真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ハメられた女 濡れる美人妻」(2001/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:今岡信治/脚本:上井勉/企画:朝倉大介/撮影:小西泰正/助監督:吉田修/編集:酒井正次/音楽:gaou/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/タイミング:竹原春光/スチール:北本剛/監督助手:菅沼隆・伊藤一平/撮影補:水野泰樹/撮影助手:畠山徹/応援:坂本礼・大西裕・増田庄吾・朝生賀子/出演:沢木まゆみ・松原正隆・真崎優・藤木誠人・佐藤宏・木全公彦・芥塵介・小泉剛・小林康宏)。
 夜の公園、息遣ひの荒い男が自らの右手をクルクル裏表眺め、パチパチ物が燃える音が聞こえる。ラストでもう一度同じ動作を蒸し返す、何をこの男は右手に重大さうな関心を懐いてゐるのか、その真意は終に示されず判然としない。何時か誰か、撲殺でもしたのかよ。テント村の村民・修二(松原)が、死を決意しガソリンを被る。ところがライターの火が点かず、焚火を借りに行つた背後の仲間にも無視される。とこところがろが、速攻気化せんのかいなといふ疑問も否めないが修二の体から滴るガソリンが、導火線的に着火。するとダッシュで逃げる修二が走り着いたか逃げきつた先が、目張りした車内にホースで排ガスを引き入れた、スーサイドなセダン。それをすると壊れるやうな気もしつつ修二が開けた隙間から窓を抉じ開けると、運転席では自身と瓜二つの男(のち明らかとなる固有名詞は榊文夫/当然松原正隆のゼロ役)が死んでゐた。翌朝、文夫の身包みを剥いだ修二が、文夫を入れたトランクを閉めての暗転にタイトル・イン。明けて夜の歌舞伎町一番街、ソープに行つた―文夫の財布に入つてゐた金で―修二を迎へた嬢のナナ子(真崎)は、中途で端折つた事後、修二が前の男にソックリだとか営業トークだとしたら何気に秀逸な軽口を叩く。そのまゝ徘徊する修二は雨も降つてゐないのに、合羽を着込んだ男のママチャリと激突。意識を失ひダッラダラ流血するほどの、結構な大怪我を負ふ。と、ころで。その頃文夫の妻・なずな(沢木)はといふと、パートで働く弁当屋の同僚・敦(藤木)とラブホテルにて逢瀬の大絶賛真最中。おひおひ語られる顛末、なずなと文夫は文夫の鬱病を理由に、一年前から別居してゐた。
 配役残り、佐藤宏以下ビリング下位は識別不能。見て人相なり背格好でその人どの人と知る知れない以前に、素のDMMに劣るとも勝らずビデオマーケットの画質が矢張りクソで、見て見切る見切れぬ以前に見えない。なずなが―文夫のつもりで―引き取つた修二と病院の表に出て来るカットで、病院名が判読出来ないレベルのおぼろげ具合。ダメだこりや画質を上げようと思ひ、既に高画質設定になつてゐたのには愕然とした。要は同じ素材を使つてゐるのだらうが、よくこんな代物で金を取れるなといふのが率直なリアクションである、出す方も出す方で悪いのだが。ちなみに以下五名の候補としては、テント村に住民票がある人等―ねえよ―が計三人に修二を撥ねるチャリンコ男と、信夫の遺体となずなを対面させる、スーツは着てゐるだらしない長髪。どうにかならんのか、あるいは商業映画ナメてんのかといふのは一旦兎も角、一応頭数は合ふ。その他弁当屋に敦のほか客含め若干名、松原正隆のボディ・ダブル等々がフレーム内を賑やかす。内トラに二三本毛を生やしたビリング下位を詰められなくとも、特に困りはしまい。ただ最初は内職でもしてゐるのかと思つた、なずなが筆書した半紙を、受験生のクリシェ感覚で居間に貼り巡らせてゐるのが、何某かのモチーフを成してゐない訳がないのだけれどもそれが読めない。といふか、斯くも大仰か素頓狂な意匠に、何の意味もないなら盟友の荒木太郎も吃驚である、盟友なのか。不用意な与太はさて措き、見えない敵と戦はうとしても始まらない、諦めて先に進む。
 国映大戦第四十六戦は、別に、元々大蔵以外に戦ふ場を幾らでも持つてゐたので、荒木太郎とは対照的に今も普通にときめくいまおかしんじの、今岡信治名義による2001年第一作。寧ろ、三顧の礼で迎へられでもしたのでなければ、よくよく考へてみるに何でまた、いまおかしんじがこの期に及んで大蔵に上陸してみせたのか、そもそも判らないとすらいへようか。
 死なうとしてゐた男が別の男の人生を手に入れる、壮大ではないが盛大なファンタジー。比較的緩やかに穏やかに尺を費やした末、果たしてこの映画がそこそこ大風呂敷をどう畳んでみせるのか、と思ひきや。何もかも放り投げたまゝ劇伴先行でクレジットが起動する、起動してしまふ別の意味で衝撃のラストには引つ繰り返つた。危ねえ危ねえ、もし今今作に小屋で相対してゐた場合、量産型娯楽映画的には限りなく不義理に近い、破壊力に耐へ抜く体力的な自信が正直ない。土台、文夫の死体が既に官憲の管理下に置かれてゐる以上、茶の濁しやうもなく。なずなが文夫の背広を片付けてゐて、“さよなら”とだけビッシリ強迫的に書き連ねられた、切なく壊れた便箋を見つけるソリッドな戦慄は何処次元の彼方に消えた。これ要は、起承転結を平然と中途で放り捨てる、大御大・小林悟の誇、れない禁忌の荒業「起承転」と大して変らない。
 敦との関係も踏まへるとシンプルにお好きな口であられたのか、文夫―修二なんだけど―との生活を再開させたなずなが夫婦生活―ではないんだけど―に励んで下さり、絡みの手数はとりあへず潤沢。詰まるところ沢木まゆみの、造形美の領域に突入したエクストリーム裸身を大人しく撮つてさへゐて呉れれば、濡れ場は幾らでも満足なものになり、こそすれ。事終盤に至るにつれ、濡れ場尻を無体にブッた切るぞんざいさは大いに考へもの。殊に締めの一戦に一瞥だに呉れない姿勢を、裸映画に対する度し難い不誠実と難じざるを得ないのが、始末に負へない偏狭であると理解してはゐるつもりだ。逆の意味で深い感銘を受けたのは、五十分を跨いで修二が再び歌舞伎町に赴く予想外の行動を通して、真崎優が電撃の再登場。を果たしたにも関らず脱ぎもしないのはまだしも、遣り取り的にも殆ど全く何もしない極大の拍子抜けには度肝を抜かれた。完全に一幕・アンド・アウェイの御役御免かと高を括らせておいて、最終盤あるいは土壇場に再び飛び込んで来た裸要員が、展開上極めてタクティカルな一撃を放つ。ピンクで映画なピンク映画的に、格好かつ鮮やかな大逆転シークエンスの好機であつた筈なのに。途夢待人、もといトム・ウェイツを捩つたにさうゐない、上井勉の名前が最初に登場するのは恐らく、今岡信治前作「OL性白書 くされ縁」(2000/主演:黒田詩織/何処か配信してねえかな)の脚本協力。以降は多分2004年頃まで番外俳優部か協力で、国映作のそこかしこに参加してゐるに止(とど)まる上井勉に、どうやらその辺りの頓着が清々しくなかつた模様。枝葉ぽくも思はせ、案外重要かも知れないのが、要は心なしか元気になつた文夫―だから違ふ人なんだけど―が帰つて来た途端、ゴキゲンのなずなから掌返しに愛想を尽かされ、さうなると怒るのも無理ない敦がポップな痴話を拗らせた挙句、その場にあつた鉢植えを上手いこと頭の上に載せる。如何にも今岡信治的な奇行とはいへ、それで一々キャッキャキャッキャ喜ぶほど、当サイトは甚だ無粋者につき訓練されてはゐない。ひ、とまづ。沢木まゆみ様の美麗なオッパイを一杯堪能出来る時点で心は大いに満たされるものの、地域によつては先に封切られてもゐる、二週間後の第二作「高校牝教師 ‐汚された性‐」(エクセス/主演:仲西さやか)共々、首を縦に振るには些か至らない一作ではある。一見真逆のアプローチを採つてゐる風に映りながら、図らずも似たやうな手応へに着地してゐる辺りに、消極的か窮屈な形で作家性が窺へなくもない。


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