真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 イクまで動いて!」(1993『痴漢電車 あなたとイキたい!』の1998年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:河中金美・田中譲二・難波俊三/照明:秋山和夫・上妻敏厚/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:女池充/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:酒井智恵子/スチール:岡崎一隆/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:広瀬由夏・中島あずさ・本田華奈子・祇樹優可・芳田正浩・平賀勘一・山本竜二)。
 男と女が誰と誰なのか最終的に判らない判らせない、没個性的な電車痴漢にて開巻。クレジットを消化したところでパンストを下ろし、パンティ越しに本丸攻略を始めた中途半端なタイミングでタイトル・イン。結果論からいふとキレを欠いたアバンタイトルに、以降の雌雄が透けて見えるともいへる。
 判り易く旅行帰り風にスーツケースを引いた理穂(広瀬)が、憮然とした風情で帰京。童貞でAVオタクの―あくまで推定―正確には“元”新郎・伸一(芳田)の、身勝手で頓珍漢なプレイに臍を曲げ成田離婚した理穂は、その足で元々不倫相手の石原(平賀)の下へ。石原の熟練したテクニックを満喫する、回想込みの二連戦を華麗に披露。一方、呆然と電車に揺られる伸一は、ハンチングを渋くキメた山本竜二が、祇樹優可に痴漢する現場に遭遇。意を決して追ひ駆けたゴロー(山本)を捕まへた伸一は強引に師事を志願、当然困惑し固辞するゴローに傍目も憚らぬ土下座を敢行、渋々首を縦に振らせる。
 後述するが全ては片付けきれない配役残り、中島あずさと本田華奈子は、石原の細君と、ゴローの指のファンで伸一の練習台にと招聘されるナミちやん。ビリング推定で行くと多分中島あずさが石原細君で本田華奈子がナミちやんではないかと思はれるのだが、ここも特定出来ない。
 旦々舎にしてはあちこち珍しい、1993年浜野佐知痴漢電車。自己中心的な幼い初夜で、婚姻届に捺した判も乾かぬ内に、新妻に逃げられた男が指戯に長けた痴漢師に弟子入り。女と、女を自分から奪つた男への報復を画策する。徹頭徹尾自己中心的な伸一が正直感情移入には難い主人公で、理穂はといへば優しく愛して欲しいだなどと平板な性交観を振り回すほかは、石原との不倫関係を漫然と愉しむばかり。浜野佐知映画らしいアクティブでラディカルなヒロイン像といふよりは、裸映画にお誂へ向きな単なるセックス好きの女に過ぎない。対話でありコミニュケーションであるとする痴漢哲学―大概な方便でしかないが―を披露し、ハードボイルドな求道者としての相を窺はせるゴローも、ナミの登場に伴ひ何時もの山竜に落ち着いてしまふ。何より問題なのは、仕方なく伸一を従へたゴローに軽く責められる、クレジットにも等閑視される正体不明の五番手が一体誰なんだ、といふ神を宿さぬ瑣末では勿論なく。伸一の告発電話を受け旦那の浮気を知つた石原妻が、濡れ場込みで伸一に被害者同士の共同戦線を持ちかける。そこまでは大胆で魅力的な展開を巡らせておいて、理穂を電車の中で陥落させ一泡噴かせてやりたい。ゴローが呆れるのも当然な観客目線でもどうしやうもない目的で動く伸一と、理穂が電車痴漢を通してまさかの普通にヨリを戻した挙句に、石原家騒動に関しては綺麗に丸投げした放置もしくは放棄で済ます。ルーズ極まりないラストには、旦々舎がこんな真似を仕出かすのかとグルッと一周して驚かされた。但し石原家の物件は旦々舎につき、それでもどうしても旦々舎だ。


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