真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「連続絶頂 イキまくる女達」(1995『エロドキュメント 超・変態実話』の2009年旧作改題版/製作:サカエ企画/配給:新東宝映画/監修:新田栄/構成:岡輝男/企画:中田新太郎/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/音楽:レインボー・サウンド/助監督:森満康巳/監督助手:北村隆/撮影助手:島内誠/照明助手:渡辺厚/効果:中村半次郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学㈱/出演:佐賀照彦《某文学部学生》・鶴見としえ《アルバイト風俗嬢》・中川明《某広告会社勤務》・高野ゆかり《O.L》・愛田まなみ《O.L》・水沢まりも《O.L》・望月薫《風俗従業員》・野口慶太《ホスト》・大岡尚一《スナック店員》)。出演者中、野口慶太と大岡尚一は本篇クレジットのみで、中川明が今回新版ポスターには中川あきら。
 早稲田一文四年の松川雅彦(佐賀)は、卒論にも取りかゝらず零細広告会社「ワールド広告社」の、三行広告作成のアルバイトに応募する。雅彦を迎へたワールド広告社の北原(中川)は、自身が二文の出身であるのもあり雅彦を秒殺で採用する。これもある意味、学閥といへばいへるのか。その夜、丘尚輝でなく大岡尚一名義を使用した岡輝男が、接客も疎かに文庫本に目を落とすグラサンのバーテンを務める恐ろしく狭い店にて、北原は雅彦に、自分がワールド広告社で働き始めた当初の思ひ出話を語る。かつては文学を志し故郷も捨てたものの、当時の北原はあたかも現在の雅彦のやうに、行き詰まり煮詰まつてゐた。無断欠勤し燻つてゐた北原は、「掃除・洗濯・料理」といふ謎の風俗三行広告にフと惹かれ、女を自室に呼んでみる。現れた中年女・靖江(鶴見)は、家政婦のやうにテキパキと散らかり倒した北原の部屋を片付けると、暖かく美味しさうなうどんも振舞ひつつマッサージするだのしないだのといつた方便から、「けふは特別よ」を連呼する絶賛本番行為を展開。特殊な性癖の持ち主なのか何故かすつかり靖江に感激した北原は、麗しきエロ広告に進むべき道を見出したのだつた。
 配役残り高野ゆかりは、自分だか真実だかを探すだとか称して要はドロップアウトした雅彦に、ポップに匙を投げる彼女・美佐子。北原は雅彦を実地教育にと、建前上はその場で出会つた男女の会員が事に及ぶ秘密パーティー、「LUCKY 7」に繰り出す。地味に所々で見かける望月薫は、玄関先で二人を応対するだけの「LUCKY 7」従業員・薫。愛田まなみと水沢まりもは、愛田まなみが当初北原が見初める悦子、水沢まりもがさういふ流れで雅彦と対する格好になるみかげ。とはいへ最終的には、怒涛の4Pへと突入する。三枚目が妙に気取つてみせるのが微笑ましい野口慶太は、雅彦に復讐を期する美佐子がラブホテルに呼んだ出張ホスト・タケル。美佐子は雅彦の心を苦しめるために、ホストとのセックスの模様をビデオに収める。
 新田栄と岡輝男が監督と脚本ではなく、監修と構成を謳つてゐる点からも窺へる、過去には前年の「性告白実話 ハイミスOL篇」も想起される擬似ドキュメンタリーといふ体裁には、矢張り形式的にも一欠片の意味もない。今でいふところの、モキュメンタリーといふ用語を持ち出さうなどといふ気分は全く憚られてしまふほどに、実際の本篇は清々しく純然たる、何時も通りの水準の劇映画に過ぎない。その上での今作の特色は、ビリング二番手の高野ゆかりから水沢まりもまでの若い女優三人が、意外にも吃驚させられるくらゐ粒が揃つてゐる点。愛田まなみは正調のスレンダー美人で、コンビを組む水沢まりもはルックスとしては愛田まなみと好対照のアクティブさを具へる一方、プロポーションの方も愛田まなみに負けず劣らず美しい。高野ゆかりは首から上こそ些かの難を感じさせなくもないにせよ、絶妙に少女の匂ひも残すか細い肢体には、正直なところ下賤でもある嗜虐心が掻き立てられずにはをれない。高野ゆかりと野口慶太の濡れ場には、雅彦に対するリベンジといふ単なる煽情性に留まらない文脈を織り込むことにも着実に成功し、美佐子が元カレに対し「真実よ」とVHSビデオ―時代を感じさせるアイテムではある―を突きつけるカットには、まるでらしからぬ映画的緊張度が漲る。さうなると感動的に解せないのは、さういふ磐石な三本柱を擁しておきながら、何でまたわざわざ鶴見としえ(『エロをばさま』シリーズ第二弾での公称スペックを真に受けるならば、少なくとも当年41歳)が堂々と主演の座に坐つてゐやがるのか、といふ不条理なミステリー。オーラスも御丁寧に靖江が相変らず「けふは特別よ」の決まらない決め台詞を振り回す、今度は対雅彦戦で締め括つてしまふ頓珍漢は最早さて措き、高野ゆかり・愛田まなみ・水沢まりもの三人に謹んで全エモーションを集中して投入するのが正しい観戦体勢といへるのではなからうかと、腹を括る次第である。

 ところで今作、例によつて2003年に少なくとも既に一度、「変態実話 前から後ろから」といふ新題で新版公開済みである。


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ドルフ銀幕へ (竹内です)
2010-04-05 08:23:22
おひさです。竹内です。
以前、ドルフ・ラングレンの話をさせて頂きましたが、日本での銀幕復帰第一弾は「ユニバーサル・ソルジャー リジェネレーション」になりそうです。6月に東京で公開するという事で後は、シネコン巡回でしょう。ヴァン・ダム20日、ドルフは5日で自分の出番を撮影という厳しい予算の中、ブルガリアのボヤナ・スタジオで撮影され、中東、フィリピン、日本では劇場で公開するものの、アメリカ本国ではDVDスルー。ただ出来は予想以上で評価は非常に高く、批判はですら、ヴァン・ダムの演技は高く評価しているとのこと。面白いのは、何と撮影がピーター・ハイアムズで、監督がピーターの息子ジョー・ハイアムズ。これ親の七光かと思うとそうでもないらしく、初めの監督は「ディテクティヴ」も監督したサイモン・フェローズで、その時からピーター・ハイアムズが撮影監督だったようです。
何せヴァンダムが怪我で入院した時、唯一お見舞いに来たのがピーター・ハイアムズで、仕事を進めるのにはやつを雇えと映画会社は考えたようです。息子の劇場用映画デビューもその果てという事でしょう。何か起きればピーターが出ればいいわけで、映画の評価が比較的高い事も製作布陣の手堅さゆえでしょう。
 
 
 
ただ (竹内です)
2010-04-05 11:28:17
私としてはドルフの監督作「command performance」の方が観たい映画なので、こちらのほうも調べているのですが、情報が入ってこない。

まあ素直に6月を待つこととしましょう。
 
 
 
>ドルフ銀幕へ (ドロップアウト@管理人)
2010-04-05 22:42:27
 どうも、実は未だ今年は一本も一般映画を観てゐないはぐれピンクスです。

>日本での銀幕復帰第一弾は「ユニバーサル・ソルジャー リジェネレーション」に
>6月に東京で公開するという事で後は、シネコン巡回でしょう

 一応当地にもシネコンは幾つもあるので、恐らく来ることは期待出来るでせう。
 筆卸をそこまで待つてゐても別に罰は当たらないのですが、
 面白さうなので多分「第九地区」なんて観に行きます   >知らねえよ

>ドルフは5日で自分の出番を撮影

 殆ど、ピンクかよwww、といふ世界ですね。

 スタの例の大作(?)は本国で夏らしいから、海を渡つて来るのは何時なんでせうね。
 そつちも無邪気に楽しみです。

 ラングレン情報を有難う御座いました。
 
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