真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美熟女 好きもの色情狂」(2013/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/助監督:奥村裕介/音楽:與語一平/監督助手:笹原聡/撮影助手:酒村多緒/スチール:阿部真也/現像:東映ラボ・テック/出演:結城みさ・酒井あずさ・菅野いちは・倖田李梨・津田篤・岡田智宏・毘舎利敬・岩谷健司・石川雄也)。出演者中、津田篤は本篇クレジットのみ。
 タイトル開巻、適宜妄想も織り込みつつ大胆に移動する時制をザックリ整理すると、短大卒事務職の早乙女千香(結城)は不倫相手の岡本健一もとい岡本健司(もしかして本当は健二?/岡田智宏)に、岡本の離婚を前提としての結婚までは一切の肉体関係を拒んでゐた。とはいへそれは、最終的に割れる底を考へると不用意に思へなくもない派手な猫かぶり。実際の千香は毎日定時に退けるや金髪ウィッグを装着した上で、奔放な男漁りに勤しんでゐた。といふことは逆に、岡本と会ふ日は休肝日ならぬ休マン日となる寸法。粉微塵に爆裂すればいいのにな、俺。閑話休題けふもけふとて、千香が成田昭次と音は変らないのに字面は全く別の名前に見える鳴田勝治(岩谷)に跨るところに、岡本から電話が入る。慌てて家に戻つた千香がホテルに忘れて来てしまつた財布を、鳴田がノコノコ届けに来宅。OLの制服を着てのセクシー写真を撮らせろ撮らせないで揉めてゐる内に、後頭部を強打した鳴田は何と御臨終。頭を抱へた千香に助けを求められた友人の、こちらは判りにくい旧メンバーから遠藤直人改め遠藤直美(酒井)はてんで緊迫感を欠いた末に、パート先同僚の祖父にしてマーとかウーしか言葉を発しない、前田耕陽からど真ん中を驀進する前田陽光(毘舎利)を招聘、火に油を注ぐ。ここで、改めて振り返ると酒井あずさは加藤義一の監督デビュー十周年記念作「どスケベ検査 ナース爆乳責め」(2012/脚本:小松公典/主演:あずみ恋)のカメオ以来、三本柱だと目下2010年代最強の最高傑作「あぶない美乳 悩殺ヒッチハイク」(2011/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏/主演:みづなれい)以来。個人的には意外、何時の間にやらえらく御無沙汰だつたんだな。それと、若作りながら岡田智宏は流石に、少々体が緩んで来た。
 配役残り菅野いちはと石川雄也は、空家の筈と千香が高を括る隣室に、越して来てた訳アリらしいカップル。こちらも旧メンバーから土田一徳ならぬ槌田徳子と、一方こちらは近さうで印象的には何となく遠い高橋一也ならぬ橋一成。とかいふ次第で、千香以外の主要登場人物は、何故だかこの期に及んで男闘呼組の各人を捩つた名前がつけられてゐる、胸に愛を刻むぜ。倖田李梨と津田篤は、直美が見たがるメロドラマの出演者と、陽光爺さんが見たがるエクササイズ番組の出演者。勿論後者の場合倖田李梨がインストラクターで、エクサ番組には小松公典も参戦。画面の奥のテレビ画面の中で、無駄に頓珍漢に見切れてる小松公典は凄え面白い。
 上野封切り三ヶ月と経たず九州着弾した第一作「野外プレイ 覗きの濡れ場」(主演:吉瀬リナ)に対し、随分間が空いた―先々月先に小倉に来てはゐる―三ヶ月後の竹洞哲也2013年第二作。倖田李梨と津田篤のメロドラマ―それも僅か数カットだ―を除けばカメラがベランダから屋外に出ない、ラブホや隣家に寄り道しなくもないものの、概ね千香の居室を舞台に進行するブラックなシチュエーション・コメディ。一つでも大概厄介な死体が、濡れ場が開けた途端いきなり三つに増える展開は確かにサプライズが輝いた。そこから揃ひのアイ♡ロンT込みで、三番手の絡みを片付ける流れも秀逸。とはいへ主に徳子に下駄を任せた、ただでさへ短い尺も顧みず長々と玄関口にてああだかうだする攻防戦でみるみる低速。結局例によつて枝葉ばかりを繁らせた挙句、星に願ひを真面目にかけすらせず捨てて、全てを丸投げして済ます結末には呆然とした。どうやら確信犯的に採用した姿勢らしいが、何れにせよ当方怠惰な観客につき、そのやうな魚を途中までしか捌かずに、あとはシャリの仕込み含め手前で握れといふが如き代物は頂けない。拡げた風呂敷を如何に畳むかに関する論理と技術をこそ、量産型娯楽映画に於いて最も肝要な幹の部分と尊ぶ立場である。ただ一点、といふか正確には二点。前田有楽劇場―大改善を果たした小倉名画座にせよ―の音響は断じて悪くないにも関らず、ドッキリとアルミホイルの件が、台詞がガチャついてよく判らなかつた。神を宿し損ねた細部で勝負する類の一篇を観るに際しては、些か心を残さぬでもない。


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