真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「夜の痴漢病棟 ナースの尻」(1994『新・産婦人科診察室』の2004年旧作改題版/製作:新映企画株式会社/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:伊能竜/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/助監督:国沢実・広瀬寛巳/撮影助手:新川二郎/照明助手:下別府浩/音楽:レインボーサウンド/効果:時田グループ/出演:片桐かほる・草原すみれ・本田ゆき・山科薫・岡竜太郎・久須美欽一)。企画の伊能竜は向井寛の変名。
 小出産婦人科医院、院長いはく神聖な筈の診察室。診察台の上では、当の小出隆夫(久須美)が、恋人の佐藤由利(草原)とお熱くお盛んな真最中。その様子に、勤務三年の看護婦・花田しのぶ(片桐)は臍を曲げる。微かに尖らせた口元を右に歪めてみせるのが、片桐かほるが多用するメソッドであるやうだ。しのぶは看護学生時代に講師として薫陶を受けた際の熱意と誠意に惹かれ、小出の医院に勤務することを選んでゐた。事後、そんなしのぶの視線に触れた小出はこの期に反省する素振りを見せもするものの、事の最中の久須美欽一はといふと、まあ手放しで楽しんでゐるやうにしか見えはしない。そんな小出産婦人科を、女子高生の島崎舞衣(本田)が訪れる。部活動の最中に弾みで破れてしまつた処女膜を、再生して欲しいとのこと。そもそもその日は既に診察時間外ですらあるのだが、未成年にさういふ治療は行はないことにしてゐる方針を一旦さて措き、小出は麻衣の将来も鑑み早速施術。麻酔を打つ描写すらスッ飛ばした上、新田栄映画頻出の膣内模型―といふほど、精巧なものでもないが―も持ち出し、体内に溶け抜糸の必要のない糸でチョイチョイと縫い合はせる。然し診察台で女と致すは女子高生に処女膜再生手術を施すは、小出の信条は曲げる為にあるのか。その場で治療費をキャッシュで支払つた麻衣は、しのぶが驚くほど多額の現金を持ち歩いてゐた。ところが何のことはない、純情ぶつた麻衣の正体は援助交際の常習犯で、処女に大金を払ふといふ上客の情報を掴み、とうの昔に捨てた膜を再生したものであつたのだ。煌くらしさで低劣な好色漢をそれはその限りに於いて好演する山科薫は、まんまと驚喜する麻衣の間抜けな客・大川友三。麻衣の補導に伴ひ事実を知り落胆する小出の前に、今度はほかでもない由利が、あらうことか由利も処女膜再生手術を求め現れる。
 事前には、てつきり岡輝男が丘尚輝の以前に使用してゐた役者名義かと推測した岡竜太郎は、名家の御曹司・綾小路尚輝。因みに岡竜太郎を簡単に説明すると、偉大なる将軍様の量産型のやうなルックスである。小出のことなど何処吹く風と、由利は尚輝との玉の輿を何時の間にか首尾よくゲットする。とはいへ綾小路家は嫁は処女しか認めないとかいふ事情で、由利は臆面もなく小出を頼つて来たものだつた。
 方便はどうあれ、処女膜再生手術といふ特異なギミックを二度繰り返す時点で、問答無用に大絶賛無頓着なのか、それとも従来の映画文法に果敢な挑戦を試みた、実は戦闘的な意欲作なのか。あまりのネガティブな衝撃に判断に苦しみさへするあんまりな作劇かと、一度は早とちりさせられもした。ところが由利術中の極々さりげない一応医学的な伏線を軸に、小出の暴力的な悪戯心が時限式に火を噴く展開は、それはそれとして一旦鮮やかではある。尤も以降、そんなこんなで、否直截には“そんなこんなで”とでもしかいひやうのない自堕落な勢ひに物語を任せ、麻衣と由利の二件に懲りた小出と、しのぶが終にといふか何となくといふか兎も角結ばれ、締めの濡れ場を相変らず診察台の上で披露するのがフィニッシュ。だなどといふ映画の生温かい肌触りは、これこそが新田栄の仕事といふに別の意味で相応しい一作。比較的粒の揃つた女優三本柱の中に、破壊力迸る人間凶器が居ないだけで、まだしもマシな部類に入る、とでも最早自分を言ひ聞かせるべきか。これで不思議なことに、全体的な据わりは意外と悪くないので、案外腹を立てることも呆れることもなく、普通のテンションで観てゐられもしないことはないのだが。単に、小生の病がいよいよ膏肓に入つただけのやうな気もするが、この何とも絶妙な匙加減が、案外新田栄といふ映画作家に際するにあつて、鍵を秘かに握るポイントとなるのかも知れない。
 もう一箇所よくよく振り返つてみると実は特筆すべきは、悪びれることもなく乏しいロケーション。しのぶと小出は院内から半歩も外科医、もとい外界に出づることはなく、大川が舞衣を買ふのと、綾小路が由利と初夜に挑むのは、誤魔化さうといふ意図すら殆ど窺へない清々しく同じ物件である。せめて各ファースト・カットのカメラ位置を大きく変へてあれば、受ける印象も変つたのではなからうか。そもそも建物外景といつた、繋ぎの屋外ショットひとつなかつたやうにうろ覚える。

 どうも全体像が未だよく見えないが、別に各作の連関はまるで強固ではないままに、産婦人科医・小出を主人公とするシリーズがあるらしい。これまで感想を書いてある中では、「官能病院 性感帯診察」(1994/小出役は清水大敬)・「本番淫欲妻 -つぼ責め-」(1997)が挙げられる、いづれ全貌を掴みたい。


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