真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「人妻の秘密 覗き覗かれ」(2004/製作:小川企画プロダクション/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典・竹洞哲也/プロデューサー:小川欽也/原題:『PEEP SHOW』/撮影:創優和/照明:野田友行/助監督:山口大輔/編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/監督助手:佐藤竜憲・芦澤潤/撮影助手:原伸也/照明助手:金谷健児・吉田雄三/音楽:藤田満/スチール:佐藤初太郎/ヘアメイク:高野雄一/現像:東映ラボテック/協力:三和出版・es dream company・Bar spike・加藤映像工房・青柳透・今村昌平・岩田有司・内山太郎・丘尚輝・神谷一青・獅子丸・武大輔・中尾美奈子・中村太一・西田和人・林大造・兵頭未来洋・松田正信・横井有紀/出演:吉沢明歩・華沢レモン・風間今日子・沢賀名・坂入正三・なかみつせいじ・柳東史・岡田智宏・サーモン鮭山・牧村耕次・竹本泰志)。劇中登場するマンガ原稿と、エンド・クレジットを飾るイラストの主が不明。
 新人レディースコミックマンガ家・高橋千影(吉沢)が、持ち込んだマンガを編集者の下川誠(牧村)に酷評される。幾ら何でも斯くも紙に埋もれてゐるのかといふ編集部が、協力の三和出版で撮影。雑然を通り越し、最早騒然とでもいつた趣だ。地震が起これば一発で壊滅するし、火事にでもなつた日には、それは壮絶によく燃えるにさうゐない。下川は千影に女としての魅力と、体験の不足とを指摘する。確かに千影は金髪パンクの彼氏・諏訪昌吾(岡田)とのセックスでは未だ“アクメの花園”を知らなかつたが、そこに現れる売れつ子作家・大林仁美役の沢賀名―さわが・めい―の方が吉沢明歩よりもセックス・アピールに長けてゐるなどといふ下川の琴線のチューニングに関しては、人それぞれとはいへど、正直首を傾げざるを得ない。一応デビューはしたものの未だマンガだけでは食へない千影は、清掃員のバイトをしてゐた。仕事を終へ帰らうかとしてゐた千影は、ガテン系の社長(柳)に無理矢理留守番を押しつけられる。仕方なく千影が時間潰しにネーム帳を取り出したところに、先輩清掃員の鴨田龍平(竹本)が戻つて来る。今度は鴨田に留守番を押しつけてしまへと慌ただしく立ち去らうとした千影は、一旦は見せろといふのを拒んだネーム帳を落として来る。ネーム帳に目を通し、的を得てゐるのか適当なのか矢張り経験不足を指摘した鴨田は、千影を誘(いざな)ふ。常時持参する小トランクに各種道具を詰め込んだ鴨田は、覗きと盗撮の常習犯だつた。鴨田は千影に様々なターゲットの、色々な情事を見せる。
 華沢レモンは、千影の親友で結婚三年目の人妻・森谷由季。回想パートのみ登場の風間今日子は、鴨田先輩の未亡人・木村敏江。鴨田がクマさんの縫ひぐるみに仕込みセッティングしたカメラの前で敏江が戯れる、素性は全く語られない相手とのテレフォン・セックス。椅子に座り自慰に溺れる敏江を足下から狙ふ構図が、とんでもなくダイナミックかつ扇情的。どうしても濡れ場が綺麗に、可愛らしくなりがちな吉沢明歩に対して、格と馬力の違ひを風間今日子が見せつける。サーモン鮭山は、公園にて露出プレイに興じる由季の不倫相手・桐山宗太。柳東史が、由季と桐山の野外プレイを、冷やかしに現れるホームレスで再登場。坂入正三は、冒頭編集部に出入りする支那人風味の出前持ち。なかみつせいじは、千影行きつけのバーにしては騒がし過ぎる店のバーテン。カウンターにお替りを貰ひに来る丘尚輝は楽勝で確認出来る一方、ここで松浦祐也も、フロアで尻を出して踊つてゐる男―何だそりや―でクレジットは無いまゝに見切れてゐるらしいが、その件の画面全体が暗いのと、プロジェク太上映による画質の切なさとに阻まれ確認出来ず。
 ヒロインが熟練マニアの指南を受け、女とエロマンガ家の両方向に開花する。竹洞哲也のデビュー作は、さういふ如何にもピンク映画らしい物語を一見あまりにも気負ひを感じさせずに、うつかりすると右から左に流れ過ぎて行きかねない淀みなさで観させる。ところが、とはいへ流石といふべきか。中盤から終盤にかけてのさりげなくも映画の勘所の押さへ具合には、竹洞哲也も小松公典も、以降の快進撃を大いに予感させる力強い輝きを放つ。“二面性”といふキー・ワードは文言だけでさほど活きて来る訳ではないが、ひたむきな千影の姿を前に、鴨田の視線が次第に変化する様子は青春映画の鉄板演出として強い力を持つ。可愛いのは確かに間違ひなく可愛い反面、如何せんお芝居が軽い吉沢明歩を個々の一幕一幕のみならず、展開全体でリードする竹本泰志が頼もしい。鴨田の視点の変化が地味ながら確かなエモーションを喚起するのと同時に、全く意外であつた、ラストの爽やかな一オチに果たす帰結の磐石さも素晴らしい。締めの濡れ場もそこに主演女優の濡れ場があることと、それが主演女優の濡れ場であること両面に超絶の蓋然性を誇る。なほかつ、単なる肉の交はりを描くに止(とど)まらず、肉の交はりを描きつつそれを全く損なふでなく挿み込まれる変則的な状況を説明する描写が、絡み合ふ千影が流す目線も鴨田の正しく凝視も、クライマックスに相応しい映画的緊張度を湛へる。己の節穴を悪びれもせず率直にいへば、五年ぶりに再見したラスト・スパートの麗しい竹洞哲也の初陣は、初陣にして既にここまでの完成度に達してゐたのかと、驚かされすらした一作であつた。

 とこ、ろで。松浦祐也のブログの中に、今作に触れて“カメラマン紀野氏”なる記述が見られる。と、なると。清水正二が志賀葉一と同一人物であるのと同様、創優和といふのは、紀野正人の変名なのであらう。


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