真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「お昼の猥談 若妻の異常な性体験」(2015/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影:藍川兼一/編集:中野貴雄/録音:山口勉/助監督:江尻大/音楽:小鷹裕/監督助手:小鷹裕/撮影助手:中谷太/スチール:本田あきら/ポストプロダクション:スノビッシュ・プロダクツ/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:奥田咲・羽月希・野村貴浩・ピン希林・白石雅彦・吉行由実・里見瑤子)。
 住宅地を進む車載目線、往来のピン希林と吉行由実を抜くと、一転暖炉周りに集ふガウン姿の女優部に俳優部限定のクレジット起動、トメにはピン希林が座りタイトル・イン。ピン希林と吉行由実を抜いた画に、元々存在してゐた姦計が匂はされてゐなくもないのか、存在してゐたのだとしたら。
 結婚二年、戸建ての新居に越して来た塚田雪(奥田)は片付けの手を休め、コンビニに夫・哲也(野村)リクエストのコーヒーを買ひに出る。結局買つて来たのがエメマンである点をみるに、ベンダーでよくね?といふのは些末なツッコミ処。道すがら雪は、これ見よがしなカーセクロスに燃える吉行由実(お相手は小鷹裕?)、同じく公園の休憩所でやらかす羽月希(お相手は別人設定の白石雅彦?)に目を丸くする。ショックでピン希林に声をかけられたのにも気づかない雪は、両手一杯に袋を提げた里見瑤子がハンズフリーの電話で喧しく口論がてら、落として行つた紙袋を拾ふ。挙句、紙袋の中はバイブだつた、何て破廉恥で素敵な町内なんだ。その夜、入浴中の雪を哲也が急襲する夫婦生活の最中、静子(里見)お手製のドーナツを手土産に、リーダー格の高木真紀子(ピン希林)と紀江(吉行)の御近所三人組が挨拶に訪れるも、玄関先まで漏れ聞こえる雪の派手な嬌声にその日はおとなしく退散する。翌日だか後日、雪が改めて高木邸に招かれると、そこには既に黒のガウンでくつろぐ紀江が。真紀子も青のガウンに着替へ、雪はオレンジ色を着せられ、遅れて現れた静子は白。シエスタと称して、優雅なのか藪蛇なのかよく判らないガウン茶会。最後に一個残つた洋菓子を賭けての、トークの御題は体験告白。初体験は上映中の映画館のスクリーンの裏側だの、飛行機のトイレでオッ始めたところ、機体が乱気流に突つ込み往生しただのといつた武勇伝を、真紀子が恐ろしい粘度で爆裂させる。
 配役残り羽月希は、当然この人も雪の御近所・野沢亜美。奥田咲・羽月希・めぐりのオッパイ・ジェット・ストリーム・アタックが観たい、DVDとかで見たいではなくデカいスクリーンで観たい。白石雅彦は、互ひの刺激を求め別居中の亜美夫・敦、残念ながら明弘ではない。
 真夜キバことBL薔薇族映画「真夜中きみはキバをむく」(2014)は未見につきさて措くとして、2013年唯一作「義父の愛撫 くひ込む舌先」(主演:羽月希)から2014年第二作「妹の匂ひ よろめきの爆乳」(主演:奥田咲)、そして前作「お天気キャスター 晴れのち濡れて」(2015/主演:椿かなり)と足かけ三年三作に亘つて迷走を続けた吉行由実の2015年第二作は、初心な若妻が、淫蕩な御近所に揉まれて一皮剥ける。物語的には石を投げれば当たる類の通俗ポルノグラフィとはいへ、あの―どのだ―浜野佐知でさへ撮れない画期的な新機軸を叩き込んだ青天の霹靂のラッキー・マスターピース。今回吉行由実が編み出した、現状吉行由実にしか撮り得まい画期的な新機軸とはズバリ女子トークピンク。脚本も演出も存在するれつきとした劇映画の筈なのに、まるで奥田咲が素面で女子トークをしてゐるやうに映るのが凄い。ピン希林なるなかなか洒落た変名は、日本放送作家協会理事長といふ要職にも就く本業を慮つてのものなのか、さらだたまこが限界露出でギリギリまで絡む反面、完全に控へに回つた吉行由実にはもう少し―どころでなく―サービスして欲しかつた心も残す高木邸ガウントーク。吉行由実とさらだたまこ、そして文字通りの一昔前を思ふに、何時しか可愛がられる側から可愛がる側に積み重ねたキャリアを跨いだ風情が感慨深い里見瑤子。三大お姉様に囲まれた奥田咲が、畏まるばかりで恐縮至極の様が初々しい。他方、齢も近くサシの野沢家に際しては、極々自然さが却つてエクストリーム。何より素晴らしいのが、いはゆる裸族の亜美に雪が引き込まれる形でと見事な方便で突入する、奥田咲と羽月希による全裸女子トークの圧倒的なジャスティス感。オッパイが大きくて、可愛い女の子といふ正義。最終的には咲かせるし咲かせて貰つて勿論全く構はないのだが、奥田咲と羽月希がオッパイをぺローンと曝け出して、にも関らず別に百合を咲かせるでもなく普通にキャイキャイ談笑するシークエンスの圧倒的なエモーション、これは最早事件だ。雪がお姉様方に開花させられる過程はそれなり以上に分厚く、展開の進行上説得力の面でも何ら問題はないのに対し、哲也の立ち位置に関しては、行間の埋まらない飛躍の大きさが矢張り否み難い。そのため最終的な仕上がりにはある意味如何にも量産型娯楽映画らしい大雑把さも覗かせつつ、正しく何はともあれ、奥田咲と羽月希による全裸女子トーク。その功績だけで、吉行由実は世界の映画史に人類が絶滅するまでその名を刻むべきであらう。暖炉周りの暗さに弱い安普請デジタル撮影の弱点を的確な照明で回避、且つ女の裸を官能的に捉へた画も印象深い。起承転結を観てどうかういふよりも、寧ろ多方向に芳醇なショットの数々に触れるなり浴びるなり、浸るのがより適当に思へる一作。2015年作は来てない以上まだ観てゐないものが大半を占める中で、それでも当サイト的にはベストを今作で決定してしまつて構はないやうな思ひすらして来た。どちらかといはずとも一時的な気の迷ひの方が勝つてゐようところゆゑ、何か一本いゝ映画を観たらケロッと心変りするやも知れないけれど。


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