真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「主婦の性 淫らな野外エッチ」(1999/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:内藤忠司/撮影:郷田有・横田彰司/編集:酒井正次/制作:小林徹哉・大高純/演出助手:田中康文/スチール:木下篤弘/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:伊藤清美・林由美香・奈賀毬子・田嶋謙一/友情出演:今泉浩一・太田始)。実際のビリングは、奈賀毬子と田嶋謙一の間に友情出演を挿む。
 二十日から一週間休業する旨の貼紙と、アロハな夫婦スナップ。家具屋店主の夫・晴彦(田嶋)に、妻・麻記(伊藤)が夜の営みのおねだり。翌日からの車旅行を控へ渋る晴彦を押し切り、無理矢理事に及ぶ。中途半端にじつとしてゐないカメラと、往来を往き来するヘッドライト―カーテン閉めなよ―を表して無闇に動く照明とが頂けなく落ち着かない。濡れ場は中途までで事後の麻記のトイレ、フローバックからタイトル・イン。いざ出発、麻記が店員の花枝(林)を招いてゐたことに、晴彦は動揺する。麻記は晴彦と花枝の浮気を疑ひ、決した雌雄に対しての対応は未定のままに、真偽を確かめるべく花枝を夫婦の旅行に噛ませたものだつた。ともあれ出発進行、ところが、三國峠の山崩れで国道412号が遮断(交通情報の主は荒木太郎)、目的地に至れない三人が急遽取れたのは、ツインの一部屋。何とも気まずい空気の中、花枝は晴彦が切らした煙草を買ひに物静かな修羅場を離脱、耐へかねるやうに晴彦も散歩に出かける。海岸で合流した花枝と晴彦は、雑木林にて淫らな野外エッチ。遅れて海岸に出た麻記が、その模様を目撃する。律儀に荒木調ならぬ荒木臭を叩いておくと、ここを始め要所要所で都合三度鳴る、拍子木別に要らんよね。テトラポッドにて茫然自失の麻記に、美沙(奈賀)が世界の終りて顔してたよと秀逸に声をかける。奈賀毬子が一流の持ちキャラで振り撒く、美沙のアバウトなポジティブさにアテられた麻記は、美沙と真二(荒木)の白黒ショーを観に行き、そこで今泉浩一と太田始の映画館ならぬテント痴漢に被弾する。
 見られるだけ五本全部見る、キャラバン野郎特集最終戦はシリーズ第六作。フィニッシュの、夫婦岩風な巨岩を後方に置いた砂浜での大胆な―撮影的には果敢な―夫婦生活を何となく覚えてゐるので、もしかしたら故福岡オークラで観てゐたかも知れない。家具屋夫婦の夫婦旅行に嫁が呼んだのは、旦那の浮気相手疑惑の匂ふ若い店員。キナ臭い一行が足止めされた先が、キャラバン野郎の駐屯地。案の定な不貞を目撃した嫁は、何だかんだな勢ひで白黒ショーの舞台に転がり込む。例によつて、話の大枠は面白い。二日目の朝、麻記が何気なく切り出した―大概な大事だが―白黒トークに、花枝が何気なくも激しく喰ひつくカットは緊張感が堪らない。尤もそこから花枝と真二のエンドレスに付かず離れずな巡り合ひに急旋回することなく、今回の主眼である夫婦物語から軸足が動かないのが、最大にして最後のチャンスを逃した瞬間か。結局マッタリかモッサリ腹を探り続けた挙句に、クライマックスのダイナミックな砂浜戦―完遂した対面座位のロングから、クレジットが流れ始めるオーラスは完璧―の勢ひは確かに有効に借りてゐるともいへ、最終的には何となくヨリを戻したに過ぎない麻記と晴彦の姿には、さしたる感動はない。二泊三日目の朝、三人はバラバラに。晴彦が一人車を走らせてゐると、麻記がヒッチハイク。再び助手席の麻記曰く「折角拾つた車が夫の車だつたなんて」だなどといふのは、お前は目を瞑つて車を拾はうとしたのかと麻記、ではなく荒木太郎―か内藤忠司―をそこに座らせたい気分。商業映画のシークエンス、あるいは観客を馬鹿にしてゐる。今作の白眉は、中盤のある意味枝葉。舞台の上の白黒ショーと、客席の今泉浩一と太田始に文字通り挟撃される麻記。後方で勃発したサプライズに、潤沢な人数のその他客(内藤忠司と小林徹哉は識別可能、若き田中康文を確認出来なかつたのが残念)がどちらを観たものかどよめく祭り感が、ピンク映画館の然るべき、ないしは幸運な理想の状態を超絶のクオリティで体現してゐて爆発的に素晴らしい。

 現状見ることも観ることも叶はない第二作「ヒクヒクする女 ‐見られたい‐」(1996/北沢幸雄と共同脚本/主演:工藤翔子)のことは一旦棚上げした上で、改めてキャラバン野郎シリーズ全九作の総括を試みる。当時隆盛の荒木太郎人気と永遠の林由美香愛の後押しも受けた、ピンク映画の中では規格外の純粋単独長期シリーズながら、今となつてみると個々の作品の評価としては第五作「女囚 いたづら性玩具」(1998/脚本:内藤忠司/主演:長曽我部蓉子)が突出してゐただけといふ印象も、個人的には強い。


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