真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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わいせつ温泉宿 濡れる若女将
深町章
/
2015年11月02日
「
淫湯 ぬめり股
」(2003『わいせつ温泉宿 濡れる若女将』の2015年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:河本晃/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/出演:河村栞・里見瑤子・酒井あずさ・岡田智宏・白土勝功・広瀬寛巳・港雄一)。
緑色のフィルターのかけられた回想画面、出奔する父親を「父ちやあん父ちやあん」と呼ぶ男の子の声が、夢にうなされる岡田智宏のものへと変る。夜明け前の旅館にて、幼少期の体験を今も夢に見る菊夫(岡田)が目覚める。それでも菊夫的には寝過ごしたらしく、社用で急に帰京する旨の書き置きを残し慌しく宿を後にする。さういふ手口の無銭宿泊なり寸借が十八番といへば聞こえもいいが要は関の山の、菊夫はシケた詐欺師だつた。バスに揺られ辿り着いた次の町、菊夫はベンチで隣り合はせたジジイ(広瀬)に、当地の旅館情報のリサーチ。東京に妻子を捨て、流れ着いたこの町で成り上がつた資産家の、愛人(故人)に産ませた娘が女将の旅館。ただし資産家は卒倒し、今は身の回りの世話もその娘に任せてゐた。一稼ぎに格好の舞台と点火した菊夫に道を尋ねられると、ここで初めて新聞紙の下に隠した顔を見せたジジイがザックリ説明したタイミングでタイトル・イン。全篇こんちこれまた
水上荘
周りでの撮影につき、開巻の回想が凡そ東京から出奔する画に見えない点に関しては気にするな。
わいせつ温泉宿に到着した菊夫は出迎へた仲居のみつこ(酒井)を適当にあしらひ、板前の祐介(白土)と最中の事を中断させられた女将・さゆり(河村)に対しては、兄妹再会の大袈裟な先制パンチ。そのまゝ当の寝たきりで言葉も話せない謙造(港)と対面した菊夫は、たまたま同じ名前であつた謙造の生き別れた息子・菊夫を騙る。祐介からは人並みに訝しまれつつ、人の好いさゆりはコロッと完全に騙し、矢鱈とノリも尻も軽いみつこもサクッと誑し込んだ菊夫が着々と仕事を進める中、どうも疑はしい煙草を吸ふファースト・カットで登場する里見瑤子は、菊夫を追ふ形で水上荘に現れる―本物の―菊夫の姉・よしえ。潔く逃げ出さうとした菊夫は祐介にトッ捕まり、仕方なくよしえと会ふ羽目に。
現在も親交のある武田浩介共々、早々にピンクから足を洗つてしまつた河本晃を脚本に擁した深町章2003年第一作。下手な業界の水に洗はれずに、この二人が戦線に留まつてゐて呉れたならば戦況は全く異なつたものになつてゐたのではなからうかと、この期にせんない繰言を吹いても仕方がない。いはゆるフラグを裏切らぬ的確な展開が、観客の予想を大きく上回るエモーションを叩き込むのは、一旦手を握つた菊夫とよしえが祐介の処遇に関して激しく衝突する終盤の修羅場。小悪党には小悪党なりの矜持も持つ菊夫に対し、一見徹頭徹尾クールな毒婦かと思はせたよしえが、遂に露にする悲愴な相。「カッコつけないでよ!」の正しく振り絞るやうなシャウトが琴線を激弾きする、一撃必殺の名場面。終始蚊帳の外気味な性善説ヒロインの弱さは如何せん否めない反面、真の主役たる岡田智宏は飄々としたスマートさで、ウェットにもシリアスにも転ばないやう始終の調子を整へる。始終がピシャッと出来上がる完成感が心地よい、量産型娯楽映画らしい小粒の逸品。リタイアした訳でもないのに深町章が新作を撮れない状況も、嘆いたところで始まらない。
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