真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「桃色仁義 姐御の白い肌」(2006/協力:静活・佐藤選人/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督:荒木太郎/脚本:三上紗恵子・荒木太郎/撮影・照明:長谷川卓也/編集:酒井正次/助監督:金沢勇大・三上紗恵子/タイミング:安斎公一/出演:美咲ゆりあ・華沢レモン・淡島小鞠・大久保了・縄文人・桂健太郎・安田憲明・静活ファンの皆様・滝川鯉之助・竹本泰志)。例によつて荒木太郎は、いい加減放棄してしまへばいい自主映画臭に何時までも固執してみせる。ただでさへいい加減な手書きを床に並べたものを、カメラがぞんざいに舐めるクレジットは更に瞬間的で、観客にキチンと見せようといふ意思が全く見受けられない。PG誌公式サイトの新作ピンク映画紹介を頼れない―後注する―今、これが限界である。因みに何故か協力クレジットが先頭に来るのは、本篇に従ふ。
 妹ものの前作に引き続けたのか、今回は姉もの。といつて姉と弟の近親相姦シークエンスなどは―姉が、隣の布団に弟が起きてゐるにも関らず堂々と自慰に耽る以外には―ほぼ全くなく、“姉もの”といふよりはどちらかといはなくとも“姐もの”、要はなんちやつて極妻である。
 2001年の薔薇族映画―につき勿論未見―「ポリス」(脚本:吉行由実)から始まり、同年の「初恋不倫 乳首から愛して」(脚本:吉行由実/長野ニュー商工)、「年上の女 博多美人の恥ぢらひ」(2002/脚本:吉行由実/福岡オークラ劇場)、「美乳暴行 ひわいな裸身」(2003/脚本:荒木太郎/福岡オークラ劇場)、「美肌家政婦 指責め濡らして」(2004/脚本:吉行由実/長野ニュー商工)に続く二年ぶり六作目となる、荒木太郎による全国小屋ロケ行脚御当地映画シリーズである。今作の舞台は、「ポリス」と同じく静岡。静活といふ興行会社は、一般映画の小屋もピンクの小屋も両方持つてゐるやうなので確かなことはいへないが、ロケ地として使用されたのは恐らくピンク映画上映館の静岡小劇場か。とはいへ、主人公の実家が映画館で、初恋相手は映画監督を志望するも現在は配給会社の営業マン、といふ設定の「初恋不倫 乳首から愛して」や、主人公が引退した伝説のピンク女優といふところから物語が始まる「年上の女 博多美人の恥ぢらひ」とは異なり、今作は偶々映画館の地下にヤクザのアジトがある、といふだけで、かういつては何だがわざわざ小屋を舞台にロケする必然性はほぼない。因みに「美乳暴行 ひわいな裸身」では、主人公が白黒ショーで陵辱される舞台に、定期的にヤングショーが開かれても、ゐたオークラ1―福岡オークラには1と2二枚のスクリーンがあり、1が薔薇族映画、2でピンクを上映、してゐた―の舞台を使用。因みに仕方がないので又どうでもいい与太を吹くと、劇中映写機が回るシーンは、プロダクション鷹カンパニー・ロゴのバンクである   >凄え大嘘
 内藤組との抗争に破れた、金杉組の金杉護(竹本)と辰子(竜子かも?/美咲ゆりあ)は、組を失ひ街を捨てようとしてゐたところを、内藤組の構成員(大久保了と安田憲明)に捕まつてしまふ。二人は、内藤組に借金を残してゐた。そのまま引き離された二人は、護はマグロ漁船に乗せられ、辰子は幹部(あるいは組長?/縄文人)も交へた三人から陵辱、無理矢理借金を体で返させられる羽目に。二年後、借金も完済した辰子は、内藤組からまるでゴミでも放り捨てるかのやうに解放される。道路に倒れたままの辰子の下に―多呂プロ所有の―ハイジェットで通りかかつたのは、引きこもつてゐた辰子の弟・純太(順太?/桂健太郎)。純太は親から厄介払ひされ、車は餞別代りだつた。辰子は、車で純太とテキ屋を始めることを思ひたつ。
 淡島小鞠―しつこいが共同脚本の三上紗恵子と同一人物―は、純太が想ひを寄せる八重。純太が八重に手紙を渡しに行く件は、一体何を考へたら、あるいは何も考へないからこそ、かういふいい加減なシークエンスが撮れるのか。前に小さな広場の広がる、縁側だか舞台だかで―よく判らない説明だが、実際によく判らないロケーションなのだ―八重がニンジンを齧る。そもそもそのキャラクター造型から、相も変らずのあざとさがどうかとは思ふが、際限がないのでひとまづさて措く。そんな八重の姿を、純太と辰子が車の中から右前方に覗いてゐる。そのまま純太は勢ひよく車から飛び出すと、画面右から左に橋を渡り、前に通る小道を左に折れると広場を通り抜け八重の下へ。車中より覗くところから、全然画が繋がらねえよ!荒木太郎は完全に観客を馬鹿にしてゐるのか?純太は八重に手紙を渡すと、直ぐに又来た道を逆に辿つて車に。以降は、八重と彼氏(?/滝川鯉之助)の濡れ場。さて、ここも元通り以上に後退した何時もの荒木太郎。セーラ服のまま、八重が男のモノを含む、いい画である。さあさ観客の皆さん、どうぞここで勃起して下さい!といふのが、あるべきピンク映画の姿であらう。ところがカメラが上にパンすると、何でまたそこで男が三味線弾いてるかなあ・・・・・、興が醒める。絡みに余計な、瑣末な作家性なんぞ消極的にではなく積極的に不要だといふことを、どうして荒木太郎はこの期に理解出来ないのであらうか。事後、滝川鯉之助は尋ねる「さつきの、誰?」、「初恋の人・・・・」。それまではワイルドに、がさつに描かれてゐた八重が伏目がちにしをらしく答へ、ておいてレモンをガブリ。だから、そこのレモンも要らんぢやろ、何で場面場面をおとなしく着地させられない。リズムが乱されるばかりで、観客のエモーションが一々寸断させられる。いはゆる荒木節、当サイト断罪するところの荒木臭は百害あつて一利ない、やうにしか個人的には思へない。
 安田憲明に追はれてゐたナナ(華沢)を助けた姉弟は、車を修理する金を奪ふべく、偶々小屋の地下にある内藤組―荒木太郎は内藤忠司と喧嘩別れでもしたのか?―の賭場を襲ふ。とはいへ襲ふのは辰子一人、純太とナナは仲良く観客席で映画鑑賞。映画を観ながらナナが純太に接近し、客席で尺八を吹くカットは普通に撮られてあり素晴らしい。

 ここで、一応お断り申し上げる。出来の頗る悪いラスト・シーンまで叩くべく、このまま一息に結末まで逐一をトレースする。
 奪つた金を手に、三人は静岡の街を走る。ナナは「お礼がしたい」と辰子に耳打ちし、純太と二人でホテルに、辰子は一人で逃げる。ホテルでナナと純太は体を重ねる。事が済むと、ナナは「急にお家に帰りたくなつた」と純太を一人残し、去る。何しに出て来たのだか、力強く判らない。いはゆる濡れ場要員に過ぎないのならば、潔くそれに徹すればいいのに。一方、辰子は車を拾ふ。しかも内藤タクシーの運転手は、何と護だつた。マグロ漁船で借金を返した護は、すつかり義理人情も忘れ捌け、今は株取引に夢中になつてゐた。「酒を飲むやうになつたのか」、といひながら護はタバコに火を点ける。辰子は「タバコ・・・吸ふの?」、すつかり人も変る、年月の移ろひを表現した会話である、それはまあいい。今現在酒が入つてゐるやうには特段見えないものの、冒頭、かつては辰子が下戸であつたといふ伏線はキチンと張られてゐる。ただ、護がタバコを嗜まなかつたといふ描写は以前に一欠片もない。未だに義理と人情を引き摺る辰子は、タクシーを降りる。
 ナナが去り、姉弟は再び二人きりに、ここからのラストが又おざなり。二人は、不意も通り越し唐突にそれぞれの目的に向かつて別れる。純太は車を姉に残し、八重の居る正体不明の物件へ。純太を待つてゐたかのやうに、八重も迎へる。ここで淡島小鞠が見せる、穏やかな喜びに満ちた八重の表情は美しく撮られてあつたのでまあよしとして、問題は姉。
 フラフラと―冒頭二人が引き離された―ビルの屋上に向かふと、そこには何故かこちらも待ち合はせでもしてゐたかのやうな護が。護が辰子と落ち合ふなら落ち合ふで構ひはしないが、頼むから少しは説明しておいて呉れまいか。尺がない、だなどと意欲と誠実に欠ける言ひ逃れをする荒木太郎ではなからう。話は一向纏まらないが、兎も角締めとして辰子と護の情交。辰子の背中の彫り物―大久保了が全く同じやうな図柄の彫り物を背負つてゐるので、まづフェイク―が大写しになつたタイミングで、二人の会話。
 辰子:「私、この刺青を彫つて良かつたと思つてるの・・・」
 辰子:「辛いことがあつた時、この刺青を彫つた時の痛みが私に、生きることを思ひ出させて呉れる」
   護:「一緒に街を出よう」
 辰子:「うん・・・・」と、そこで映画はプツッと終る、何だその適当な遣り取りは。荒木太郎は最早、今回根本的にヤル気もなかつたのか?
 最後に一応、今回桂健太郎は本人ではなく荒木太郎が、美咲ゆりあは佐々木基子がアテレコしてゐる。

 後注<   オーピー映画(旧大蔵映画)の直営館である福岡オークラ劇場の閉館に際し、今作は当初予定を約二ヶ月前倒して全国最速公開された。


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