真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「令嬢美姉妹 肉の宴」(2004『令嬢姉妹飼育』の2008年旧作改題版/製作:株式会社マックス・エー、新東宝映画株式会社/配給:新東宝映画/監督:廣田幹夫/脚本:高木裕治/企画:石井渉・福俵満/プロデューサー:黒須功/助監督:白石和彌/撮影:下元哲/照明:高田宝重/録音:福島音響/編集:大永昌弘・佐藤崇/演出助手:井上亮太/撮影助手:海津真也/照明助手:南部智則/ヘア・メイク:清水美穂/ネガ編集:三陽編集室/スチール:池田岳史/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/制作協力:黒須映像工業/出演:阿当真子・河井紀子・羽村英・中村美睦・もてぎ弘二・山村龍)。
 人里離れた山中の屋敷に執事と住む、楠木家の令嬢姉妹。残りの家族の、消息は不明。姉・麻美(河井)と執事の田所弘道(中村)は男女の仲にあり、二人の情事を壁に開いたか開けた穴から覗き見ては、姉の隣室で処女の妹・詩織(阿当)は自慰に耽つた。撮り辛からうといふのは判らぬでもないが、寂しく悶え狂ふ詩織の体と、壁の穴とが爽やかに離れ過ぎてはゐるのだが。鍵となさしめようつもりなのか、以降に於いても蒸し返される詩織のモノローグ「歪んだものも歪んだ眼《まなこ》を通せば、何でもないものに見えるのでせうか」。一方、組の金三千万を奪ひ逃亡した男が。男は兄貴分とその舎弟に追はれ、辛うじて一旦は逃げおほせるものの、深手を負ふ。散歩中の詩織は、白花を握り締め雪中に行き倒れた男・梶原太(羽村)と遭遇する。梶原を連れ帰り介抱しようとする詩織に対し、血まみれであからさまな事件性に麻美と田所は当然の異議を唱へかけるが、ひとまづは詩織の思ふまゝに。仮にどれだけ深窓の御令嬢が世間を知らないとしても、ここの無理は、決して十全に超えられてゐるとはいへない。買ひ物に出た田所が里に下りた隙に乗じて、驚異的な回復を見せる梶原は姉妹を拘束すると、姉の懇願に従ひひとまづは放置した詩織の眼前で、麻美を陵辱する。帰宅した田所にバールで滅多打ちにされ撃退されつつ、化け物なのか梶原は即座に返り討つ。田所の死体を庭に埋めた梶原は屋敷と、姉妹とを支配することを宣言する。
 大雑把に片付けてしまふならば、人情といふ奴はえてしてそんなものでもあるのかよく判らないが、犯人に転んでしまふ人質もの。概ね丁寧な撮り映えと、執事といふよりは安手の飲食業にでもしか見えない中村美睦を除いては、そこそこ役者も揃つてはゐる。尤も、肝心要のヒロインたる詩織の描き込みが如何せん不十分で、最終的には大いなる喰ひ足りなさを残す。処女特権で妹に対する加虐が一旦免除された中、中盤まで濡れ場の主軸を一手に引き受ける麻美には、最期のアクションまで含めそれなりに見せ場にも恵まれてゐるのだが、対して詩織に関してがどうにも弱い。姉に対する嫉妬なり憎悪なりが縦糸として明確に通されてでもゐれば、梶原といふいはば外部からの力に惹かれることも、やがては結ばれるに至る点にも説得力を持ち得てゐたところなのかも知れないが、必ずしも、さういふ訳でもない。ホンや演出の不備を乗り越える頑丈な演技力を、阿当真子―合沢萌の旧名義―に望むべくもなからう。基本的に笑ふか黙るか喘ぐかの三つしか表情のバリエーションを持ち合はせず、加へて今作に於ける詩織の役柄では、概ね笑ふことすらない。言葉だけで繰り返され、オーラスにも持ち出される“歪み”についても、まるで実感させては呉れない。といふか、特に歪んでなどゐない。全般的に小奇麗であるとはいへ、世界を歪めてみせるまでの力を有してなどゐない。河井紀子に阿当真子と、姉妹には見えないがツー・トップは綺麗どころを押さへてはゐるだけに、変にカッコをつけてみせたりなどせずに、カメラだけではなく、メガホンまで下元哲に委ねた潔い実用性への一点突破に徹した形で観たかつたものでもある。その際は、いつそのことエクセスで。
 もてぎ弘二と山村龍は、終に楠木邸にも乗り込んで来る、梶原の兄貴分・安藤正司と、その舎弟・稲葉充。特に稲葉は、よしんば残つたものにせよ、雪も積もる季節の割にはジャージにTシャツと、恐ろしく服装が軽いのが奇異に映る。

 二本撮りされ2004年当時には一月強遅れで公開された続篇の「令嬢姉妹飼育2 性奴隷」も、今新版公開の二ヶ月後に、矢張り「続・令嬢美姉妹 凄まじい淫慾」と旧作改題されてゐる。
 出演者としてポスターの一番最後に記載のある紺野智史は、本篇クレジットには見られず、劇中該当しさうな登場人物も見当たらない。因みに紺野智史は、もてぎ弘二と同じ事務所所属ではある。


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