズシンガー・中空ならぬ空中ジュリア(真梨邑)のライブ風景。庭にプールがある方の、私称第一ミサト。画面左から、何時でも首に馬鹿デカい一眼レフをぶら提げた造形がポップなカメラマン・吉岡(平川)。ジュリアとは男女の仲にもある、プロデューサーの藤沢修司(なかみつ)。中央にジュリア挟んでマネージャーの君津ひとみ(倖田)と、ジュリアのヌード写真集―レディ・デイになぞらへて―『Lady J』を企画するデザイナーの郡山好夫(竹本)。一列に並んだ一同でジュリアの活躍を言祝ぐライブの打ち上げ、出来上がつたイメージを壊したいだのファンを裏切り続けたいだなどと、自信タップリプリにぶつてのける真梨邑ケイが、意図的に芝居をデフォルメした際の小川真実を彷彿とさせる。その夜、ジュリアと藤沢の絡みの中途で、昼夜から一転裾の大きく割れたパンツで闊歩する、女詐欺師の椎葉ゆかり(真梨邑ケイの二役)。ゆかりが逗留するホテルに入ると、結婚詐欺で大金を巻き上げた何処ぞの市会議員・松原(荒木)がゆかりの所在を探し当て詰めかけてゐた。ゆかりが松原を適当にあしらふ最中、星川か星河ミワの名前で矢張り騙した、川崎慶太からの電話も着弾する。今度はゆかりと松原の絡みの中途で、プールサイドでの『Lady J』撮影風景。窓からそれを眺めつつ、ひとみと郡山は乳繰り合ふ。
 配役残り、倖田李梨V.S.竹本泰志戦を三度目の正直で完遂したタイミングで中盤の火蓋を切る加藤ツバキは、ゆかりにカモられ自殺した悟郎(一切登場せず)の娘・二本松夕香。ライターで、ゆかりの自叙伝を企画する。硬軟両極端な二種類のキャラクター像を使ひ分ける加藤ツバキにとつて、今回は個人的に好みの方の―知らんがな(´・ω・`)―ソリッド版。滝ともはるは、ジュリアの主戦場たる横浜は馬車道のライブハウス「Paradise Cafe」オーナーのヒムセルフ。本来は演出部の人間なのか、藤井愛はゆかりが逗留するホテルのフロント。そしてダーリン石川が、攻め受け両面で素晴らしい暴れぶりを披露する川崎慶太。
 浜野佐知2015年第二作は、電撃古巣復帰したデジエク第四弾「僕のオッパイが発情した理由」(2014/脚本:山﨑邦紀/主演:愛田奈々)、前作の第六弾「性の逃避行 夜につがふ人妻」(2015/脚本:山﨑邦紀/主演:竹内ゆきの)に続くデジタル・エクセス第七弾にして、ピンクどころか劇場映画初主演のビッグ・ネームを招聘した、エクセスのお盆決戦作。真梨邑ケイの名前がこれまで当方の歪な琴線に触れたことはないのだが、還暦間近である点も踏まへると、今なほプリップリの肢体の美しさは衝撃的。総尺も増えた分歌を歌ふ場面は潤沢に設けられるものの、本職のジャズ歌手としての実力のほどは、ズブッズブの門外漢につき正直よく判らん。自曲で所々音を外してゐたやうに聞こえたのは、ズージャーてのはああいふものなのか?
 映画本体に話を戻すと、夕香から女詐欺師としての黄昏を突きつけられたゆかりは、酒を飲みながらの危険な湯船にて、戯れに自ら首を絞めてみる。童女のやうにも聞こえる、歌ひ手が判らない「野ばら」起動。ゆかりが意識を取り戻したのは、ホテルでなく空中邸の薔薇風呂の中。まるで勝手が掴めないまゝライブのサウンド・チェックと称して連れて行かれた、夕香が新人スタッフとして働く「Paradise Cafe」のステージ上で、ゆかりはいはゆる並行世界の存在を認識する。ジュリアがゐる世界と、藤沢が貸しスタジオ田中もとい「ファレコ」管理人の、ゆかりが元々ゐた世界。往来自体を自分で選択なり操作することは出来ないにせよ、二つの世界を往き来する過程で、ゆかりは確かにそろそろ潮時の―本来の自分であつた―女詐欺師ではなく、美人シンガー・ジュリアの人生に居心地の良さを覚えるやうになる。序盤は大御所のエクセスライクに振り回された、覚束ない足取りのスター映画かと一旦危惧させておいて、ゆかりの意識を軸に―ゆかりがジュリアである間、元々のジュリアは夢を見てゐるのに近い状態にあるらしい―二つの世界を丁寧に積み重ねる。ゆかりの都合のよさにも上手く味つけされた、目の前の現実だけではない、より多くの可能性を摸索する物語は抜群に見応へがある。エクセスの大勝負に自重してか、浜野佐知が何時もの如くラディカルなフェミニズムを主演女優に仮託することもなければ―代りに撃ち抜くのは加藤ツバキ―山﨑邦紀が奇矯なモチーフを持ち込むでもないパラレル一本勝負を、果たして如何に見事に畳んでみせたものかと固唾を呑んでゐたところ。ジュリアとゆかりを視覚的に区別する、ゆかり右肩の蝶のタトゥー。アイコンを逆手に、二つのほぼ同じ肉体と別々の意識とが劇中の法則を超えてクロスする、でもなく、最もプリミティブなオチに硬着陸する関根和美も吃驚なラストには、小屋の狭い椅子の上で引つ繰り返つた。堂々とやらかした感が寧ろ清々しい、ツッコんだ方が負けなのかも知れない豪快作である。

 とはいへ、不要な困難も予想される大物映画にしては十二分な仕上がりで、近年オーピーでは苦戦気味であつた浜野佐知が、エクセスでの元気な様は頼もしい。加へて、未だ着弾のタイミングも定かではない山﨑邦紀2015年第二作―第一作は来月来る―に続き、我等がナオヒーローこと平川直大が、三年ぶりに浜野組に帰還したトピックが何より嬉しい。


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