真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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五十路をばさん 助平つたらしい尻
新田栄
/
2008年08月27日
「
五十路をばさん 助平つたらしい尻
」(2005/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:城定秀夫/音楽:レインボーサウンド/監督助手:都義一/撮影助手:池宮直弘/選曲効果:梅沢身知子/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/出演:美幸・望月梨央・岡田智宏・丘尚輝・本多菊次朗・小川真実)。
有限会社ハッスル健康食品杉並支店に勤務する吉岡和也(岡田)は、五十過ぎのビルの清掃婦・上杉光子(美幸)の尻に何時も夢中だ。開巻早速、ここで大半の観客は振り切られてしまふにさうゐない。無理もここまで来ると、アヴァンギャルドとでも思つてゐないととてもやつてゐられない趣すら漂ふ。吉岡が安穏と
ババアとの
情事の妄想に呆けてゐると、後ろ向きに階段を掃除しながら下りて来た光子の尻に激突され、二人は縺れ合ふやうに転んでしまふ。同僚で恋人の石田恵利香(望月)に絆創膏を貼つて貰ひながら、他の社員が外回りで出てゐるのをいいことに、求められるまま吉岡は恵利香を抱く。今作中ここで唯一、岡輝男脚本が全うな方向の輝きを見せる。吉岡が上着を脱がせると、恵利香は薄手のロンTを身に着けてゐた。「あ、ババシャツ」といふ吉岡に対して恵利香は即座に、「ウォームビズ」。朴訥とした岡田智宏の台詞回しに、望月梨央持ち前の鋭角が上手く絡む。
休日、恵利香とのデートの待ち合はせに向かふ途中の吉岡は、街行く光子の姿に目を留める。何か買ひ物でもしたのか、小袋を胸に抱き宝石店から嬉しさうに出て来る光子の姿に、女を感じた吉岡は胸をときめかせる。休日明け、恵利香が金庫に保管しておいた筈の会社の金がなくなつてゐた。前日遅い時間に社内に見かけた光子を恵利香は疑ひ、ビルの管理会社に連絡する。結局金は恵利香の不注意で机の下から出て来るが、光子は馘になつてしまふ。気の毒に思つた吉岡は、光子のアパートを訪ねてみる。
本多菊次朗は、光子の二十年前の恋人・鈴木誠。光子は鈴木の将来を慮り当時身を引くが、別れ際に、同日同場所同時刻での二十年後の再会を約束する。約束の日は間近、光子が買つた指輪は、その際鈴木に対し幸せに暮らしてゐることを装ふ為のものであつた。吉岡は、光子の鈴木との再会への準備に協力することになる。再会の日前日、「
私に女を思ひ出させて呉れるかしら?
」と乞はれ、吉岡は念願叶ひ光子を抱く。一方鈴木は妻・史子(小川)とのノルマごなしの濡れ場を経つつ、いよいよ当日。も、約束の場所に光子は現れない。鈴木が諦めたところに、一方吉岡の携帯には、光子から助けを求める電話が入る。慌てて吉岡が駆けつけると、よく判らない倉庫の中には折角着た和服も露に乱した光子が。行きずりの男(丘)に連れ込まれ犯されたのだといふ。昼間から泥酔して光子を犯し、事後男が吐き捨てた一言、「何だ、よく見るとオバサンぢやねえか」。
何だもかんだもねえよ。
その為光子は鈴木との再会を果たせなかつたといふ次第ではあるが、何故(なにゆゑ)にかういふ藪を突いて蛇を出すにも程がある展開をとかいふ以前に、岡輝男(=丘尚輝)が、
自ら地雷原に飛び込むやうな真似をしてみせるのだかが全く判らない
。因みに強力な、本質は別に宿さない細部。今作、行きずりの男の劇中設定名は木島周平。何でそんなところに一々気付くのだか我ながら不思議でもあるが、丘尚輝演ずる木島といふ端役は、六年遡る「
出張和服妻 -ノーパン白襦袢-
」(主演:青山くみ)にも登場する。
続く展開は、いや増して更に怒涛。数箇月後、恵利香とは別れた吉岡は何と光子と結婚してしまふ!出勤がてら未だ床の中の光子からゴミ出しを命じられる吉岡ではありつつ、「
あのいやらしい尻に敷かれてはゐるが、俺は、幸せだ!
」と、傍からは恐ろしいまでに全然理解出来ない幸福感を、しかも爽やか極まりなく満喫するといふラストには、驚愕、だとか恐怖、だとかいつた言葉ですら最早追ひつかない。セックス、乃至はエロスを描いた映画といふよりは、寧ろ荒唐無稽なファンタスティック、あるいは背筋も凍る戦慄のスリラーといつた方が適当であるやも知れぬ怪作中の怪作。木端微塵に打ち砕かれ、「お前はロベルト・ペタジーニか!」、そんなツッコミを入れる余力も残らない。
そのやうな瑣末はこの際どうでもいいやうな気もするが、今作中妄想、あるいは回想シーンは何れもキネコで処理される。本来ならばそのことを、“瑣末”だなどといふ言葉で片付けは決してしないところではあるのだが、流石に力尽きた。完膚なき完敗を認める。
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