真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「濡れ尻女将のねばり汁」(1997/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/出演・監督:荒木太郎/脚本:荒木太郎・内藤忠司/撮影:清水正二・飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:横井有紀/制作:小林徹也/ポスター:日高正信/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:田口あゆみ・槇原めぐみ・林由美香・木立雅隆・今泉浩一・内藤忠司・山口幸一・たかだたかしげ・小林徹也・野上正義)。制作と出演の小林徹哉ではなく徹也は、本篇クレジットまま。
 雨の和室を縁側から捉へて、ラジオのニュースはベルリンの壁崩壊。竜子(田口)が飲めない酒に酔つて帰宅した夫・実(今泉)に結婚の後悔を大胆告白しつつも、兎も角夫婦生活。後述する姦しさは、開巻のリプレイでもある、ここは十全に事後雨上がりの庭を噛ませてタイトル・イン。看板をこの上なく明示的に抜いた上で、ノッポ(山口)とデブ(たかだ)の二人組が御馴染み水上荘にプラッとやつて来る。固有名詞がよく聞き取れない番頭(木立)が旦那が死んだ喪中だといふのに勝手に上がり込んだ二人は、実の遺影の前で泣く竜子の姿を目撃する。一方、杉崎(野上)は度々水上荘に無言電話を入れる。凄いロングで橋を画面右から左に渡るキャラバン、真二は今は、マジックでビシッと引いたやうな眉毛が凄いやさぐれたセーラ服娘・愛(槇原)を白黒ショーの相方に旅を続けてゐた。どうスッ転んでもその距離だと見んぢやろといふ遠目で、愛が投身自殺しようとする杉崎を発見、到底間に合ひさうにも思へないが駆けつけ引き止める。僕達、白黒ショーやつてるんですとプリミティブな自己紹介をした真二に対し―演者二人きり裏方不在では―「それぢやショーにならねえぢやねえか」と、訳知り顔の杉崎はキャラバンに同乗する。
 配役残り内藤忠司は、元々ヤクザであつた杉崎とその情婦である竜子の美人局被弾氏。追はれた二人は水上荘に逃げ込み、怪我を負ひ高熱を発した竜子の身の安全を確保する為に杉崎は追手―追手とショーの客各四人は、背中しか映らない―を引きつけ一人で逃げ、以来離れ離れに。その後竜子と水上荘の若旦那である実の結婚を知つた杉崎は、竜子の幸せを思ひ身を引いたものだつた。白黒ショーのリハーサルと称して、要は愛を杉崎に寝取られた格好の真二が遥々帰京し会ひに行く花枝(林)の今回のポジションは、絵描き(登場せず)の家に住み込むモデル。
 薮から棒な荒木太郎のキャラバン野郎シリーズ特集第四戦、残り一本。今回真二と、前作の同じく二番手と役名は同じであるものの、見た目も造形も清々しく異なる愛との出会ひは端折り、杉崎と、実を間に挟む竜子の物語に主軸は置かれる。惚れた女の手前で逡巡するヤクザ者、といふ役を得た野上正義が抜群の渋味で最早何をいはせても決め台詞に聞こえる名演技を連打する傍ら、受ける田口あゆみの脂の乗りきつた色香にも全く遜色ないにも関らず、全体的な仕上がりはその癖然程強固ではない。入りが終始無造作ゆゑ、判り辛いとまではいはないにせよ量産型娯楽映画的には不親切の誹りも免れ得まい、おまけに堂々巡り気味にさして深化するでもない回想パートで不用意に尺を喰つた挙句に、杉崎が漸く水上荘に辿り着くのが土壇場も土壇場の五十分。といふ勿体ぶつたペース配分は、予め上映時間は一時間とプログラミングされたピンク映画にしては激しく如何なものか。そこからも更に含みばかり持たせた末に、雷雨に呼応して蛍光灯を頻繁に点滅させる演出が過剰で、女の裸の素直な鑑賞を妨げる姦しさも否めない締めの濡れ場が、最終的に達するに至らないとあつては重ねて如何なものか。締めが締まらぬでは締まらない、雨に濡れる庭を噛ませてクレジットが流れ始めた瞬間には、グルッと一周して驚いた。山口幸一とたかだたかしげが小林徹也と横井有紀を伴ひ再び水上荘を訪れる、オーラスで空中分解感の回避をギリギリ試みた節は酌めるともいへ。加へて、無理矢理会ひに行つたぶりが正直色濃い真二と花枝の件も些か疑問。とりあへずな事後何かあつたのと問はれた真二は、花枝と会つたらどうでもよくなつたよ。互ひに変らないことを確認した上で花枝は、今度会ふ時もこんな感じだといいね。下手に作り込んだ居室の舞台装置は平素の荒木調もとい荒木臭として、遣り取りが陳腐かつ、軟弱過ぎてシンプルに食傷する。第二作「ヒクヒクする女 ‐見られたい‐」(1996/北沢幸雄と共同脚本/主演:工藤翔子)を見ることが出来ないので最初か二度目なのかは一旦さて措き、キャラバン野郎が明確に躓いた第四作といへるのではなからうか。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )