真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「官能病棟 濡れた赤い唇」(2005/製作:インターフィルム・国映・新東宝映画/配給:新東宝映画/脚本・監督:橋口卓明/企画:朝倉大介/製作:樋上幸久/プロデューサー:森田一人・新川孝夫・福俵満/撮影:中尾正人/照明:田宮健彦/編集:酒井正次/助監督:田中康文/スチール:AKIRA/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/特殊メイク:織田尚・佐野進・岡村佑紀/ヘアメイク:河野顕子・知野香那子/監督助手:柴田祐輔 ・中川大資/照明助手:三浦耕/タイトル:ディシプリン/応援:広瀬寛巳・佐藤吏/協力:工藤俊明・工藤いつ子・小原亜美・俵拓也・徳井宏紀・若杉賢/協力:シーズ情報出版/出演:麻田真夕・藍山みなみ・風間今日子・華沢レモン・葉月螢・酒井あずさ・本多菊次朗・竹本泰志・真田幹也・大槻修治・伊藤猛・佐藤幹雄)。
 普通にピンクの公開題で開巻、軽く拍子を抜かれる。診療科目は美容外科と形成外科に皮膚科の玉井病院、ちなみにその実体は著名な病院スタジオ。深夜のナースセンターを一人で守る瑞希(風間)を、青年医師・篠田(竹本)が訪ねる。瑞希の管理する鍵で、篠田が何某か謂れがあり封鎖されてゐる病室を開ける目的が、要はヤリ部屋といふ清々しい即物性。あるいは、量産型裸映画ならではのしなやかな論理性を言祝ぐべきか。大ぶりの鏡を思はせぶりに挿んだ上で、風間今日子のオッパイがエモーショナルな濡れ場初戦開戦。最中に瑞希が、髪の長い女的な“何か”が起動するのに気づく。上から襲つて下さいとでもいはんばかりに、瑞希はベッドの下に退避。裂けた口を瞬間的に抜いて、風間今日子のスクリーム。時は流れ、立入禁止の玉井病院。荒れ果てた屋内に、撮影済みフィルムと加藤の名前の書かれた、大絶賛実名登場するシーズ情報出版の封筒が転がる。ググッてみると、シーズはエロ本や風俗情報誌を出してゐるか出してゐた出版社である模様、現存・オア・ノットがよく判らん。
 リアル人員なのかはたまた協力部、識別は全くつかないが兎も角結構な大所帯の投入されるシーズ実社。『KIRA』誌編集者の洋子(麻田)は、編集長の黒岩(凄えストレンジな長髪の伊藤猛)から温めてゐた自身の持ち企画でなく、文字通り影も形も現さない前任者の加藤(性別すら不明)が消えたため宙に浮いた、都市伝説記事の引継ぎを振られ不承不承引き受ける。それで満足に仕事が出来るやうには凡そ思へない、過剰にトッ散らかつた加藤のデスクを洋子は家探し。玉井の名前のほか、長谷川由衣や津村といつた固有名詞の記されたレポート用紙を見つける。黒縁らしい黒縁眼鏡がイカした佐藤幹雄は、洋子隣席の同僚・鈴木。
 配役残り、煌びやかに細い藍山みなみは、実家を厭ひ姉宅に転がり込んで来た、洋子の妹・和美。正確にいふと、継母の連れ子。本多菊次朗が、洋子の夫・朝霧。真田幹也は和美の彼氏・孝二で、華沢レモンは和美が断つた、今は廃墟の玉井に忍び込む肝試しに孝二が連れて行く、二股相手のみさお。のち声のみ聞かせる、みさおの父親役なんて知らん。おどろおどろしい黒髪ロングの葉月螢は、かつて玉井にて美容整形手術の失敗で鼻を壊された女・長谷川由衣。大槻修治は引退した大物政治家・津村、秘書は田中康文。フロントガラス越しに滲む、プレジデントの運転手は無理。そして酒井あずさが、津村の娘でとうに故人のひとみ。その他ひとみを追ひ駆け捕まへる、三人組のうち一人がひろぽんなのは視認可能。それと、職業不詳ながら本多菊次朗が朝霧といふだけで、半数近い俳優部が重複しこそすれ、後述する橋卓前作とは全く別個の世界観。
 素のDMMの、動画配信体制の抜本的刷新に伴ふ強制終了を嘆いたのも筆の根も乾かぬ正しく束の間、見られなくなつた国映作が、代りにビデオマーケットとかいふ何やかや勝手の悪いサイトで配信されてゐるのが判明、有難うPG。ならば行くまでよと、早速復活再起動した国映大戦第四十五戦。前作「官能の館 人妻昇天」(2004/主演:葉月螢/Vシネ題『いはく憑き DOLL HOUSE』)に引き続き、トラッドな怪談映画といふよりは90年代後半以来のJホラー風味の橋口卓明ピンク最終作。「kuchisake 口裂け」とかいふ火の玉ストレートなタイトルで、一般公開されてもゐる。矢鱈広大なボカシは、R15処理―ないし加工―の所以だらう。と、ころで。今作でピンクを離れた橋口卓明(a.k.a.橋井友和)の、その後はといふと。ザッと探してみたところ監督作は2007年の車系Vシネを最後に、それ以外でも獅子プロの兄弟子筋・佐藤寿保の「華魂」第一作(2014)の編集くらゐしか見当たらない。
 ありがちな噂話に、加藤が遺した取材記録。政治部と繋がりを持つ鈴木の、エクス・マキナな助力。即ち主人公たる洋子は精々長谷川家を訪問するのが関の山、所詮は他人の褌感が否応ない類型的な因縁を、津村の馬鹿正直な白状もとい告白で埋める。轟然と気を吐く三番手を除けば、ビリング頭を殊に半ば女の裸も手薄―華沢レモンも忘れかけかねない程度に脱いで絡む―に、五十分の間、即ち尺の大半を費やして代り映えのしない顛末を丁寧は丁寧に追つてはゐた、ものの。へべれけかクソみたいに惰弱な成仏シークエンスから、バッド―あるいはマッド―エンドのための木に卒塔婆を接ぐバッドエンドに無理矢理硬着陸、通り越して墜落する。ラスト十分で映画が木端微塵に砕け散つた印象の強い、壮絶は壮絶な一作。それでゐて、徒にくりいむレモン風味な二番手第二戦では、何気に裸映画が決壊してもゐる。そもそも、気儘なフリーダムが様になる麻田真夕に、職業婦人のお堅い造形が結構派手に似合はないのが、如何せん如何ともし難い致命傷。何時か何処かで見た風情を隠しもしない、口裂け女の造形が臆面もない反面、残像を残すほど人物を高速振動させる、ムンク―の「叫び」―実写版とでもいつた趣の闇雲な演出が、恐怖なりショック描写云々いふより寧ろ、この―映画を撮つてゐる―人は気でも触れたのかと別の意味で怖い。

 橋口卓明の近況に関して、一点忘れてゐた。葉月螢が自身の監督第二作含め、ほたる名義で企画とプロデュースしたオムニバス映画「短篇集 さりゆくもの」(2021)に橋口卓明が訴求力の覚束ない、漠然としたコメントを寄せてゐる生存確認。
 備忘録< 口裂け女の正体は、鉄骨に突つ込む交通事故で口の両側に大きな傷跡を残したひとみ   >謎原理で洋子にも伝播する>>呪ひだからいゝんだよ


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