真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 うごめく指のメロディ」(2008/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/原題:『今日は散れども明日は咲く花』/撮影監督:創優和/助監督:山口大輔/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/監督助手:江尻大/撮影助手:丸山秀人/照明助手:宮永昭典/スチール:佐藤初太郎/音楽:與語一平/現像:東映ラボテック/協力:加藤映像工房・小山真徳・小左誠一郎・ヒビキック・直井卓俊・島田亘・当方嫁・宮路良平/挿入歌『水面花』作詞・作曲・唄:キョロザワールド/出演:Aya・結城リナ・ミュウ・倖田李梨《友情出演》・青山えりな《友情出演》・岡田智宏《友情出演》・中田二郎・サーモン鮭山・牧村耕次)。脚本の当方ボーカルは、小松公典の飽くなき変名。
 岩手県は水沢(現:奥州市水沢区)から上京したOLの一ノ瀬優子(Aya)は、そんな走りにも全く見えないが学生時代は陸上部出身だとやらで、出勤前日課のジョギングに汗を流す。と、したところ。おいおいおいちよつと待て、のつけからこれは看過出来ないぞ。優子の鈍重で不格好な走り、にではない。鈍重は鈍重でも、走るフォームではなく、全くそれ以前の問題。どうして度々かういふところで立ち止まらなくてはならないのか、呪はしい限りでもあるが Ayaは肥え過ぎだほんの二ヶ月半前の前作も観たばかりだといふのに、まるで痩身グッズ広告の、順序を逆さにした使用後と使用前である。一体何か?今作は主演女優のダイエットを兼ねてゐるとでもいふつもりなのか。それならばそれはそれで画期的といへなくもないが、開巻早々、フラグ大地に立つ。同じくランナーで毎朝見かける大学生の渋川哲平(中田)に片想ひを寄せつつ、奥手で未だ東京には馴染めず、重ねて地方出身の劣等感も抱へる優子には、そこから先どうすることも叶はなかつた。ここで、優子が眩しさうに見やる幼子を乳母車に乗せた夫婦は、遠目ながら小松公典一家か。通勤電車の車中、痴漢氏・竹田(岡田智宏@オタ風味の変質者芝居)に痴漢されるOL(倖田)の姿を目撃した優子は、続けて自身も竹田の被害に遭ふ。勇気を振り絞り大声で抗弁するも、「やめてけれ!」といふ鮮やかな優子の東北訛に、周囲は唖然とするばかりであつた。以降オーラスまで数シーンを通して、最も明確に見切れるその他乗客役は、一張羅のグレーのスーツを着込んだ広瀬寛巳。もう一人の友情出演勢の青山えりなは、後の電車内で矢張り痴漢される女子高生。流石に、最早セーラ服は少々通らないか。
 優子が常連の、清水健(牧村)が営む居酒屋「ま、いどく」。清水のフェイバリットであるとの、いはずと知れてゐるのかゐないのか、「-いかにしてマイケルはドクター・ハウエルと改造人間軍団に頭蓋骨病院で戦ひを挑んだか-」が元ネタである点は、さりげなく明示される。それにしても、“頭蓋骨病院”てのは改めて何々だよ、特化するにもほどがある。話を戻すと、優子が「ま、いどく」に通ふのは清水の妻・久美子(ミュウ)とは同郷のゆゑ、方言も解禁し気が許せるからであつた。そんな折、店に新しいアルバイトとして哲平が現れ、優子は俄かに胸をときめかせる。ときめかせたところで、それ以上相変らずどうにか出来る訳でもないのだが。それにしてもAyaの超質量も兎も角、中田二郎の強張つたハンサムぶりもどうにかならないものか。夫婦生活に於いて清水は諦めきれぬ子作りに固執し、そのことに久美子は夫にはいひ出せぬ不満と、プレッシャーとを感じてゐた。後に明かされる夫婦の過去、二十年前の結婚当初、久美子は一度妊娠するものの、流産してしまつてゐた。清水は優子にいふ、その子が生きてゐれば、ちやうど優子と同じくらゐの歳になると。さういふドラマの組み立て自体に問題は必ずしもないのだが、さうなると再び如何せん、ミュウは未だ若過ぎるのではないか。
 濡れ場要員といふほどでもないものの、最終的にはさして大きな役割を果たす訳ではない結城リナは、優子の姉・弥生。高校の鉄道研究会以来の付き合ひともなる、同じく鉄―道オタ―の太川陽二(サーモン鮭山/何て苗字だ)と結婚し、全国鉄道縦断ハネムーンの道中、妹の下へ立ち寄る。何時までも治らぬ優子の癖の落とし方などには、如何にも竹洞組らしいスマートな論理性が窺へる一方、鉄道ネタてんこ盛りの弥生と太川の一戦には、羽目も外し気味な別の意味でのらしさも感じさせる。マシンガンの如く繰り出され続けるネタの面白さが、煽情性を凌駕してしまつてゐる。鉄道をフィーチャーしたサーモン鮭山の濡れ場といふと、「裸の女王 天使のハメ心地」(2007/監督:田中康文)での対青山えりな戦も想起されるが、ここではあくまで軽妙なスパイスに止(とど)まり、主眼はあくまでセックス、より直截には青山えりなの裸であつた。といふか、改めて振り返ると弥生だけではなく、久美子と清水の絡みではドラマ性を優先し完全に二の次に回され、一方優子と哲平との際には、中田二郎の激しい大根ぶりにまるで形にならない。と、胸の谷間も露な格好で歩き回るミュウと結城リナの振り撒く眼福のほかには、今作実は桃色の威力は、濡れ場本体に関しては総じて高くはない。
 キレの悪い主演女優と強張つたハンサムとの標準的なラブ・ストーリーは、その限りに於いてはぎこちないばかりでどうにもかうにも苦しい。そこに半ば強引に久美子の物語を捻じ込み、どうにかかうにか負け戦を懸命に戦ひ抜いた気配も漂ふが、仮にその場合、苦心は最低限の結果には辿り着けてもゐよう。今作のAyaと中田二郎とのツー・ショットから容易に予想される、木端微塵からは相当の距離も保ち回避し得てもゐるものの、哲平のところに根本的に役柄が変化してしまつたとしても、フと気付くと不在が際立つ松浦祐也の名前があつたならば、といふ感も強い。

 「痴漢電車 うごめく指のメロディ」。抜群にイカしたタイトルではあるが、どちらかといはなくとも電車を降りた娑婆でお話は進行することに加へ、直線的なモチーフといふ意味だけではなく、音楽を感じさせる要素は特にこれといつてない。


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