真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「多淫痴情妻」(1996『濡れまくり痴情妻』の2007年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/配給:新東宝映画/監督:珠瑠美/企画:中田新太郎/撮影:伊東英男/照明:石部肇/音楽:プロ鷹選曲/効果:協立音響/美術:衣恭介/編集:井上和男/助監督:近藤英総/現像:東映化学工業株式会社/録音:ニューメグロスタジオ/出演:泉由紀子・杉原みさお・竹田雅則・ホッチャ・真央はじめ・途夢待人・中田新太郎)。脚本も珠瑠美の筈なのだが、本篇クレジットからは抜けてゐる、クレジットするまでもないといふことなのか。それと出演者中、中田新太郎は本篇クレジットのみ。
 何といふか、どう表現すればよいものやら。一言で片付けると、恐ろしい映画である。
 一人社内に残り残業中のOL(泉)、どうも泉由紀子のアフレコが別人臭い―再見注:明らかにアテレコ―のは、この際それどころではないとしても一応触れておく。漸く帰宅するかとした泉由紀子は、エレベーターの中で強姦魔(中田)に犯される。毎度毎度の蒸し返しではありつつ、濡れ場の最中の、妙にテイストを変へたイメージ・ショット?の挿入具合が、珠瑠美の映画は何本観てもまるで理解出来ない。恐らくは意図的に、あるいは執拗に以降も繰り返される点からしてみるに、全く意味がない、とは逆に思いひ難いものの。逃げるやうに、といふか実際に逃げながら会社を後にし乗り込んだ通勤電車で、泉由紀子が今度は痴漢される。痴漢氏は途夢待人、漢字だけだと伝はらないかも知れないので、読みは“トム・ウェイツ”。帰宅した泉由紀子は、エロ絵師の夫(ホッチャ/誰の変名なのか)と夫婦生活。強姦―と電車痴漢―された心の傷は、何万光年彼方の外宇宙へと消えたのか。珠瑠美の映画を真面目に観てゐると、悲しくなる前に頭がクラクラして来る。泉由紀子はホッチャの仕事のためにどんなポーズでも取るは、好きにしてだとかいひつつ、同じカットの中で翻意する、もうどうにでもして呉れ。今回遅ればせながら理解した、珠瑠美の映画を最後まで観通すには、早目の諦めが肝心だ。場面変つて筋トレ用の器具の揃つた部屋、終了した撮影会から一人残つた若いカメラマン(真央)の下に、アーパー・コンパニオン略してアーパニオン(杉原)が戻つて来る。アーパニオンは全裸でマシンに跨ると真央はじめを誘惑、セックロス。何時まで経つても見えて来ない明確な物語の筋に関しては、ここで結論をいふと、そんなものは存在しない。ホッチャは旧友(竹田)と再会、ホッチャと竹田雅則は若かりし頃互ひに痴漢の腕を競ふ火遊びに興じた時期があり、竹田雅則の細君はその時の女で、ついでに杉原みさおであつた。ピンクに於いては半ばデフォルトの、劇中世界の清々しい狭さがスパークする。竹田雅則は若い頃の夢であつた、ライトバンを座敷代りに走らせての乱痴気騒ぎを遂に実行に移すべく、ホッチャを夫婦交換に誘ふ。杉原みさおは車の運転手に真央はじめを呼ばうとするが、杉原みさおの淫乱ぶりに恐れをなした真央はじめは、運転役を悪友に代る、その悪友といふのが再び登場する中田新太郎。中田新太郎が流すバンの中で、飲み食ひする二組の夫婦、やがてスワップ、そしてENDマーク。

 ひとつひとつのセンテンスを掻い摘むと百歩譲れば何が何だか必ずしも判らぬでもないにせよ、逐一目を通してみたところで、話の全体像はてんで見えて来ない。要は“センテンス”を“シークエンス”と読み換へて頂ければ、即ちそれが偽らざる今作の実相を表す。さういふ、恐ろしい映画である。まるで夢でも見てゐるかの如く、場当たり的なシークエンスが漫然と連なり、観客を煙に巻いたまゝ唐突に、あるいは強制終了でもするかのやうに終幕を迎へる。木戸銭を落として映画を観に来てゐて、しかも福岡から八幡まで、込み上げて来るのを禁じ得ない地味な敗北感は何なのか。ズタズタに鋏を入れられた挙句に、滅茶苦茶な再編集を施された洋ピンを観てゐる時のやうな気分。といふと、我ながら珠瑠美の映画を最も明快かつ的確に評し得たやうな気もする。さうか、珠瑠美は日本人出演者による洋ピンを志向してゐたのだ。最早さういふ辺りにでもしておいて呉れ。しておかうよ、御同輩。
 そもそもが、新東宝は何をトチ狂つて、斯様な代物をこの期に改題新版公開などしてゐやがるのか、他にすることもあるぢやろに。


コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
Unknown (通りすがり)
2021-05-13 19:07:45
杉原みさおのファンなら観て損無しです!

スワッピングの前にポッキーと乾きモン肴にウイスキー飲みながら談笑してる4人観てて
涙が出てきそうになりました。。。今こんな事してたら糾弾されそうで。。。(´;ω;`)

自分は酒も弱いし雑談も苦手だけどw
 
 
 
>杉原みさおクラスタ必見 (ドロップアウト@管理人)
2021-05-13 23:24:56
 好きな女優の何てことないシークエンスが、にも関らず琴線を激弾きする。
 判ります、そのエモーション共有します。寧ろそれが一番大事(`・ω・´)

 かも   >断言しろよ
 
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