真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「恥づかしい検診 興奮OL」(1993『失神OL 婦人科検診2』の2010年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・小山田勝治/照明:秋山和夫・宮田倫史/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:森山茂雄/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:斉藤秀子/スチール:佐藤初太郎/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:西野美緒・森山美麗・斎藤桃華・久須美欽一・ジャンク斎藤・芳田正浩・栗原良)。
 三星商事京都支社に勤めるOLの水原奈都子(西野)は、有給を使ひ東京に向かつた―はんなりとした京都弁を駆使する西野美緒は、現に京都出身―上で、著名な婦人科医の熊木慎二(久須美)を訪ねる。熊木が発表した、性行為と予知能力との相関関係に関する仮説に興味を持つての上京だつた。上司の加東次郎(栗原)と不倫状態にある奈都子はある時から、絶頂に達すると失神しその瞬間に、次にセックスする男のイメージを見るやうになつてゐた。誰かしらの幻覚を見ようが見まいが、当の性交は手篭めにでもされない限り、当人の気持ちひとつに関る事柄でもあるやうにも思へて仕方のない疑問はひとまづさて措き、予見通り本社から京都支社に転勤して来た吉岡弘(芳田)と関係を持つた奈都子が幻視した次なる男といふのが、実はほかでもない熊木であつた。奈都子の奇想天外な相談を受けた、熊木は意外にも特段驚くでなく。奈都子と同様熊木の患者に、矢張り絶頂時にこの人の場合は翌日の天気を予知ししかも的中させる、佐伯靖子(斎藤)がゐた。靖子の膣内には、通常人には見当たらない位置に突起が認められ、熊木はそれをGスポットならぬ、予知のYスポットと仮称した。予知するからYスポット、時々山﨑邦紀といふ人は、頭がいゝのかさうでもないどころでなくさうではないのか、よく判らなくなる。そもそも、GスポットのGが独人産婦人科医のエルンスト・グレーフェンベルクの名に由来するのに因むならば、こゝは発見者の名を冠して、Kスポットとならうところである。横道から話を引き戻すと、奈都子にも、Yスポットではないかと推定される突起物は確認された。一方、欠片の背徳も香らせずに熊木と男女の中にある看護婦の紀野恵(森山)は、吉岡との一戦に際し熊木を見たといふ奈都子の証言そのものを、抱かれたいがための方便であると一蹴する。
 抑揚を欠いた展開の鍵を握るジャンク斎藤は、東京までわざわざ追ひ駆けて来た吉岡との再会も経て、遂に治療研究目的と称した熊木と致した奈都子が予知する更なる男・辰巳雅夫。東京の雑踏の中奈都子と遭遇した辰巳は、辰巳も辰巳で射精の瞬間次にセックスする女のイマジンを見る体質の持ち主で、それのみか奈都子を幻視してゐた。とかいふシークエンス自体は、頗るロマンティックなものなのだが。ところで、すごすごと京都に尻尾を巻いた吉岡からYスポットの情報を聞きつけた加東は、セックス予知の商業利用を思ひたち俄然暗躍する。
 望まぬ力に悩む、異能力者同士のラブ・ストーリー。といふと、最終的には互ひに平穏な幸福を求め自らその奇特なスペックを手放す着地点まで含め、綺麗なSF映画のやうな物語ではありながら。致命的に今作の足を引くのは、清々しい変哲のなさが煌かないジャンク斎藤の、ある意味猛然としたレス・ザン・魅力。ヒロインが終に巡り逢ふ運命の男として、一本の劇映画を背負はせよう相談には、逆立ちしたとて果てしなく途方もなく何処までも遠い。とかいふ次第で、機能不全の本題に代り前面に果敢に飛び込んで来るのが、火を噴く企業戦士栗原良の明後日な皮算用。確定的な気象予測をビジネス化出来れば、巨額の利益を生む筈だと踏んだ加東は靖子に接触。既にその時点で、残念ながら靖子のYスポットが消滅してゐるのは熊木の診察も受けた上で確認済みであるにも関らず、そもそも奈都子を開発したのは自分だなどと、加東は頓珍漢な俺様自慢を振り回し事に及ぶ。まんまとエクスタシーまで導いたはいいものの、悦んだだけで案の定予知能力はケロッと喪つてゐた靖子に対し、持ち前の闇雲な重厚感を炸裂させ栗原良が激しく落胆するカットが、爆発的に下らなくて笑かせる。大体が、よしんば加東の事業計画が実用化の運びに辿り着いたにせよ、その暁には天気予報の度に、靖子は情交しなくてはならない羽目になる。よくよく顧みるに、頑丈に商業性とも両立する稀有なアクロバットを披露する、浜野佐知の頑強な女性主義。並びに山﨑邦紀の狂ひ咲く変幻怪異と、その奥底で全てを統べる明晰な論理。といふこれまで顕示的な理解に加へ、このドライな馬鹿馬鹿しさといふ奴も、旦々舎の主力装備に改めて数へ得るのではなからうか。ピンク映画といふカテゴリーからも当然主砲として期待されるべき、旦々一流の重量級の煽情性といふ面に於いては、森山美麗と斎藤桃華は何れかが二番手でもう他方が三番手、といふ区別に形式的なビリング以外にはさしたる違ひも感じさせず、等しく半ば通り過ぎられる反面、俳優部総嘗めの四冠を麗しく達成する主演女優の西野美緒に関しては、整つた美貌も悩ましく熟れたオッパイも、お腹一杯に堪能させて呉れる。

 一点釈然としないのが、熊木がYスポット研究の過程で、類似する現象ではないかと所謂デジャ・ヴュを持ち出す件。行為当時に発現する既視感と全く事前に予知するYスポットとでは、根本的に異なる現象であるやうに直感的には思へるのだけれど。


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