真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「さみしい未亡人 なぐさめの悶え」(2012/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本・出演:荒木太郎/原題:『新・新東京物語』)。荒木太郎、や、やらかしやがつたのか!?(※)
 石巻なのか富士五湖周辺なのか、居住地が絶妙に不鮮明な老女・唐橋ふく(稲葉良子)は、入院先の病院から退院、ではなく恐らく一週間の自宅帰宅。亡夫(野上正義)と、石巻で先立たれた消防士の次男・照美(不明)のスナップ傍ら年賀状を整理してゐたふくは、上京し子供達にあつて来ることを思ひたつ。ところで、後に語られる照美の死因は溺れる子供を助けての水死で、震災とは無関係、時期も3・11の更に二年前。一方、照美の未亡人で、未だ唐橋姓の涙子(愛田奈々)は生まれ育ちの東京に実家ではないが帰京、一人暮らししながら運送会社「カマト運輸」―クロブタカマトの宅急便だとよ、実に詰まらん―で働いてゐた。那波隆史は、含みを持つた視線を涙子に向ける「カマト運輸」社員・太田徹哉。「カマト運輸」アルバイト役のシャンプー&リンスといふのは、性別は男で、コンビの泡沫芸人。出入りの業者・生島慎介(野村貴浩)と、涙子はセフレのやうな関係を続けてゐた。事後求婚する生島を、涙子はドライにあしらふ。往来も憚らぬ二人の痴話喧嘩を、涙子の幼馴染・久米一京(久保田泰也)が目撃する。ここで絶望的なまでにどうでもよかないのが、髪型といひ肥え様といひ、まんまジミー大西な久保田泰也のヴィジュアル。飯岡聖英必殺の硬質のカメラを以てしても、画が一向に締まらない。
 ふくが最初に訪ねたのは、内科医ではなく税理士の長男・恭敬(荒木太郎)。佐々木基子は、多分この人も税理士の恭敬妻・真希。出し抜けに現れた母親を恭敬はストレートに持て余す夜、夜の営みを手短に突つ込む。共働きで忙しい恭敬宅に居心地の悪さを感じたふくは、続けて美容師ではなくフリーライターの長女・慶子(里見瑤子)の下へ。小林節彦は、婿入りしたのか主夫ポジションの慶子夫・伸一。隣室に食事中―箸はつけないのだが―のふくもゐるといふのに、慶子の求めで夫婦生活に強行突入。改めて後述するが、些かどころでは済まず粗雑に過ぎる。文字通り居た堪れなくなつた慶子宅も一時離脱、実はこの人も元々東京出身であつたふくは、幼馴染の源蔵(牧村耕治)・六輔(太田始)と旧交を温める。再び一方、逆恨みした生島が吹聴した悪評に乗じた―既婚者である―太田と、涙子の爛れた一戦経て、照美の月命日、墓前でふくと涙子は偶然の再会を果たす。居室に招かれ表札をみたふくが、涙子が唐橋家から籍を抜いてゐないのを初めて知り驚くといふのは、流石に不自然ではないのか。
 荒木太郎の2012年第二作は、前回よりも一層愚直な「東京物語」。本丸に攻め入る前にどうにもかうにも苦しいのは、進歩のない繰り返しになり恐縮ではあるが、骨太な稲葉良子の衣笠な面相。線の細い荒木太郎のリリシズムの中では、如何せん浮いてしまふきらひは否めない。その上で、予習段階での危惧を案の定裏切らず、ただでさへ六十分の短い尺に絡みも三人分見せなくてはならないピンク映画で、「東京物語」をほぼそのまゝやらかさうなどといふのは申し訳ないが荒木太郎には無理。長男・長女宅を老母がたらひ回るところまでは辛うじて形になつてゐるものの、業界で一二を争ふ演技巧者を擁してゐながら、佐々木基子と里見瑤子の濡れ場の性急さはグルッと一周して伝説級。二番手三番手の裸と「東京物語」とを秤にかけて、後者を選んだ節は酌めつつ、結果的には一匹の兎も捕まへられなかつた印象しか残らない。大所帯になればなるだけ池島ゆたかならば時に発揮する神通力も、友松直之一流の超高速大容量の情報戦も、酷だが何れも荒木太郎には望むべくもない。開巻付近で殊に顕著な、新田栄が神速を誇る手際の良さも。ふく上京前の序盤はそれなりに腰を据ゑて、恭敬宅と慶子宅を駆け抜ける中盤はガチャガチャ。ふくと涙子が顔を合はせる終盤に至つて本当に漸く、石巻(※)×「東京物語」×肉に直結した孤独といふ、リアルタイム・ピンクとして全く意欲的な主題が明確なものとなる。色んなものに正面戦を挑んだ荒木太郎の姿には、嫌ひな監督ではあれ思はずグッと来るものがある。ただあくまで蟷螂の斧は蟷螂の斧で、負け戦は負け戦。ただただ、それも承知の上での正面戦であるといふならば、その蛮勇は断固として買ふ。閑話休題、石巻×「東京物語」×涙子の孤独、頗る魅力的な三題噺とはいへ、物の見事に木端微塵、逆の意味で綺麗に纏まらない。肝心要での正しく致命傷は、荒木太郎以前に主演女優。荒木太郎前作にして初陣「美熟女の昼下がり ~もつと、みだらに~」に引き続きビリングのトップに座る―存在すれば、だが(※)―愛田奈々は依然、銀幕映えする美貌と反比例する覚束ない口跡が、清々しく上達の兆しを窺はせない。挙句にテーマ的にも相手役的にも下手な本格の中では、火に油を注いで際立つ。黙つてゐれば素晴らしいのに、口を開いた途端映画がズッコケるのは如何ともし難い。稲葉良子と愛田奈々をフュージョンさせる術を、どなたか御存知ないものか。正真正銘、史上最強のピンク女優が誕生するぞ。あるいは、いつそ潔くアテレコといふブレイブな選択肢に逃げるか。その道の達人・佐倉萌姐さんならば、きつとどうにかして下さる筈だ。荒木太郎の気持ちは判る、さりとて首を縦には振れぬ一作。但し、愛田奈々の裸だけはひとまづ満足出来る質・量見させる、量産型娯楽映画作家としてギリギリ最低限の誠意は、決して忘れるべきではない。

 ※ 本篇終了後のオーラス、津波被害からの復活を遂げた石巻のピンク映画専門館「石巻日活パール・シネマ」に心からの感謝を込める旨が、荒木太郎自身のナレーションにより謳はれる。パール・シネマの不屈は絶対に大賞賛に値するにせよ、映画本体を十全に仕上げる方が先ではないのかといふ荒木太郎への激しく相変らずな疑問に関しては、野暮な憎まれ口は一旦呑み込む。今回当サイトが小屋に入つたのが本作終盤からで、一回りしてラストまで二度目に観た際には、本篇が終つたところで上映も打ち切り。小倉名画座がパール・シネマに捧げられた賛辞を一切端折つてみせた非礼に対しても、場所が小奇麗なミニ・シアターでもなければこちらもシネフィルではなく、さういふ不誠実な姿勢をこゝは敢て問はない。くどいやうだが積極的には寛容ないし節度として、消極的にはリアリズムとして、ピンクスはハッテンを容認すべきではあるまいかといふのが持論である。何だお前、此処に映画観に来てるのかと開き直られてしまへば、腹は立つがそれまでだ。話を戻すと、仮に、パール・シネマ云々の更に後にエンド・クレジットが続いてゐた場合、何れにせよ私はそれを観てゐない。そして問題なのがもしも仮に万が一、パール・シネマ云々が確かにオーラスで後ろにクレジットは続かない場合、何と今作―タイトル直後の―荒木太郎以外のクレジットが存在しない
 因みにポスターから拾へる記述は、撮影&照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:桑島岳大/演出総括:金沢勇大/スチール:本田あきら/音楽:宮川透/録音:シネ・キャビン/協力:佐藤選人・上野オークラ劇場/現像:東映ラボ・テック。出演が愛田奈々・里見瑤子・佐々木基子・久保田泰也・荒木太郎・小林節彦・那波隆史・野村貴浩・稲葉良子・太田始・牧村耕治。耕次でなく牧村耕治は、あくまでポスターまゝ。

 付記< 恐らく小屋がクレジットをスッ飛ばしたらしく、ex.DMMに頼つてみたところ、普通に開巻直後のタイトル・インに続いてクレジットされてゐた。以下にそれを記すと、監督・脚本・出演:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:宮川透/助監督:桑島岳大/撮影助手:宇野寛之・宮原かおり/編集助手:鷹野朋子/演出助手:石井宜之/演出総括:金沢勇大/ポスター:本田あきら/協力:上野オークラ/応援:田中康文/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/タイミング:安斎公一/出演:愛田奈々・里見瑤子・佐々木基子・那波隆史・野村貴浩・牧村耕次・久保田泰也・太田始・小林節彦・稲葉良子、となる


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