真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「黒い団地妻 妊娠したい入居者」(2013/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:山内大輔/企画:亀井戸粋人《エクセスフィルム》・団清志《ダンディフィルム》/プロデューサー:伍代俊介《エクセスフィルム》・草刈一夫《ダンディフィルム》/撮影監督:創優和/撮影助手:知久紘子・小松麻美/助監督:小山悟/監督助手:江尻大/協力:笠島徳竜/編集:有馬潜/音楽:山内大輔/出演:寺崎泉・永井智美・篠田あさみ・竹本泰志・佐藤良洋・ほたる)。
 久野浩一(竹本)と、ミチルといふ名の中年らしい女の不倫の逢瀬。“らしい”といふのは、諸々引つ包めて不倫の相手は熟女に限るとする、浩一の実も蓋もない述懐に従ふ。騎乗位を背中から狙ふアングル乃至は長い髪に隠され、ミチルの顔は見えない。事後、レコーダーに仕込んだ街頭のSEも持ち出して女房にアリバイ偽装の電話を入れた浩一は、薄つぺらい手切れ金を手渡し、ミチルとの二年続いた関係にサクッと終止符を打つ。ホテルを出て、事前にカミさんとは今夜は徹夜仕事と話をつけた上で今度はマリコなる別の女に電話をかける浩一に対し、独り部屋に取り残されたミチルは嘔吐する。ここまで十分、未だ面を割らないミチルの右腰に薔薇の鍵を落としてタイトル・イン。
 夜の開巻からケロッと一転、日差しの強さを感じさせる白昼。浩一の妻・怜子(寺崎)が、冷凍イカの土産物をキャリーバッグに引き北海道旅行から戻つて来る。その頃浩一はといふと、ボロッボロの外観と小奇麗な内装とが別物件疑惑も拭へない団地の自宅にて、ほたると昼下りの情事の真最中。居留守を使はれる配達員は、江尻大。碌にどころか一切本人確認しやしない江尻配達員から、階段口でわくわく健康生活の荷物を受け取つた怜子は、郵便受けから鍵を探り濡れ場ならぬ修羅場に突入。こんなこと―亭主の不貞―もあらうかと帰りを一日早めたと、オッソロシイ形相で浩一をイカで強打する。泡を噴いて悶絶した浩一は、カット明けると佐々木基子の因果が報ひたのか憐れ車椅子に乗せられ涎を垂れ流す廃人に。その状態でも棹は勃つのかはたまた淫具か、その点の明確な説明はなかつたやうにうろ覚える―怜子が妊娠を希望するのをみるに、どうやら勃つらしい>再見時の付記―が、浩一を甲斐甲斐しく世話しつつ、車椅子ごと跨り激しく気をやるドス黒く爛れた日々を送る怜子は、加工した吐息が薄気味悪く流れて来る迷惑電話と、家中に漂ふ呪怨音とに悩まされる。そんなある日久野家の隣室に、一頻り面相は見せないが髪形で年齢を偽装する、怜子と同年代の長谷川由衣(永井)が越して来る。
 配役残り篠田あさみは、販売方法に清々しく問題のある高額化粧品の訪問販売人・向井柚月。純然たるピンク映画は愛染塾長の「平成未亡人下宿 痴漢みだら指」(2006/主演:天衣みつ)以来、エクセス初参戦の佐藤良洋は、由衣宅を度々訪ねる三流ホストのツバメ・准一。今作唯一抜けてゐる気がするのは、怜子と由衣、仕事をしてゐる風にも見えない割には普通―あるいは以上―に暮らす、二人の女の経済状況に関して地に足が着かない。
 何やら次の矢は何と清水大敬らしいが、セカンドバージンの超絶で幕を開いた2013逆襲のエクセス第三作は、三年ぶりの「スナック桃子 同衾の宿」(主演:山吹瞳)から今度は僅か一月半といふ、プログラム・ピクチャー全盛期ばりの速さで再び飛び込んで来る山内大輔。いきなりといふのもおかしな話だが躓いたのが、尺は七十五分あると聞いてゐたものの、前田有楽劇場に於ける実尺は七十分程度といふミステリー。かといつて飛びます、飛びますした印象は特にどころでもなく受けなかつたにせよ、確かにこの辺りが小屋本戦最大のネックといへようか。さて措きといふか仕方がないのでとでもいふべきか、兎も角観た映画本体に話を戻すと、ほたる(ex.葉月螢)は一応留保する形で除くとして、絵に描いたやうに善人が全ッ然出て来ないストレートに歪んだ作中世間の中、十八番のバッド・テイストを粛々と積み重ねた果てに、鮮やかな一ネタを振り抜きシャープに映画を切り抜ける。伏線を周到に巡らせる語り口は終始丹精で、この期に及んでマメな迷惑電話に激昂した怜子が気の利いた声を荒げるラストから、カッコいいギターリフとともに大クレジットを叩き込むエンディングはスパッと決まる。尤も、ミス・リーディングに釣られなければ黒い団地妻の主ベクトルを立体的に膨らませる手数には欠くだけに、Vシネ展開との兼合も込みでの七十五分なり七十分といふ長尺に比しては、アッサリとした印象も受けた。勢ひ余ると驚愕の五十分に絞り込む深町章を見習へとまではいはないが、デフォルトの六十分に納めた方が、より確かな鮮烈を残せたのではないかとも素人考へる。もう一点締めのキレを減じたと思へたのが、色恋沙汰貞子の死屍累々と比較するのはお門違ひにせよ、今回の不殺は逆に不自然に映る。要は、先鋒にセカンドバージンをやられてしまつては、後に続く者は如何せん分が悪いといふことか。

 前作まさかの二番手不脱に続き、今回も山内大輔が何気なく放る危険球。決してNGといふ訳ではないにも関らず、女優部の中で一番若い女が脱がない。


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