真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「‐ファイナル・スキャンダル‐ 奥様はお固いのがお好き」(昭和58/製作:《株》にっかつ、《株》ニュー・センチュリー・プロデューサーズ/配給:株式会社にっかつ/監督:小沼勝/脚本:出倉宏・金子修介/プロデューサー:岡田裕《N・C・P》・中川好久《N・C・P》/企画:成田尚哉/企画協力:第一プロ・五月事務所/撮影:森勝/照明:内田勝成/録音:福島信雅/美術:渡辺平八郎/編集:山田真司/助監督: 金子修介/選曲:佐藤富士男/出演:五月みどり・岡本かおり・朝吹ケイト・天田俊明・青空はるお・久我太郎・原田悟・雨宮克治・五社亘・都築泰治・海保一秋・小山直良・野村宇一郎・橋本勝人・蛯原稔幸・田口克也、他若干名・アッパー8・森村陽子・笑福亭鶴光《友情出演》・赤塚不二夫《友情出演》・鹿内孝)。出演者中、他若干名と赤塚不二夫は本篇クレジットのみ。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”か。
 新宿の下町のスズヤ質屋、値上げされた家賃を払へなくなつた雨宮(ヒムセルフ)が、教科書を担保に金を借りに来る。雨宮の未経験を看て取つた女主人・鈴谷珠子(五月)は、童貞を質草に金を貸す。タイトル挿んで岡本かおり登場、静岡の兄から、お転婆娘を行儀見習でスズヤに寄こすといふ手紙を受け取つた珠子の夫・紳一郎(天田)がその危機を伝へに来たタイミングで、当の幸子(岡本)が現れる。幸子が苦手な紳一郎は、金にならない焼き物にうつゝを抜かす陶房に逃亡する。一方、質屋のほかに珠子がもうひとつ営むスズヤ学生寮。実は一人五十台であるのを鼻にかける五社(矢張りヒムセルフ)を除き、全員偏差値三十点台の久我・原田・都築・海保・小山・野村・橋本・蛯原(だから全員ヒムセルフ)の正しく動物的な姿に、幸子は「アニマルハウス・・・・」と秀逸に絶句する。更に幸子を驚かせたのは、お高くとまる五社以外の面々に珠子が日替りで身を任せる寮の夜。紳一郎に据ゑた膳も拒否られた幸子は居場所をなくし、珠子とスズヤの物件を狙ふ不動産屋・黒川(青空)に接近する。
 配役残り朝吹ケイトは、久我の彼女・今日子。三こすり半すらもたない超速の早漏に匙を投げ、久我の心を折る。鹿内孝は、珠子が土方と悶着を起こしてしまつた現場に、割つて入る男前の現場監督・津村。何時の間に距離を近めたのか独身者である津村のアパートを訪ねた珠子は、濡れ場がてらとんとん拍子に郷里に戻る津村と、BIG BOX―高田馬場―前で落ち合ふ段取りに。ラストはスズヤ学生寮出身者が集ふその名も「珠子会」、赤塚不二夫は開会の辞を務める当然ヒムセルフで、多分田口克也がそこに幸子が連れて来る彼氏のヒムセルフ。森村陽子を見付けられないのは、素直に認めるけど俺の限界。
 小沼勝昭和58年最終第四作、タイトルにこそその名の冠されぬものの、紛ふことなき五月みどりの看板映画。開巻早々、単なる初見も伴ふ認識の欠如でしかないのだが驚かされたのは、愛染恭子やイヴちやんや小林ひとみといつた女優部御大勢とは正しく役者が違ふ、五月みどり抜群の安定感。抜群といつたところで比べる相手がよくないのか悪いのかよく判らない次第で、要は世間的一般的標準的な安定感といつてしまへば、それまでの話でしかない。山本晋也ほどハチャメチャではない未亡人―でもない―下宿の騒々しい日々が、定番の地上げ危機や、深い仲になる件は割愛しつつ藪から棒な珠子と津村の駆け落ちも絡め賑々しく描かれる。割愛だ藪から棒だといつてみたが、実はこの点絶妙に覚束ない。それなりに楽しんで観てゐたので僅かたりとてまんじりともしてゐないに関らず、今回前田有楽に於いて私はツルーカス監督役で出て来るらしい笑福亭鶴光と、明確に二人組で出て来る筈なお笑ひコンビのアッパー8にお目にかゝつてゐない。特段の違和感を感じる箇所は見当たらなかつたが、どうもプリントが結構派手にスッ飛んでゐるものと思はれる。全体的な仕上がりとしては世間的一般的標準的な娯楽映画といつてしまへば、それまでの話でしかないともいへ、BIG BOX表から驚愕のカメラワークで回り込むのは流石に無理にせよ、裏手からグワーッとパンするとゴミゴミした中に突き立つた煙突。そこから今度はグッと縦移動すると自殺騒動を仕出かした久我と、久我を助けに向かふ珠子といふダイナミックなカットはロマンポルノならではのスケール感。それと珠子会のフィナーレにて、五月みどりが堂々と―撮影時没時の年齢も遠く通り越した―マリリン・モンローに扮してみせるのは豪快な御愛嬌。そこそこ以上のクオリティであることと、モンローに対して何の思ひ入れもないこともあり、個人的にはやりやがつた程度に微笑ましく眺めてゐられつつ、当時マリリン畑では五月みどりのモンロー気取りは如何に受け取られてゐたのであらうか。


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