真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「はめ堕ち淫行 猥褻なきづな」(2020/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/撮影監督:田宮健彦/録音:大塚学・柳田耕佑/編集:山内大輔/音楽・効果:project T&K・AKASAKA音効/助監督:江尻大/制作進行:泉知良/撮影助手:末吉真/特殊メイク:李華曦/特殊造形監修:土肥良成/森羅万象スタイリスト:大石幸平/ポスター:本田あきら/エキストラ協力:長谷川千紗・河合夕菜・有志エキストラの皆さん/撮影協力:喫茶 マリエール・ステージドア/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:佐倉絆・桜木優希音・並木塔子・森羅万象・石川雄也・可児正光・安藤ヒロキオ・須藤未悠・泉正太郎・井尻鯛)。
 タイトル開巻、騎乗位で乱れる佐倉絆、ではなく。下になつた森羅万象の頭頂部を真上が真横になる画角から抜いた画に、エンドとは可児正光と安藤ヒロキオの順番が入れ替る俳優部と、山内大輔だけを抜粋したクレジット。ex.OLの泡姫・ミユキ(佐倉)が想起する、プロのヒモを自認する三沢(森羅)との出会ひ。目下専ら御馴染の喫茶「マリエール」(新宿区歌舞伎町二丁目)、ミユキは三年付き合つた五歳年下の彼氏・サトシ(可児)から、悠香(須藤)に心を移したゆゑの別れを告げられる。本職は写真部の須藤未悠が山内大輔2017年第三作、にして復活後の大蔵怪談映画第六作「女いうれい 美乳の怨み」(主演:佐倉絆)と、小関裕次郎デビュー作「ツンデレ娘 奥手な初体験」(2019/脚本:井上淳一/主演:あべみかこ)に続いて地道に三戦目。泉正太郎が一人で店を回すマスターで、背中につきバストならぬバックショットしか見せないその他客は有志か。半ば呆れ果てたミユキはサトシの他愛ない抗弁には耳を貸さず、カウンター席で元人妻のこちらも泡姫・灯里(並木)が何気に自ら秘裂に指を這はせ、そんな灯里の口内を三沢がスプーンで掻き回す、カップル喫茶ばりの豪快な痴態に目を奪はれる。脱ぎこそしないものの、何気にマリエールでの史上初絡み。サトシと悠香が辞したのち、一応泣いてはみるミユキに声をかけた三沢が金はおろか家もなく、そのまゝといふか何が何だかな勢ひで、ミユキの家に転がり込む。さういふファンタジーにせよ途方もない大飛躍をも、カット跨ぎの濡れ場で何が何でも兎に角遮二無二固定してのけるのは、ピンク映画ならでは、あるいはピンク映画にのみ許された横紙破りの力技。
 しがない勤め人の稼ぎでは三沢を食はせられず、ミユキは三沢の知人が店長を務める泡風呂に転職。配役残り、井尻鯛(a.k.a.EJD)が件の「新世界」店長。ミユキは新世界で先輩として灯里と再会し、ソープテクニックを伝授されがてら、話は灯里の来し方に。石川雄也が、無職かつDVのコンボを決める灯里元夫。元と夫の間に、クソが抜けてるぞ。河合夕菜は灯里が働いてゐたスナック「スミレ」のカウンターを任せられるホステスで、過剰に化粧の濃い長谷川千紗が矢張りママ。奥のボックス席に見切れるのも、マリエ同様有志か。三沢は左目が潰れるほどex.ダーリンを半殺しにし、灯里と離婚させる。安藤ヒロキオは、ミユキに文字通り感涙する新世界のピュア客・鈴木。そして、イズショーは店を空けるマリエールにて、店を任された三沢と出会ふ桜木優希音が、当時女子大生アルバイトの愛未、専攻は社会福祉学。愛未も愛未で、その後三沢の知人が店長を務めるデリヘルに。純然たる余談ではあれ我慢出来ずに噛みつくが、可愛らしい名前でも思ひついたつもりか“愛未”ぢやことの、全体親は何をトチ狂ふてをるのか。元来日本語に於いて愛だなどと頭に性をつけた性愛と限りなく同義の、どちらかといはずとも粘度の高い美しくも清らかでも全くない寧ろ正反対の言葉で、あまつさへ“愛”に重ねて“未”。情欲にすら至らないと来た日には、斯くも自堕落極まりない名を与へるから、娘が恐らく大志を懐いて学問をしてゐる筈であるにも関らず、禿て肥えた中年男にコロッとチョロ負かされた挙句、春を鬻ぐ破目になつてしまふのだ。なんて、時には保守じみた戯言も捏ねてみたり。
 三月初旬に封切られた山内大輔2020年第一作は、一年前より2020年三月末での引退を表明してゐた佐倉絆のラスト・ピンク。2021年第一作「淫靡な女たち イキたいとこでイク!」での、カメオぶりは果たして如何なるものなのか。
 公開題にまで佐倉絆の“きづな”を無理から気味に盛り込む割に、序盤から先行し中盤を任せられる三番手と、終盤まで結構温存する二番手にも十分に尺を割く。涼川絢音に対するやうに僅か一言の別れを述べるでなく、朝倉ことみ引退記念作品と初めから堂々と銘打つた、実は佐倉絆の初陣でもある「ぐしよ濡れ女神は今日もイク!」(2017)で花道映画を完成させた印象の今なほ強い山内大輔にしては、思ひのほかアッサリしてゐるどころか、最後を匂はせる何某かが案外皆無であつたりもする。一方、フィルムと比べての遜色を相当感じさせない、オープン撮影の綺麗さ―所々、不用意な屋内は相変らず暗い―は光りつつ、要は単なる体のいゝ女衒譚に過ぎない、物語自体は実のない屁の如き代物。かといつて、糞を放(ひ)れといつてゐる訳ではない、断じて。木に竹を接ぐ徒なバッド・テイストも、オーピーは山内大輔の持病を後生大事に放置してゐる場合でもなからう。下手な鉄砲を、滅多矢鱈に撃ち倒せる時代なんてとうの昔に終つてゐる、その認識がこの期に大蔵にはないのか。裸映画的には一見水準的に見せ、直截にいふと山内大輔が水準に納まつて貰つてゐては困る。何時以来か忘れるほど久々裸映画を振り抜いた、エクストリームにどエロい前々作「若妻トライアングル ぎゆつとしめる」(2019/主演:きみと歩実)を想起するに、山内大輔はまだ前に押し込めるギアを一つ二つ残してゐる。四の五のいふな役立たず、何でか知らんけどオッサンが三百花繚乱の女優部三本柱からモテまくり、ヤリ倒す。その、よしんば怠惰であつたとて甘美な夢に、何故貴様は大人しく微睡まぬ。さういふお怒りも飛んで来さうだが、その手の底を抜くか人肌なエモーションを志向するには、少なくとも今回の山内大輔は些か硬く、冷たい。絶妙に劇中虚実を濁す、ラストも悪癖の一言で片付るとそれなりに纏まつてゐるやうにも思へ、最終的に何を最もやりたかつたのかよく判らない、物足りないか漫然とした一作ではある。


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