真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「いたづら天使 乱れ姿七変化」(2015/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/撮影助手:矢澤直子・高橋史弥/照明応援:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/協力:榎本敏郎、他二名/応援:関谷和樹/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/協賛:GARAKU/出演:桜木凛・五十嵐しのぶ・岡田智宏・ケイチャン・津田篤・山口真里《愛情出演》・樹花凜)。出演者中、山口真里は本篇クレジットのみ。狭義のピンク映画に於いて、恐らく自作後初となるウルトラ久し振りに見かけた榎本敏郎の名前に驚いて、クレジット終盤に玉砕する。
 夫・透(岡田)が一人ニッカニッカ時計仕掛けに行動する、香川家の朝。送り出した元部下の妻・千尋(桜木)が、時刻表と生活してゐるみたいと溜息をついたところで、街景のロング・ショットに品のないフォントでドヒャーンと起動するタイトル・イン。何処で売つてゐるのか、ドット柄の凄いワイシャツを着た社内での愛称はドット君ことこちらも元同僚の永山孝夫(津田)が、外回り中と称して千尋を訪ねて来る。壁ドンと胸キュンを経て華麗に濡れ場初戦、ベタだの陳腐だのを欠片も懼れぬ渡邊元嗣の強靭なポップ・センスが、量産型娯楽映画を強くする。事後、不義をやらかした自己嫌悪を抱へて千尋は外出。退屈なOL生活に厭き結婚してはみたものの、専業主婦はもつと退屈だつた。贅沢な悩みを振り回す千尋は、衝動的に世界の消滅を願ふ。他方、薄いパープルのメイド服に身を包んだ、神様(樹)登場、神様!?「だ・れ・に・し・よ・う・か・な」と、自ら正しく神様のいふとほりに神様が飛ばしたメイド靴は千尋を直撃。“神を信じますか?”と手書きしたポケット・ティッシュを手に現れた神様を、当然千尋はチープな小道具もとい勧誘かと完スルー。すると樹花凜が素頓狂な決定力でシレッと叩き込む超絶の名台詞が、

 かう見えて神なのだ。

 確かに神には見えねえ、言ひ得て妙さに十万億土の彼方まで広がる大草原。反面“ダハハハハ”だの“バッハハーイ”だのと一々メソッドが古臭いのは、絶妙に神臭いかも。当たり前だがなほも神を信じない千尋に対し、神様は二人のダンス動画をスマホで撮影。それを千尋が見せられてみると、神様だけターンする毎にクルクル扮装がコスプレ変化するのは、迸るGARAKU(ex.ウィズ)魂とデジタル化の恩恵とを直結させた、ナベシネマならではの麗しい一幕。
 配役残り五十嵐しのぶは、乱れ姿七変化をさういふアプリかと依然納得しない千尋に業を煮やした神の気紛れで、ドット君からドット柄のスカーフを巻いたドットさんにさせられた永山孝子、立ち位置が元同僚から元先輩へと、微妙にシフトしてもゐる。その違和感は、当人始め千尋以外の全人類は共有しない。千尋をAVにスカウトする山口真里(役名はスカウトの女)噛ませて、ケイチャンこと要はけーすけは、千尋を騙くらかす悪徳芸能プロダクション社長・ジョニー北山。二作務めた十日市秀悦の後を継ぐナベシネマ二代目、亜紗美も入れると三代目。十日市秀悦の更に前に、真の初代がゐたならば申し訳ない。
 自身の引退なり復帰も挿みつつ、荒木太郎2010年第三作「恋情乙女 ぐつしよりな薄毛」(監督・脚本・出演:荒木太郎/原題:『夢しか夢がない人のプロレタリア恋愛』)以来まさかの大復帰を遂げた桜木凛を主演に擁した、渡邊元嗣2015年第一作。結論から先走ると、デジタル時代もゴールデン・エイジの第二章を軽快に爆走するナベが、画期的新機軸の女子トークピンクをも押さへ2015年戦線の先頭に飛び込んで来た!ダラけてる人類に神様が定期的に与へる、神の癖に阿弥陀籤で選ぶ今回の試練は、ズバリ日本消滅。そしてそのカタストロフィを回避するための条件は、白羽の矢をたてられた千尋が一ヶ月後二十七歳の誕生日までにトップ・アイドルになること。ファンタ路線のアイドル映画と来た日には、流石俺達のナベだぜと、拍手喝采するのは全然早計。神の与へた試練を回避するために、悪魔に魂を売る。全体樹花凜の絡みはどうするものかと思ひきや、神と悪魔が腐れ縁のセフレ関係。矢継ぎ早に叩き込まれる超展開に、度肝を抜かれるのもそれでも未だ早い。何より圧倒的なのは、千尋のスマホを覗き見た、透が岡田智宏一流の持ち芸でほくそ笑む謎カット。一旦放置されたかに見えた伏線が満を持して火を噴く、アップデートされた現代性も鮮やかな一発大逆転ラスト。悪魔に魂を売るのも千尋の選択にせよ、世界を救ふのは、愛であつて欲しい。神様が僅かに窺はせる真心に、即してゐるのも素晴らしい。五十嵐しのぶに話を戻すと、千尋を溺愛する透が幾ら据ゑられたとはいへ膳を喰ふ不自然ささへさて措けば、神の全能の証明の枠内に、三番手を回収する論理も地味に秀逸。滅ッ茶苦茶に面白い、これ今作の最大の勝因は、絶好調を維持するナベや穴のない強力な俳優部だけでなく、何気に比類ない脚本の強度ではなからうか。普段は控へる二度目の自リンを貼ると、悪魔か神とアイドル、完全に何時か観たやうなオーラスは御愛嬌。この世界に神とか悪魔がゐるのかゐないのかは不信心者につき知らん、ただピンク映画には、渡邊元嗣がゐる。


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